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 イレッサ薬害被害者の会

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■イレッサとは
手術不能、または再発非小細胞肺がんに対して延命を目的とする、分子標的薬といわれる錠剤タイプの抗がん剤です。
2002年1月25日、アストラゼネカ株式会社(本社・イギリス・・日本本社・大阪:北区)から、夢のような新薬といわれた抗がん剤「イレッサ」の承認申請が厚生労働省に提出、申請から承認までに用した期間が僅か5ヶ月という異例の短期審査で、2002年7月5日承認され販売が開始されました。
販売名:イレッサ  一般名:ゲフィチニブ  (治験開発名:ZD1839)
承認申請:2002年1月25日
承認:2002年7月5日(承認申請から僅か5ヵ月の短期審査で承認)
保険適応:2002年8月30日
販売当初一錠の価格:7216円 ・・現在の価格:5,323円 
添付文書は改訂を重ねて23版)
イレッサ」の特徴は、分子標的薬といわれる錠剤タイプの飲み薬です。
作用機序は、ガン細胞にある異常な働きをする分子を探し出して、その分子に取り付くタンパクだけを攻撃してがん細胞の増殖を止め転移を抑えるというもの。
既存の抗癌剤治療が、全身に浸透させて病巣を叩くという点滴による抗癌剤投与とは異なり、健康細胞は壊さないまったく新しいタイプで、副作用も殆ど無く手軽に自宅でも職場でも服用出来て延命の効果は大きい」と紹介されました。
この余りにも大きな前評判の高さと、承認時に出されていた治験データから、素晴らしい薬の登場と判断した当時の坂口厚生労働大臣は、「早く使用したいと待ち焦がれている多くの患者たちに、この薬を一刻も早く届けたい」として、承認(2002年7月5日)から保険適応(2002年8月30)までのタイムラグ解消が必要と、日本の医薬品では初の、特定療養費制度を適用して、保険で購入できるまでの期間、一錠9.000円と自費ではあるが混合診療を許可すると言う異例の措置が取られました。
抗がん剤では初の錠剤タイプということから、これまでの治療では出来なかった自宅で手軽に服用できる新しいタイプの分子標的薬ということ、そして何より、既存の抗癌剤と比較して副作用が軽く、その副作用も服用を中止すると改善するとされていたために、使い勝手の良い薬として医療機関に浸透し、結果、医師の管理がない中での自宅投与が多く行われました。
また、抗癌剤治療には特有の副作用である間質性肺炎の発症が、既存の抗がん剤と比して高いという事実が臨床の現場には伝えられることなく、まさに夢の新薬として、危機感のないままに処方されたこと等が原因して特有の副作用である間質性肺炎による被害が全国規模で発生、しかしその対応に遅れが生じ死亡被害が拡大してしまいました。
これを重視した厚生労働省は、各・医療機関に慎重な使用を呼びかけ、開発・販売元であるアストラゼネカ社に対しては、使用に対し重大な警告を促す、「緊急安全性情報」の発出を指示する事態へと発展しました。
販売が開始されて僅か2ヶ月後のことです。
イレッサが登場した当時、日本の抗がん剤治療は、欧米と比して10年は遅れていると言われていました。
2002年当時,標準治療薬として世界で使用されている抗がん剤は200種類ほどあると言われていましたが、日本ではその内の30数種程度しか承認されていません。使用出来る抗がん剤の数が少な過ぎるという背景の中、患者たちは限られた抗がん剤の中から治療を受けなければなりません。
その治療は、主に、点滴で抗がん剤を全身に浸透させてがん細胞を叩く方法が最も多く行われていますが、この治療法は、ガンに侵されていない健康な細胞にも薬が行き渡る事で、身体に大きなダメージを与え患者によっては余命を縮める一つになっているのも現実です。ダメージを与える原因の副作用としては、吐き気、おう吐、脱毛、食欲不振、白血球減少などさまざまですが、これまでは、治療を受ける以上はある程度の副作用は仕方がないものとされて、医師に副作用の軽減を相談しても我慢しなさいと言われて取り上げてもらえなかったという不満は、がん治療を受けた殆どのご家族で経験されていると思います。患者は、延命を願って辛い副作用に耐え続け、予定された抗がん剤治療が終了すると、次に使用できる抗がん剤はなく治療の術がありません。
主治医より、「 ・・あなたには全ての治療を施しましたがこれ以上治療に用いる抗がん剤はありません。自宅療養に切り替えるか、緩和医療への選択をして下さい・・」と言われて、この時点で退院を強いられ患者たちの多くが見捨てられてきました。この問題は、現在ではかなりの改善がなされてきましたが、これが、がん難民という言葉まで生まれた日本における抗がん剤治療の現実です。ターミナル-ケアへの道は最後の選択であって、絶対に諦めたくない、薬を用いての治療を続けて欲しいと願うのはすべての患者共通の思いですが、ガン治療の現状は厳しく、患者たちは自ら次の治療への模索を始めなければなりません。
■イレッサの誕生 < 参考資料・・イレッサ承認時の審議会議事録(2002年6月12日) >
「イレッサ」という薬が日本で頻繁に紹介され出したのは、発売される一年ほど前、2001年の半ば頃からです。
当会で調査した「イレッサに関するさまざまな報道」をご覧下さい。治験ではまだ腫瘍の縮小効果について研究が行われている段階、この頃から盛んに医学雑誌や新聞各紙において、画期的な肺がん治療薬・新薬の登場等と紹介記事が頻繁に大きく掲載され始めて、この紹介記事の何れもが驚異的なものばかりで、すぐには信じられないものでしたが、多くの専門医を登場させた紹介記事に誰疑う者もなく、まさに夢のような新薬登場のニュースに、一日も早い販売をと臨床の現場の医師たちが、多くのガン患者が、家族が販売を待ち望みました。
そして・・・、"近々販売されるらしい"との情報を、ある者はインターネットの掲示板で知り、ある者は医師から聞かされ、ある者は新聞や雑誌、友人からと、瞬く間に全国に浸透して、待ちに待った、希望の薬・イレッサの発売が開始されるや、ガン患者がこぞって服用に至った経緯には以下のような点が挙げられます。
副作用が少なく延命効果が大きい画期的な新薬とさまざまなメディアで報道されたこと。
承認申請から僅か5ヶ月で国の承認を受け、保険適用までの期間を医薬品では初の特定療養費制度を適応した販売が行われたことで・評判通りの薬であるとの期待感が増大したこと。
使用に際して主治医からは副作用が少ない素晴らしい薬と患者には説明されていたこと。
患者に示された使用承諾書には、それぞれの副作用は軽微で間質性肺炎の発症等がみられるが服用を中止すると改善する,と記載されていたこと。
いつでも何処でも手軽に服用できる錠剤タイプということから職場でも自宅でも癌治療ができると広がったこと。
この「イレッサ」が、販売開始され,危険情報を知らせる緊急安全性情報が出されるまでの2ヶ月の間に、9千人もの患者に投与されたということから見ても、この薬に対する期待は異常とも思える広がりで、「副作用が少なく自宅でも職場でも少しの水で手軽に服用できて、奏効率は従来の抗がん剤と比較すると何倍も高い、この薬を服用した患者でガンが半分以下に縮小」、「がん患者たちがこぞって飲みたい薬」等の賞賛記事。ネットの掲示板などの書き込みには、「既に海外から取り寄せて服用していますが副作用はまったくありません」、「ステージ4と言われたがんが消えました」、「おかげで職場復帰できました」等などの喜びのメッセージ。これらは患者たちをひきつけ、「イレッサ」は瞬く間に全てのガン患者たちの救世主的存在となっていったのです。
■夢の新薬・希望の薬といわれて
「イレッサ」は、いつ頃から"夢の新薬"と言われるようになったのでしょう。何故、"希望の薬"と大きな期待が寄せられたのかについては、先にも述べましたが・・2000年6月頃から頻繁に紹介され出したさまざまな記事に起因しています。
●発売前から出されていたイレッサに関する効果情報
2000年6月23日・化学工業日報、「抗癌研究、新規因子標的の研究進展、米国臨床癌学会で相次ぎ報告」
・・英アストラゼネカが精力的な開発を進めている選択的EGF受容体阻害剤「ZD1839」(製品名・イレッサ)は、非小細胞肺がんを対象にして初期データながら有意な臨床報告が発表された。今後、適応対象の拡大を含めて、欧米での臨床開発が注目されそうだ。
「2001年8月9日・読売新聞 「イレッサ・病巣狙い撃つ新薬」の記事
「2001年10月2日<株式会社じほう>・・近畿大・中川氏 抗がん剤ZD1839の臨床試験状況を報告ZD1839は上皮性細胞成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)で、分化、転移、浸潤などに関与するEGFRの細胞内の信号を大本でブロックする新しいタイプの抗がん剤。用量制限因子はいずれの試験でも下痢だった。その他の毒性として皮疹、肝障害が認められたがすべて一過性だった」。
2001年10月5日<朝日新聞社 東京夕刊>・・「がん克服へ新戦略続々 基礎研究から治療現場へ 日本癌学会総会・・分子標的治療 激しい副作用を防ぐ」。
2001年10月25日・イレッサに関して行われた対談(医学雑誌・メディカルトリビューン)
愛知県立病院院長(当時)・有吉寛氏と近畿大学医学部講師(当時)・中川和彦氏が、承認・発売前のイレッサについて対談。
2001年11月22日・イレッサに関して行われた対談(医学雑誌・メディカルトリビューン掲載)
2001年11月22日・イレッサに関して行われた対談(医学雑誌・メディカルトリビューン) ・カラー版
国立がんセンター中央病院内科部長(当時)・西條長宏氏と名古屋市立大学医学部教授(当時)・上田龍三氏の対談
2001年11月2日・朝日新聞社東京朝刊「新抗がん剤、肺がん治療に高い効果 近大など臨床試験
・・この抗がん剤は、英国のアストラゼネカ社が開発した飲み薬「ZD1839」(商品名・イレッサ)で、がん細胞の増殖に関係する酵素の働きを妨げる「分子標的薬」の一つ。正常な細胞も攻撃するこれまでの抗がん剤と異なり、がん細胞のみを狙い撃つ。肺がんには、抗がん剤が比較的効く小細胞がんとあまり効かなかった非小細胞がんがある。昨年暮れから日本と欧州の8カ国で、非小細胞肺がんの患者208人を対象に、薬の効き目などを調べる「第2相試験」が続けられていた。日本では、重症の102人がこの薬を飲んだ。日欧合わせた結果では、患者の半数以上に、がんの進行が止まるなどの効果が見られ、全体の約2割では、がんの大きさが半分以下に縮小した。がんによる痛みが軽くなるなどの患者が実感できる治療効果は平均約8日で表れた。 副作用では、発しんや下痢が出た例もあったが、従来と比べて、大幅に改善されている。」との記事。
2001年11月7日の株式会社じほう 「イレッサの奏効率18.7% 今後は併用療法も検討
・・第42回日本肺癌学会総会で近畿大の福岡正博教授が講演、近畿大第4内科教授の福岡正博氏は2日、大阪市で開かれた第42回日本肺癌学会総会の基調講演で、新規抗がん薬「イレッサ」(ZD1839)のフェーズ(P)2の結果を発表した。この試験は国際共同治験として実施されたもので、前治療無効の進行非小細胞肺がんを対象に、250mg/日および500mg/日の用量別に有用性が比較された。速報結果によると、有効性、安全性とも両群間に差はなく、全体の奏効率(著効+有効)は18.7%だった。福岡氏は、同剤の至適用量は250mg/日と考えられると述べ、非小細胞肺がんを対象に来年中には日本で承認されることになるだろうとの見通しを明らかにした。ZD1839は、1日1回経口投与の上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤。近年注目を集めている分子標的抗がん剤のひとつで、非小細胞肺がん以外にも、乳がん、直腸がん、胃がん、ホルモン抵抗性前立腺がんなどを対象にP2が実施されている。非小細胞肺がんを対象に昨年10月から実施されたP2には、日本から102例が登録された。最短4か月間フォローアップされた208例での解析では、奏効率は250mg/日投与群(103例)=18.4%、500mg/日投与群(105例)=19.0%と両群間に差はなかった。病勢進行がみられなかったケースも含めた全体の病勢コントロール率(著効+有効+病勢安定)は52.9%で、副作用は下痢、皮疹などの比較的軽度なものが多かった。また、全体の約70%で投与8日目までに症状の改善がみられた。
2002年5月25日、「読売新聞東京朝刊・肺がん新薬ゲフィチニブ異例のスピード承認へ/薬事審 ・・肺がん細胞の増殖を抑える新薬「ゲフィチニブ」(商品名イレッサ)について、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会は24日、輸入を承認する方針を決めた。上部委員会の審議を経て、正式に承認される見通し。ゲフィチニブは英国の製薬会社「アストラゼネカ」が開発。今年1月輸入承認が申請され、異例の速さで手続きが進んでいる。この薬は、がん細胞の増殖にかかわるレセプターに直接作用する薬で、正常な細胞に大きな影響がなく、副作用が少ないという。」
上記に示すように、アストラゼネカ社が提供するイレッサ関連の記事は、専門医、雑誌、メディアを通じて広まり、学術記事、学術の対談とされながら、日毎に患者たちに浸透してその期待は膨れ上がり、発売はまだか、早く販売開始して欲しいと、がん患者たちの願いがいつしか「夢の新薬」、「希望のクスリ」と言われるようになっていきました。
抗がん剤に限らず、他の難治性の病に使用される薬剤についても同様ですが、夢のような新薬とか、副作用が無い薬など未だ存在するはずがないことは、ある程度、治療を経験した患者やその家族たちは少なからず理解しています。それでも尚、このイレッサは副作用が少ないと伝わり、それを信じてイレッサを使用したのには・・日本でも著名な腫瘍専門医や大学病院の研究機関による推奨とも思われる記事を目にして、この情報は信じられる確かなものと、漸くガンを征圧する時が来た、と疑いようのない情報であると信じたことが大きな要因となっています。これらの情報は、瞬く間にガンを患う友人に知らせ、我が親に、我が子に、妻に、夫に、自らも信じてと、何一つとして警戒感を持たないままに服用し、結果として、副作用が発症する体質を多く有した患者にとっては防ぎようもない、地獄のような呼吸苦の中で亡くなっていくという、「儚い夢の新薬」となってしまいました。
■日本の抗がん剤事情
日本で、抗がん剤が承認・販売されるまでには、動物実験などの試験(人を対象としない生物医学的試験研究)を経て、次に第T相試験でガン患者を対象として安全性を調べます。第U相臨床試験でガン患者を対象にして安全性や有効性などの試験を行い腫瘍の縮小効果などの臨床試験を行います。腫瘍の縮小効果が認められると、国に対して承認申請が出されます。承認審査の結果、国の承認を受けると第U相の臨床試験が終わった段階ではあるのですが販売が許され、臨床の現場の中で患者に使用しながら第V相の試験が進めらることが許されていました。一般の薬の開発では、第V相臨床試験の段階で安全性が確保されなければ承認されることはありません。しかし、抗がん剤の場合は第V相の治験は医療現場の中で、患者を対象にして販売が許されながら行われていたという点が他の医薬品との違いで、多くの患者にはこのような方法が行われていることを知らされることはありません。( 現在では、新しい抗がん剤を承認する際の臨床試験(治験)で、患者の延命効果の確認を義務づけ、抗がん剤の治験結果の評価指針を2005年11月改訂。従来は腫瘍の縮小効果が認められれば原則的に承認していたが、欧米並みの基準にすることで世界に通用する抗がん剤の開発につなげる。)と2006年4月より改訂されました。
使用出来る抗がん剤の数は少ない、副作用に精通している専門医は数えるほどしかいない(2002年当時のがん医療に携わる専門医は全国でも20数名、2006年で124名と報告)。治療による副作用の吐き気や嘔吐は我慢するのが当たり前と無視され、副作用が大きいほど効果があると、副作用の軽減など重要視されなかったことで、患者には多くの負担が強いられて結果は健康細胞までも壊してしまう。このような日本の貧困ながん医療の現実が、分子標的薬というネーミングと、副作用の少ない飲み薬であるという手軽さも手伝って過度の期待を寄せたことは否めませんが、後に思えば、科学的な証明は二の次にして患者の期待感を巧みに利用したこの「イレッサ」の販売方法は、利益追求を第1とした製薬企業が、抗癌剤の治療過程における死亡等を含む重篤な副作用被害に関して、患者側には訴えることは出来ないという現行の制度を承知の上で、必然的に起こされた薬害被害といっても過言ではないでしょう。
●イレッサに関する主な出来事
2002年 1月25日 アストラゼネカ社、イレッサの輸入申請を厚生労働省に提出。
2002年 7月 5日 承認申請から僅か5ヶ月で、世界に先駆けイレッサが医薬品として初の国の承認を受ける。
2002年 7月16日 特定療養費制度が初適用されて一錠9.000円で販売が開始される。
2002年 8月30日 保険適応となり一錠の価格7216円で販売が開始。
2002年10月15日 副作用による死亡被害多発。厚労省が緊急安全情報を発出し服用への注意を促す。
2003年 2月 7日 販売開始から僅か5ヵ月で副作用死が173人と厚労省が発表。。
2004年12月17日 アメリカ・FDA(食品医薬品局)が「イレッサは延命効果がない」と声明文を発表。
2005年 1月 4日 アストラゼネカ社が、ヨーロッパ各国に出していた承認申請を取り下げると発表。
2005年 1月25日 第1回イレッサ検討会開催・被害拡大が続くイレッサの問題について厚労省が検討会を開く。
2005年 3月24日 平成14年7月5日から平成16年12月31日までのイレッサの国内出荷量は、約554万錠、推定累積患者数42.000人。死亡588例とアストラゼネカ社が発表。
2005年 3月25日 イレッサ・継続使用を厚労省が認める。第1回〜第4回のイレッサ検討会で審議された結論として、「がん細胞に特定の遺伝子変異のある人や女性、非喫煙者などに対しては、スーパーレスポンダーといわれる大きな効果が見られる患者群がいる」として、イレッサの継続使用を認める結果が出される。
2005年 6月17日 FDA(米・食品医薬品局)が、イレッサの新規患者への投与は原則禁止の措置を発表。
2008年 5月5日 イギリス・アストラゼネカ社は、欧州医薬品庁(EMEA)に認可再申請を行ったと発表。
2009年 7月1日 欧州で承認される。アストラゼネカ社の自国・イギリスで漸くイレッサが承認を受ける。
2010年11月10日 イレッサによる被害数が厚生労働省より発表。副作用被害者数は2179例で、内・死亡被害者数は819人に上る。
2011年 2月 1日 アストラゼネカ社が、米国で販売のためのイレッサの承認申請を取下げると発表。
アストラゼネカ社はアメリカ・FDAに対して、2011年9月30日をもってイレッサの承認申請を取り下げると通知,今後アメリカにおいて追加承認申請は行わず市場から完全撤退を発表。
2011年 11月 1日 「イレッサ」への保険適用は対象者限定・・患者に事前の遺伝子変異検査を義務づけ、特定の遺伝子変異のある人に限り、原則的に公的医療保険が適用されることになった。厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会が31日、対象者を限定するよう変更することを決定。
■間質性肺炎の発症
「イレッサ」の副作用である、肺障害・間質性肺炎の発症をいち早く予見することは難しいと言われています。この薬を服用している者すべて肺がんの患者ですから、日頃から息切れや微熱は多少なりとも出易い状態にあり、日常生活の中で細かく注意をはらい少しの変化も見逃さないようにと気を付けて注意しても、この間質性肺炎に気付くのは難しく、発見された時は手の施しようのない重篤なケースになる事が多いと言われています。
2002年10月15日に出された
緊急安全性情報
2002年8月30日に保険適応薬として販売が始まって僅か45日、2002年10月15日の新聞、夕刊各紙は、イレッサ服用の患者の多くに副作用による間質性肺炎が発症して既に死亡13例が報告されている。今後も拡大することが予想されるので各医療機関では慎重な使用をと、厚生労働省が緊急の会見を開いて、注意を呼びかけると共に、重篤な副作用情報を伝える「緊急安全性情報(ドクターレターとも言われる)」が発出されました。
当時、「イレッサ」を処方した殆どの医師が、服用患者のすべてが、製薬会社から出されていたイレッサ情報の全てを疑うことなく信じきって服用続けています。ところが、服用から数日で、数週間で、多くの患者が原因不明の呼吸困難に襲われ、自宅服用している者で異常に気付いた患者たちは運良く緊急入院し、医師から応急措置であるパルス・(ステロイド)療法を受ける事ができました
が、この異常事態に気付かなかった患者本人や家族たちは、悪化していく症状について一体何が起きたのか分からず風邪をひいたのだろうか、まさか? ガンが一気に悪化したのだろうかなど不安の中で時を過ごし、早期対処の機を失う結果となってしまいました。
製薬会社のアストラゼネカ社が公開していた情報によると、「イレッサ」は、・・副作用がほとんどないので家庭でも安心して使用ができる夢のような薬といわれていたもので、重篤な肺障害・間質性肺炎が起きるなど患者側が知る由もなく、説明も受けていない服用患者にしてみれば突然の呼吸苦など思いもよらない出来事です。ほとんどの医師たちも同様で、この症状を結核か、カリニ肺炎?、感染症などを疑い、それが原因した急激な容態の変化ではないかと考えた医師も少なくありませんでした。処方した医師ですらこの有り様なのですから、患者も家族もはっきりとした被害状況の説明すら受けられず、苦しそうに喘ぐさまをただ傍観しているだけで時を費やすしか為す術がなく、重篤な症状の発見が遅れて、取り返しのつかない事態となってしまいました。 
■副作用死の現実
2002年10月15日、突然の「イレッサ」の副作用報道は衝撃でした。当時の新聞各紙は一面トップに、「肺ガン治療薬・イレッサ・副作用で13人死亡・今後も被害拡大の見込み」と各紙が大きく報じ、患者たちは恐怖し、臨床の現場は驚きと不安が広がりました。厚生労働省は、各医療機関や服用している患者、家族に対して、動揺する必要はないと注意を促しただけで、この時点では、自宅服用患者の連絡の徹底、患者の容態を見極めた一時使用停止等、表立った対策は取られませんでした。死亡被害の第一報に続き、2002年10月26日・副作用死39人と報道されたことで、漸く重い腰をあげた厚生労働省は、製薬会社のアストラゼネカ社に対して遺憾であると表明。しかし、12月5日の新聞記事は副作用死81人と拡大して、この年2002年の暮までには100人を越す被害が出るのではないかと懸念される事態となって、事の重大さに気づき始めたという、対応については決して最善とはいえない生ぬるいものでした。
平成14年7月〜平成24年3月現在月別報告件数、
死亡件数 (2012年5月・厚労省発表)
明けて2003年2月7日の新聞各紙の見出しには173人が副作用の間質性肺炎で死亡、と被害は拡大してガン患者たちの一部にはパニック
にも等しい状況も生じ、使用患者たちに大きな動揺が走りました。服用続けても副作用に見舞われることなく効果が得られていると思われる患者たち、瞬く間に苦しみながら死亡した被害患者遺族、処方していた臨床の現場、それぞれの三者三様の思惑が入り混じり、さまざまな軋轢も広がっていきました。
服用続けている患者にとっては何が起きているのか分からず混乱しているそんな時、臨床の現場でも同様の混乱が起きていました。被害にあって苦しむ患者・家族に対する医療側としての説明も、為す術がないといった状況で、・・・「既に処置の方法がありません。このまま患者さんを苦しめるよりは、薬による呼吸苦の改善を図ることが患者さんにとって最善の方法と思います」と説明を受けて、「呼吸苦の改善」と称する、ナチュラルコースといわれる処方をすすめられた患者も少なくありませんでした。通常であれば間質性の肺炎患者には禁忌である筈の塩酸モルヒネや同等薬の使用を促され、この呼吸苦から逃れるには「呼吸苦の改善」なるこの処方を受けるしかないと同意して亡くなって行った患者が多くいたという事実です。「夢の新薬・イレッサ」の華々しい情報を信じて、もう少し生きたいと願って服用した結果が、想像を絶する地獄のような呼吸苦に見舞われ、その最期に、自らが決断して、または付き添いの家族と共に決断して、積極的セデーション¹(※積極的セデーションとは・・、眠る薬を使って意識を意図的に落とし患者さんを耐え難い苦痛から解放することを目的とするが、同時に、安らかな死を迎えさせる最終手段として用いられる場合もあります。
著明な効果がある反面、その適応とタイミングをまちがえると、安楽死に近づく危険性もある。)を承諾しなければならない事態を迎え自ら命の灯火を消しています。家族は、生涯決して消すことは出来ない大きな傷を心の中に残すことになりました。この時点での服用患者は推計で12000人にも上っていたことから、一刻も早い対策と対応を図らなければ被害が拡大するのは明らかなときに、製薬会社のアストラゼネカ社ではどのような対応が取られていたのでしょう。一連の副作用報道に関するアストラゼネカの見解は、・・・「抗がん剤とは利益と不利益は表裏一体のもので、イレッサの添付文書(発売当時の第一版、副作用の項目の中程に肺障害の発症について記載して注意を促している。」と主張。また、抗がん剤治療の中ではある程度の副作用死は仕方がないもので、患者も覚悟して治療を受けるもので、今回の被害は、抗癌剤による死亡被害では予測の範囲内でそれ程高い数値ではない、とコメントし騒動の沈静化に躍起となっていました。
イレッサ添付文書(第1版) イレッサ添付文書(第4版)
■有事の際の製薬会社の説明責任
企業が、事件や事故等不祥事を起こすと、いつも決まって人命よりも会社の保身に奔走し、本来やらなければならない情報の収集や被害者への対応、拡大の防止等が後手になり対策の遅れが生じるのは今に始まったことではありません。このイレッサ副作用被害でも製薬会社のアストラゼネカ社は、「情報の収集に時間が掛かり、各医療機関へのフィードバックに遅れが出た。これは正確な情報を集めるためには当然必要なタイムラグで止む得ないことである」とコメントしました。しかし、この被害は対象が肺がん患者に起きた間質性肺炎の被害で、緊急性を要すると言う事を重視すれば、苦しみながら副作用に喘いでいる患者が多数いる事実を少しでも予測するならば、危機管理を徹底させて素早い情報の収集と伝達、開示することで多くの患者の命を救うことは可能であったと思われます。
「イレッサ」による副作用死亡の多くは、2004年末までの2年半に集中しています。販売が開始された2002年7月は、半年間で180人、2003年は202人、2004年は175人の死亡被害が厚労省へ報告されています。2004年末に薬害被害事件として提訴された翌年から死亡被害者は激減しているのは下記掲載の表の通りです。この死亡被害者が減少している件について、イレッサを推奨する医師や、アストラゼネカでは、メディアが被害を大きく取り上げすぎた事や訴訟が起こされたことで、「医師が訴訟を恐れて使用を見合わせた」。また、「患者が使用を怖がったために死亡数の減少となったと考えられるが、これは決して好ましいことではなく、使用していればもっと生きられたであろう多くの患者の命が身勝手なイレッサ訴訟で奪われた。」と、何の根拠もない偏った情報のみを信じ、痛烈な訴訟へのバッシングが行われました。
副作用報告一覧表(H15.7.30〜H16.11.30)
その一例を取り上げてみますと・・・、匿名者からの抗議の手紙。連日繰り返され
るチェーンメール。発信者の特定を避けるためのコンビニからのひっきりなしに入ってくるファックス。贈り物として届く汚物の瓶詰めなどなど。また東京・豊島区大塚北口にある診療所の医師U氏が自ら開設しているブログでは、「訴訟を起した患者遺族が患者の命を奪っている。」と述べて、このイレッサによる死亡被害はすべて使用した患者の責任であるのに損害の補償を求めるなど、とんでも家族である、どうせ賠償金目当てであるのは明らか・・・などと独自の主張で、訴訟原告へのバッシングを繰り広げています。このブログ記事は、この医師に治療を受けている患者やこの書き込み記事を信じている方たちにより他へのブログに拡散されバッシングは拡大、その結果は直接、訴訟原告宛に、または自宅宛への嫌がらせメールや郵便物、宅配荷物となって、懲らしめのためと称した嫌がらせは続けられました。
イレッサの販売錠数がこの時期、訴訟や服用を怖がったために減少したと作為的に広められ、多くの非難を受ける結果となりましたが、後に漸くイレッサの販売錠数が公表され、全く減少していないことが明らかとなるまでにはここから数年が費やされました。
イレッサの副作用による年次別死亡推移
◆イレッサによる間質性肺炎・急性肺障害の副作用死亡の推移◆
(2012年3月末現在・副作用被害者2305例、内、死亡被害者は847人)
 2002年 (平成14年7月〜12月) :180人  2008年 (平成20年) : 44人
 2003年 (平成15年) :202人  2009年 (平成21年) : 34人
 2004年 (平成16年) :175人  2010年 (平成22年) : 16人
 2005年 (平成17年) : 80人  2011年 (平成23年) : 23人
 2006年 (平成18年) : 52人  2012年 (平成24年3月末) : 3人
 2007年 (平成19年) : 38人
2012年3月現在・厚生労働省発表
 抗癌剤別 (分子標的薬)の売り上げ額推計
◆主な抗がん剤(分子標的薬)の年度別売上額推計 (2002年度〜2008年度)◆ 
単位・億円
販売名 製造販売元 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 2008年度
 イレッサ  アストラゼネカ 95 135 150 130 130 135 140
 グリベック  ノバルティス 90 170 210 260 310 350 400
 ハーセプチン  中外 50 70 90 110 145 160 240
 リツキサン  中外 61 80 80 175 180 185 210
 アバスチン  中外 - - - - - 35 200
 タルセバ  中外 - - - - - 5 45
※売上金額のデータは全て「薬事ハンドブック」2004〜2010 による。
※発表時期により,同年度の売上額が異なる場合は,公表時期の新しい売上額を使用した。
※2002年度のイレッサの売上額は、2002年7月から2003年3月末までのもの。
死亡被害者数についても、使用患者数が明らかでなければ死亡率の計算が出来ないのは言うまでもありません。当ホームページに於いて厚生労働省より報告のあった死亡数を掲載し医師の管理の下での慎重使用をとの思いで被害実数を掲載しているのですが、まったく根拠のない数字を掲載して誇大に被害を大きくしているに過ぎないとして、抗議の電話やメールが届きます。その中には、医療者を名乗る方もいて、・・多くの患者が使用している医薬品に対してはその報告数が真実であったとしても決して正しい行為とは言えないのではないか・・、とホームページの修正を求めるメールが届きます。このような掲載は不愉快と、訴訟原告たちや、イレッサ薬害被害者の会が極端に被害を煽り、イレッサを悪者にして裁判を有利に導こうとしているに過ぎない、というお叱りや意見が併せて多く寄せられています。確かにパーセントの基ともなる販売錠数や服用患者数は被害を計算する上で分母となるもので欠くことは出来ません。薬害被害において最も大切なことは、被害に罹っている患者数(死亡も含んで)は事実を明らかとした上で、使用しなければならない患者さんたちへの慎重な投与が求められるのです。問題薬剤を何錠販売したのかも明らかとしない。被害人数も厚労省の再三の要請をうけて後出し的に報告する。このようなことではますます被害者が増えるだけです。販売会社のアストラゼネカ社の姿勢は、頑なに販売錠数や服用患者数の開示は不可能であると拒否し続けていました。過去に一度、販売錠数と使用患者数を公表したことがありました。2005年1月20日に行われた、「第一回イレッサ検討会」の中で・・「平成14年7月5日から平成16年12月31日までのイレッサの国内出荷量は、約554万錠、推定累積患者数86.800人。被害死亡者数は588例である。」と発表がなされました。しかし、この推定累積患者数については、次回開催の「イレッサ検討会」において、・・先に報告したイレッサ服用患者数については計算ミスであった・・として、86.800人の半数の、42.000人であると訂正が行われました。この訂正の理由についてアストラゼネカでは、「そもそも医薬品における服用患者数や販売錠数の正確なデータを出すことは不可能である。」とイレッサ検討会の中で主張したのです。
薬をいったい何錠販売して何人の患者に使用されているのかも把握していないと言うのでは被害の実態は掴めず、拡大の防止は不可能なこと、このようなことで患者の命が守られるはずがありません。
■これでは、あまりにも軽い癌患者の命
何らかの、予測できない重篤な副作用被害が明らかとなった時、出来る限りの情報の開示を行い、速やかに被害の検証を実施しないと、使用される患者の命は常に危険にさらされることになる。これまで幾度となく繰り返されてきた薬害がそれを証明しています。「イレッサ」は、開発の時点から、動物実験で間質性肺炎による死亡の危険が大きいと指摘されていましたが承認申請にはこの事実を明らかにしないままに承認を受けていたことが法廷の場で明らかとなりました。この点について、アストラゼネカは裁判の反対尋問で、「マウスによる実験を人間に置き換えて判断するには無理がある」と主張しました。例え動物実験のデータとは言え判明していた危険情報を隠して承認を受けることは医薬品の承認制度の根幹をも揺るがす問題です。海外から副作用症例報告(イレッサ承認前に報告を受けていた196例の副作用症例報告〜2002年7月5日迄の報告)についても同様ですが、承認申請前に海外から寄せられていた副作用に関する情報が、「症例の集積を待って検討」とされるなど、さまざまに出されていた副作用へのシグナルを無視して、有害事象について充分な検証がなされないままに、僅か5ヵ月で審査は通過され承認されました。
被害が発生した後の対応でも、「死亡の原因はそれぞれの患者のがんの急速な進行悪化によるものと考えられる」、とコメントを出して、心配は要らないので動揺しないようにと通達を出したのみで、厚労省や製薬会社では各医療機関に対して、一時服用の中止や緊急の診察などの措置、通達等行われませんでした。厚労省の言い分では、「がん患者は、抗がん剤の危険性は充分に理解して使用を承諾していると承知している。臨床の医師は、その危険性は十分に理解して患者や家族には説明して処方するのは当然で、臨床の現場において適切に対応されている筈」、とコメントしています。
また、さまざまに報道されている被害記事についても事実誤認があるとして、「メディアが過大に取り上げ過ぎているもので、死亡に至る危険率は既存の抗がん剤と比較しても同程度だから安心するように」とのコメントを出し、服用の患者たちに必要以上の不安を与えない配慮を行ったとアストラゼネカ社は主張しています。この対応と措置で・・それ程の危険はなさそうだと服用し続けた多くの患者が副作用被害の発症を見過ごされ死亡しています。服用している多くの患者に動揺を与えるべきでないとして取られたこの措置が、新たな被害を生み拡大させました。この時に取られた患者に対する配慮というこの措置が、本当に患者の命を守り、そして不安を与えない対策であったのか、真実は後の日にはっきりするであろう死亡被害者数が物語ることでしょう。
■共有できるガン情報の必要性
「藁にもすがる」・・頼りにならないものにまで救いを求めようとするさまとして使われ、イレッサによる死亡被害に関しても患者の使用心理として度々使われて来ました。末期といわれる肺がん患者であれば多少の危険は覚悟して治療を受けるもので、藁にもすがった結果の被害はすべて自己責任と、このような意味で使われてきました。しかし、このイレッサに関しては、販売される前から出されていた情報のどこを見ても、藁にもすがるような不確かなものはありません。日本を代表する腫瘍専門の医師の多くが、「延命の効果は大きく副作用の少ない素晴らしい薬」と絶賛し、厚労省もこれを後押しする形で販売の前倒しを行い「特定療養費制度」の適用を認めています。服用に際して当時、患者側に示された注意情報は何一つとしてない中で、患者やその家族からすればこれほど信じられ、安心して服用できる薬は他にはありません。何とか延命したいと願う患者の心理に付け入り、効果のみを強調した販売方法と、医師の管理もない中での自宅服用といった処方が行われ、この被害が起きたという事実はしっかりと認識しなければなりません。
2004年7月に大阪で、2004年11月に東京で、イレッサによる死亡被害は、一部の被害遺族たちにより薬害被害として提訴されて、2005年以降の死亡被害数は激減しました。発売当初は年間の被害死亡者は200人を超えていましたが、ここ数年の報告では30人前後で推移し、既存の抗がん剤の副作用死亡被害件数に近づいて来ています。しかし、今も一部の医療現場では、患者に対して、効果のある薬剤であると推奨して、EGFR遺伝子検査の適合か否かの有無も行わず、安易な使用による被害は続いているという現実があります。一部の患者に対しては延命の効果がある薬ではあっても、一方では多くの副作用死亡が起きている薬でもあるという事実を把握して、使用患者への見直しは必要です。
延命の効果のみを示し副作用への対策を蔑ろにし抗がん剤治療とはこうしたものと主張続け販売を継続した製薬会社のアストラゼネカ社。
製薬会社より示された情報を鵜呑みし、承認条件として義務付けられていた全例調査も行わず、何の対処も規制もとらない厚労省。
多くの副作用による死亡被害者が出ていることに目を背け、効果のある患者が存在しているからとの理由を主張して使用を推奨している一部の医療現場。
このようなことで患者の命が守られるのでしょうか。病に罹った患者は、その病が重篤であればあるほど医師に頼り切ってしまいます。万一の場合は医師が何とかしてくれる筈と一方的に信じて服用に同意している患者が少なくない状況がある中で、多くの専門医が推奨し、夫々の患者の主治医からの説明にも手軽に自宅で服用出来る安全な薬という程度の説明で服用し生じた副作用死亡被害・・・この被害を患者の自己責任として片付けられるのでしょうか。新たな患者がこの被害に遭わないためにも早急な原因究明を行う必要があります。被害が発生してから事後処理的に対応するのではなく、研究開発の時点で判明している不利益についても総て公開して、効果が得られる患者とそうでない患者がいること。又、副作用に関しては使用するすべての患者に危険性が現れること等、すべての情報の公開が、この薬を必要とする患者のメリットに繋がります。
■バランスを欠いた情報提供(学術記事と広告宣伝)
抗がん剤治療には、重篤な副作用により死亡に至る場合もあることは、この度のイレッサによる死亡被害以後、誰しもが知るところとなりました。死亡に至る危険も承知して使用に同意しなければならないのが抗がん剤治療で、まさに命を賭して受ける治療なのですから確かな情報による説明を受けて患者は使用に同意する、これが自己責任による自己決定の服用です。
この「イレッサ」は発売前から学術の対談記事として開発に関った多くの医師が効果について発表しています。「副作用の少ない・夢の新薬」、「分子標的薬という画期的な薬である」と多くの腫瘍専門医が雑誌やテレビなどで素晴らしい薬と推奨しています。発売当初から、「副作用がほとんど無い薬・夢のような薬・延命率はものすごく高くこぞって飲みたい薬」など、医薬品の承認前の宣伝、誇大な広告は禁止されているにもかかわらず、アストラゼネカでは、さまざまな媒体を駆使して販売促進を続けています。前述の、「2001年8月9日・読売新聞に、「イレッサ・病巣狙い撃つ新薬」の記事。医師を対象とした医学雑誌・メディカルトリビューンの記事。(2001年10月25日・イレッサに関して行われた対談)。同じく、(2001年11月22日・イレッサに関して行われた対談)・・など殆どの新聞・雑誌にアストラゼネカ社は記事を提供していますが、いづれも、重篤な副作用である間質性肺炎には触れず、又は過小提示しています。
学術の対談記事と称して専門家を用いたり、有効性のみのデータをマスコミに流して多くの医療機関の使用を誤らせる。患者個人や患者会のサポート・交流と表面上は取り繕いながらシンポジウムや学集会などに招き、謝金や交通費名目で援助を行いながら宣伝・販促に巧みに利用する。このような方法は、過去に起された薬害においても繰り返し用いられて来ましたが、いつの時でも・・利用されていたと知ったマスコミは、広告費等会社の利益には必要であり記事のバランスは重視していると正当化する。利用されていたと知った専門家は、当時の医学では間違ってはいない処方であったと主張する。利用されていたと知った患者会は、これまでもそうでしたが・・知らなかった、悪意はなかったと沈黙を守るしか他に術がないのです。これまでに繰り返し起されてきた日本の薬害被害の中で、患者会や患者たちによる被害患者や被害遺族に対する非難や中傷は絶えず続けられてきました。その理由はさまざまで一言では語ることは出来ませんが、一つだけ述べるとすれば、「自分には効果が得られて被害が起きていないこと」、が最大の理由であることは否めません。少しでも何らかの効果が得られている患者からすると、その原因薬剤が、回収や販売の停止・見直しなど行われると死活問題でもある訳ですから、非難側に回るのは自然な成り行きかも知れません。被害を発生させた製薬会社からすると、「私たちには必要な薬です。」等と声をあげてくれるこのような患者・患者会の声は有利な材料として、予見不可能とする企業側の思惑に利用される。これもまた悲しい現実です。
■もっと素早い対応が必要
副作用の被害報告が出された時点で、対象が肺がん患者であるという危機管理をもって速やかな対策と正確な情報の開示・医療機関への早急なフィードバックが行われていたなら、死亡・被害の拡大防止は多少とも果たせた可能性はあります。この「イレッサ」の副作用拡大において、製薬会社のアストラゼネカ社は、本来行うべき患者を救う対策ではなく、自社に向けた防衛対策に奔走した節があります。その表れが、「医薬品とはリスクとベネフイットがあるもので、特に抗がん剤を使用する患者はある程度の有害事象は承知しているはず。イレッサの副作用被害と騒いでいるがそれぞれの患者の病状が悪化したとも考えられる。」などのコメントです。製薬会社とは、薬を販売するリスクについて、患者の命を守る観点から常に情報の収集に努め、一旦、副作用の被害が発現した場合には、速やかに起きた被害を最小限に食い止める責任が、医薬品の種類に関係なく製薬会社に課せられています。このように、徹底した安全対策が基にあるから、私たちは安心して薬を使用できるのです。
■被害が拡大すれば全例調査の実施は必須
「イレッサ」は、販売後に国内において全例調査・比較臨床試験を行うことが義務付けられていました。そして、この事は、イレッサが承認される条件の一つとなっています。このたびの副作用被害に関して、今では、製薬会社のアストラゼネカ社も、厚生労働省も、医療現場の医師たちも、イレッサによる副作用は起きたと明言され、副作用による死亡数、(2004年3月時点で444人)も発表しています。この数値は、日本で使用されている抗がん剤の中で、特に副作用による死亡が多いとされる薬剤で、発売開始から約10年間での死亡被害の累積は200人程度、という報告数(下図、薬剤別被害)からみると、イレッサによる被害は余りにも大きな死亡数です。この原因の解明には、承認条件でもある全例調査を実施し検証を行うことが、「がん患者の命」を守り、これから服用する患者が不利益を被らない、より安心の中で使用する唯一方法です。
 ●薬剤別被害
◆各・抗がん剤別による副作用死亡報告(平成16年度)◆
       薬  剤  名 副作用死亡数 内・肺がん患者の死亡
   ゲフィチニブ (イレッサ)         175             140
   パクリタキセル (タキソール)          43              16
   ドセタキセル (タキソテール)          40              18
   シスプラチン (ランダ)          28               4
   イリノテカン (カンプトポテシン)          26               1
   ゲムシタビン (ジェムザール)          19               9
   ビノレルビン (ナベルビン)           8               8
   カルボプラチン (パラプラチン)           8               4
                                        平成16年度(2004年)厚生労働省ホームページより参照
この「イレッサ」は、肺がん以外にも効果があるのではないかと、さまざまな臨床試験が行われています。しかし、未だにイレッサの副作用・間質性肺炎を完全に防ぐ方法は見つかっていないのですから、しっかりと管理のできる医療機関で副作用に精通した専門の医師に処方してもらうことが一番望ましいことです。起こりうる重篤な副作用をきちんと認識した上でなければ安易に使用するべきではないでしょう。劇的に効く患者がいるのなら、腫瘍縮小効果がずば抜けているのなら、誰に対して劇的な効果を表すのか、今後の副作用対策も含めた早急な臨床試験・検証が必要です。
■患者が安心して治療を受けるために
今も尚多くの患者が、使用すれば誰にでも素晴らしい延命効果が得られるという発売当時の情報を信じて、大きな期待を抱き安易な使用への同意をしている現実があります。使用には、遺伝子変異検査を受け適応か否かを知ることがまず必要です。多少は危険でも良いから処方して欲しいといった思いは理解できなくはありませんが、間質性肺炎に罹った患者の5割が救命できず亡くなっていることも理解しておかなければなりません。患者が、危険を承知しても尚、使用を試みるこの背景には、世界で使われている標準治療薬と言われる抗がん剤が日本ではなかなか承認されないというドラッグラグの問題が根底にあります。しかし治療薬の数が足らないと言う事情はあるにせよ、このイレッサは、副作用が発症する割合は他の抗がん剤よりは何倍も高いという事実は一人一人の使用希望の患者に、その家族に説明は必須です。一旦副作用に見舞われると、対処の術なく半数近くの患者が死亡している薬である事は公表されているのですから、この危険事実は隠さず伝えるべきです。
主な抗がん剤の間質性肺炎等の発生頻度一覧
他方、この「イレッサ」は、科学的に証明はできないが・・としながら、スーパーレスポンダーと言われる、劇的に効果が現れる患者がいるといわれて、そのような患者さんに対しては無くてはならない薬として多く使用されています。しかし、誰にどのように使用すればこのような効果が得られるのかについては未だ何も解明されておりません。そのような中・・使用すれば貴方もその恩恵が受けられるかも知れませんと、副作用被害の実態を過小提示した安易な使用は後を絶ちません。素晴らしい延命の効果があると推奨しながら、重篤な死亡に至る危険情報は曖昧にして、これまでの抗がん剤治療では求めなかった使用同意書を、イレッサに限ってだけは患者に署名を求め、自己責任の証はしっかりと確保する不自然さが、イレッサ使用の怖さを表しているようです。
今回のイレッサ副作用被害の問題は、既に過去の被害ととらわれがちですが今も拡大し続けています。いづれ・副作用死1000人、2000人となるのもそう遠くはないかも知れません。例え副作用による死亡が大きいと言われる抗癌剤治療とはいえ、安易な使用による死亡被害は防がなければなりません。
私達は、製薬会社に対し、厚生労働省に対し、このイレッサの副作用死亡被害に対する抗議と、患者が安心して使用出来る情報の開示を要求し続けることが必要と考え活動しています。これまでは、抗がん剤による副作用死亡は治療上仕方のないものとされて、ほとんどが訴訟の対象とされませんでした。また、医薬品副作用被害救済制度の対象からも外れている抗がん剤による死亡被害は提起しても立証は難しく、「イレッサ訴訟」を例として、例え安易な使用による副作用死が認められたとしても補償等は無いだろうことは予測しながら、それでも・・こんなことを黙認し続けると、医師も製薬会社も厚生労働省も、それ程の危機感もなく「開発、承認、自己責任として服用させる」、これでは、がん患者の余命は軽視され見捨てられます。
何故このようなことが起きたのか、防ぐことはできなかったのか、検証とそしてその制度の見直しを求め続けます。
※訂正とお詫び・・ 副作用被害が起きた当時判明していなかったさまざまな情報、また厚生労働省や製薬会社発表の報告をなるべく正確にお伝えするために2012年3月に副作用死亡推移の加筆・修正を行いました。


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