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 イレッサ薬害被害者の会

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●イレッサ(ゲフィチニブ)に関するさまざまな報道
・・1999年12月〜2007年12月・・

 ■1999年12月8日 化学工業日報社
◇英アストラゼネカ、159の新薬開発プロジェクト進展、新PPIなど
英アストラゼネカはこのほど、合併後初めて研究開発の現状と今後の基本戦略を公表した。同社はこのなかで、合併で研究開発の補完効果が高まったとしながら、抗潰瘍剤であるプロトンポンプ阻害剤(PPI)、オメプラゾールの後継剤である新規PPI「エソメプラゾール」をFDA(米食品医薬品局)に承認申請するなど有力新薬が開発後期にあると強調、現在、57の新規候補化合物(NCEs)を含む159の開発プロジェクトが進展していることを明らかにした。同社はこのなかで、中長期的な研究開発のターゲットとして、2003年までに年間15の候補化合物開発、新規候補化合物の探索から承認申請まで6年以内に研究開発期間を短縮-などをあげており、2000年代、5年ごとに開発ポートフォリオ・バリューを倍増させるとしており、製薬最大手としての戦略強化を示唆している。

 アストラゼネカが今後10年の戦略領域でのターゲットとしているのは、消化器系のほか循環器系、がん、ペインコントロールの各分野で市場でトップの立場を確保するのに加え、呼吸器系で二番手、そして中枢神経で市場の10%シェア、感染症では重篤な病院感染でトップスリーのポジション確保。

 そのために、2003年までに年間15以上の候補化合物の創製とともに、(1)開発から承認・販売までの“成功率"を2005年までに20%に倍増(2)長期的に年間三以上の有力剤を開発(3)世界の主要市場での申請から承認までの期間を12カ月に短縮してポートフォリオの価値を引き上げていく。現在、同社は159の開発プロジェクトを進めているが、このなかでプライオリティが置かれているのが11のNCEsを含む20プロジェクト。

 研究開発の探索研究部門では、3500人が四研究領域(呼吸器・炎症、循環器・消化器、がん・感染、中枢神経・ペインコントロール)での研究を続けているが、研究拠点を現在の15から九へ統合・再編する一方で、三基幹研究所および二GLP対応研究所、そして安全性評価研究所を発足させる計画。また、がん領域での探索研究の拡充とジェネティックス・バイオインフォマティックス研究所の新設、米国での探索研究所新設に取り組む。また世界六研究拠点にほぼ4千人の開発要員を配置する予定だ。

 一方、現在、開発の後期にあるエソメプラゾールは欧州に続いて米国でも承認申請、欧州では2000年第2.4半期中の承認・販売を見込んでいる。また塩野義製薬から導入した“スーパースタチン"「ZD4522」は、フェーズ2,試験で既存剤に比べて有意なコレステロール低下作用と寛容性が確認されているほか、抗血栓剤「H376/95」(フェーズ3,開始)、抗がん剤「イレッサ」(フェーズ2,終了)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療剤「バイオザン」(フェーズ3,開始)など有力剤の開発ピッチがあがっている。

 ■ 2000年6月23日 化学工業日報
◇ 抗癌研究、新規因子標的の研究進展、米国臨床癌学会で相次ぎ報告
 世界の臨床がん研究の頂点ともいえる米国臨床がん学会(ASCO)は、そこでの臨床研究が当面の抗がん療法の重要な指針として注目されているが、今年5月末に開かれた“ASCO2000"で新規ターゲットについてのフェーズ1,/2,試験が相次いで報告された。シグナル・トランスダクションに関連するカイネース類やVEGF(血管内皮細胞成長因子)およびその受容体、EGF(外皮成長因子)受容体、カチオンチャネル、プロテアーゼ、腫瘍抑制因子などターゲットは幅広いが、具体的な臨床研究でその有効性と安全性について期待される新薬が出揃ってきたかたちだ。遺伝子の機能解析研究の急進展も相まって、がん療法の選択肢が今後、大きく広がることになりそうだ。

 抗がん剤研究で、新規ターゲットを標的にして開発されて大きな評価を受けたのは、米ジェネンテックの乳がん治療剤である「ハーセプチン」(製品名)。乳がん患者の30%前後に特異的に発現するHER2たん白をターゲットにした抗体新薬で、単独療法で従来療法に比べて高い優位性が確認されているが、今回も大規模な単独療法データとともに、ナベルビンやタキサン類などとの併用療法データが報告された。HER2ポジティブの乳がん患者では、ハーセプチンが他剤との併用を含めて標準治療剤となる可能性を改めて強く印象づけている。

 一方、ジェネンテックはVEGF抗体でも先駆けたが、今回、肺がんや大腸がん患者での臨床試験データを発表している。また、チロシン・カイネースの一種であるBcr-Ablを標的としたSTI-571は白血病、開発競争が激化しているras阻害をターゲットとするFPTaseでも、いずれも有意なデータが示されている。

 こうしたなかで、英アストラゼネカが精力的な開発を進めている選択的EGF受容体阻害剤「ZD1839」(製品名・イレッサ)は、非小細胞肺がんを対象にして初期データながら有意な臨床報告が発表された。今後、適応対象の拡大を含めて、欧米での臨床開発が注目されそうだ。また、米スージェンのVEGF-Rを標的とする新規候補化合物や米AHPの免疫抑制剤「シロリムス」のエステル・アナログである「CCI-779」は、mTORシグナル系への作用を通じた抗がん作用が注目されている。CCI-779は米NCI(米国立ガン研究所)との共同研究が今後、進展する見通し。

 抗がん剤研究では、ここ数年のジェノミックス研究の進展を背景にして、新規標的因子の解明に弾みがついている。今回のASCOでは、これまで基礎的な研究にとどまっていた新規標的を狙った候補化合物の臨床評価が公表されたことで、今後のがん研究基盤が大きく広がったといえそうだ。

 ■ 2000年7月28日
◇ アストラゼネカ(株)とゼネカ薬品(株)が合併
アストラゼネカPLC(本社:ロンドン)と住友化学工業株式会社(本社:大阪市)は、本年10月1日にアストラゼネカ株式会社とゼネカ薬品株式会社を合併させることで合意しました。新会社の社名は「アストラゼネカ株式会社」、出資比率は、アストラゼネカが80%、住友化学が20%となります。

現在、日本には、アストラゼネカグループの子会社として、アストラゼネカ株式会社(アストラゼネカ100%出資;本年1月1日、アストラジャパン株式会社とゼネカ株式会社の合併により誕生)と住友化学との合弁会社であるゼネカ薬品株式会社(アストラゼネカ60%、住友化学40%出資)の二社があります。アストラゼネカグループは、日本での事業強化のため、両社の統合を図るべく住友化学との交渉を進めてまいりましたが、このたび二社を合併することで合意に至りました。

「アストラゼネカ株式会社」は本社を大阪に置き、ゼネカ薬品の資産および従業員を統合します。同社は本合併により、統合のメリットを最大限に生かし、事業基盤の強化、拡充を目指します。

合併後の新会社は、従業員約2000人、年間販売高約1000億円(薬価ベース)の規模になります。
アストラゼネカグループと住友化学グループは、従来より種々の協力関係(住友製薬による一部のアストラゼネカ製品の受託製造等や住友製薬製品のアストラゼネカへのライセンス等)を築いてきましたが、今後も、両グループは新「アストラゼネカ株式会社」の事業発展のため、相互の協力関係を継続していく考えです。 

 ■ 2001年5月17日 化学工業日報社
◇ アストラゼネカ、米国学会で発表、抗癌剤2剤に有効臨床結果
 アストラゼネカは、15日に米サンフランシスコで行われた第37回米国臨床腫瘍学会(ASCO)で、開発中の抗がん二剤で有効な臨床結果が得られたと発表した。

 ZD0473は、がん治療に使用されるプラチナ製剤に耐性ができたがんについて有効な新プラチナ製剤。従来の製剤と違い腎毒性・神経毒性が認められないのが特徴。

 同剤のフェーズ2,は、卵巣がん患者29人を対象に行われた。14人は、最初の治療から26週間以降に再燃または増悪したプラチナ療法感受性で、ほかは26週以内に再燃、増悪したプラチナ療法耐性の患者だった。奏効率は耐性患者で14%、感受性患者で42%だった。同薬はまた、小細胞肺がん患者においても同様の効果があると報告された。

 1日一回投与の経口抗がん剤ZD1839(イレッサ)については、フェーズ1,で持続的効果、単独療法での非小細胞肺がんにおける効果の高さを確認。その結果、開発プログラムは加速し、フェーズ1,から直接フェーズ3,に移行された。同薬の開発は世界規模で進められており、日本では胃がん、欧米では乳がんや前立腺がん領域でフェーズ2,が進行中。直腸がんにも効果があったという報告もある。

 アストラゼネカは、抗増殖、抗血管新生、血管標的、抗転移を含むがん治療薬の開発を行う。現在、研究開発段階の抗がん剤のプロジェクトは20。ZD0473に関しては、アノールメッド(カナダ)から専売特許権を取得した。

 ■ 2001年8月 9日 読売新聞(医療と介護)
◇ イレッサ・・病巣“狙い撃つ”新薬
 大阪府の男性Cさん(69)は、早期の肺がんが見つかり、1998年10月、府内の病院で、右肺の上部3分の2を切除する手術を受けた。しかし、半年後、残っていた右肺下部に再発。抗がん剤治療を始め、がんが縮小する効果はあったが、白血球減少などの副作用も強かった。「それ以上の薬の使用は危険」として、打ち切られた。治療は行き詰まった。

【少ない副作用】
 「別の(既存の)抗がん剤に切り替えましょうか。それとも、臨床試験中の新薬を使ってみますか」主治医の言葉にCさんは戸惑った。新たな肺がんは、気管支の末端にできる「腺(せん)がん」と呼ばれる種類で、抗がん剤が効きにくいとされる。かつて製薬会社に勤め、そうした知識のあったCさん。「既存の抗がん剤では、吐き気など副作用が強く、効果もそれほど期待できない。新しい薬にかけよう」と決心した。

この薬は、抗がん剤「チロシンキナーゼ阻害剤」の1つで、経口薬のZD1839。がん細胞の増殖を分子レベルで妨げる。がん細胞だけを狙い撃つ「分子標的薬」だ。従来の抗がん剤が、がん細胞だけでなく正常細胞も攻撃し、免疫機能の低下、吐き気、脱毛などを引き起こすのに比べ、副作用が少ないとされる。Cさんは昨年3月から、この薬の服用を始めた。数か月後には、がんはほとんど消失した。副作用は、軽い発しんが右ひじ周辺に一時出ただけだった。経口薬ZD1839(イレッサ)の服用により、患者の肺がん(点線部分)は数か月後に縮小した(下)

【自宅治療も可能】
 「今までの抗がん剤は病院で何時間も点滴しなくてはならなかった。この薬なら自宅で治療でき、普段通りの生活を送れます」先月末、孫を連れて念願の北海道旅行をした。
抗がん剤治療に詳しい近畿大第4内科教授の福岡正博さん(60)によると、98年8月から、この薬を服用した肺がん患者23人のうち、5人にがんが半分以下に縮小する効果があった。そのうち3人は、がんの縮小や消失が1年以上続いている。「従来の抗がん剤が効かなかった人たちが対象なので、この薬の有効性は高い」と福岡さん。製薬会社は今年中に国に承認申請する予定だ。肺がんに対する抗がん剤治療は、この20年間、「カタツムリの歩み」と言われるほど、なかなか進まなかった。それが、分子標的薬の登場で、一歩踏み出そうとしている。
                                     ◇
[分子標的薬]
 がん細胞の増殖、転移などに関係する分子レベルの要因を制御する。今春、乳がん治療薬として承認されたハーセプチンも同じ仲間だ。がん細胞に栄養を送る血管の新生を防ぐ薬などもあるが、延命効果について不明なものも多い。
(2001 年8 月9 日)

 ■ 2001年10月2日 株式会社じほう
◇ 近畿大・中川氏 抗がん剤ZD1839の臨床試験状況を報告
 近畿大学医学部の中川和彦氏は9月27日、日本癌学会のシンポジウムで、アストラゼネカの新規抗がん剤ZD1839(イレッサ)について、国際共同治験として実施されたフェーズ2結果が10月末から11月初めにかけて米国で開催予定の米国がん学会などの合同会議で報告されることを明らかにした。11月に日本で開催予定の肺癌学会でも報告される予定。同フェーズ2はひとつのプロトコルを、日本と欧州が合同で行った国際共同治験。日本からは100例が参画している。なお、同剤は、日本および海外において、非小細胞肺がんの適応で申請準備中の段階にある。

 ZD1839は上皮性細胞成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)で、分化、転移、浸潤などに関与するEGFRの細胞内の信号を大本でブロックする新しいタイプの抗がん剤。

 同日の講演では中川氏がZD1839の臨床試験実施状況やその結果などを報告した。フェーズ1については、海外で3つ、日本でひとつの臨床試験がそれぞれ独立して実施された。用量制限因子はいずれの試験でも下痢だった。その他の毒性として皮疹、肝障害が認められたがすべて一過性だった。また日本のフェーズ1には31例が登録され、23例の非小細胞肺がんのうち5例にPR(部分寛解)が認められた。米国がん学会などの合同会議で報告される予定のフェーズ2は、プラチナ製剤を含む過去に治療のある非小細胞肺がん患者を対象に、ZD1839を単独で投与。奏効率と用量の関係を評価した。引き続き欧米の共同で、生存期間を検討するフェーズ3が進んでいる。フェーズ3の対象患者は、進行期非小細胞肺がん患者で、(1)標準治療(カルボプラチン+パクリタキセルまたはシスプラチン+ゲムシタビン)+ZD1839(250mg/日投与)(2)標準治療+同(500mg/日投与)(3)標準治療+同プラセボ ――の3群で行う。

 2001年10月5日 朝日新聞社 東京夕刊
◇ がん克服へ新戦略続々 基礎研究から治療現場へ 日本癌学会総会
 最新のがん研究が発表される日本癌(がん)学会総会が、9月28日まで3日間、横浜市で開かれた。21世紀の課題は、遺伝子などの基礎研究から生まれた成果を、どのように治療現場で役立てていくかだ。約2400件の発表の中から今年の焦点を紹介する。(浅井文和、中村浩彦、高山裕喜)

 ●分子標的治療 激しい副作用を防ぐ
 大きな注目を浴びたのは「分子標的治療」に関する発表だ。がんを起こしている遺伝子やその産物などを標的にし、特定のがん細胞だけに薬が効くようにする。

 抗がん薬というと、「髪の毛が抜ける」「吐き気がする」「白血球が減る」など、副作用の苦しさとともに語られることが多い。がん細胞だけでなく正常な細胞の増殖まで抑えてしまうせいだ。その点、分子標的治療は正常な細胞に影響が出にくく、激しい副作用が少ない。遺伝子の研究が進み、このような薬の開発がいま急ピッチで進んでいる。

 愛知県がんセンターの大野竜三・病院長は「がん化の原因になっている個所に働く理想的な治療薬」と、スイスの製薬会社ノバルティスのSTI571(商品名グリベック)を紹介した。主に慢性骨髄性白血病に効く飲み薬。この病気は、染色体異常による異常な遺伝子の働きが原因で、白血球が際限なく増えてしまう。異常な遺伝子がつくるたんぱく質の働きを妨げ、白血球増殖を抑えるのがこの薬のねらいだ。

 米国などでの臨床試験では、約5割の患者で染色体異常の白血球がなくなったり、激減したりする効果が確かめられた。米国で5月に承認され、日本でも承認申請中という。英国の製薬会社アストラゼネカのZD1839(イレッサ)は、がん細胞の増殖に関係する上皮性細胞成長因子受容体の働きを妨げる。近畿大などの発表によると、肺がん患者23人に使ったところ、5人でがん組織が小さくなったという。肺がんや前立せんがん、胃がんなどを対象に、日米欧で規模の大きな臨床試験が進められている。

 ●腫瘍マーカー 遺伝子解析で新時代
がんの有無の目印になるのが「腫瘍(しゅよう)マーカー」だ。がん細胞がつくり出す特定の物質で、血液検査で調べる。遺伝子やたんぱく質を解析する技術の進歩が、新しい可能性を開きつつある。国立がんセンター研究所の山口建・副所長や佐々木一樹・細胞増殖因子研究部室長らは、分子量1万以下のたんぱく質(ペプチド)に注目し、すい臓がんのマーカーとして使えないかと研究している。

 発表によると、患者36人のがん細胞を培養し、培養液の中に出てきたペプチドを調べたら、2種類のペプチドが共通することがわかった。血液からこれらのペプチドが検出できるかどうかなど、臨床応用に向けた実験を続けていくという。

 すい臓は体の奥深くにあるので、がんが小さいうちに見つけるのが難しい。悪化してから診断されることが多く、年に約1万9千人が亡くなっている。「マーカーの開発は、すい臓がんの克服に不可欠です」と佐々木さんは話す。胃の粘液に特有な糖鎖を作る酵素は、胃がんの細胞でも高い頻度で見つかる。これに着目し、信州大学大学院の中山淳・助教授らは、この酵素の遺伝子を血液から検出する方法を提案した。41人の胃がん患者と9人の慢性胃炎患者、23人の健康な人の血液を調べたら、26人の胃がん患者からこの遺伝子が検出された。慢性胃炎患者3人からも出たが、健康な人からはまったく見つからなかった。

「検出されれば、胃の粘膜に何らかの異常がある可能性が高い。内視鏡などと組み合わせれば、早期の胃がんを発見できる可能性がある」と中山さんは期待する。腫瘍マーカーの研究は60年代に始まった。しかし、がんが進行した段階でやっと見つかるものが多く、早期発見に役立つのは「前立せんがんや小細胞肺がんなどについての数種類しかない」といわれていた。このテーマのシンポジウムで座長を務めた山口さんは「技術の進歩で腫瘍マーカー探索は新しい時代に入った。今後、がん克服につながる有効なマーカーが見つかってくるだろう」と展望する。

 ●ワクチン療法 患者に合うペプチド
人の体にもとから備わる免疫力を利用し、がんをやっつけようという試みも進められている。久留米大医学部の伊東恭悟教授は講演で「2010年までに免疫療法の確立をめざしたい」と目標を語った。伊東教授らが取り組むのは、ペプチドを使ってキラーT細胞をがん細胞に誘導し、がんをたたくワクチンの臨床試験だ。まず患者の血液を採って検査し、その人の免疫特性に適した数種類のペプチドを選んだ。これらのペプチドを入れたワクチンを注射すると、ペプチドはがん細胞にくっついて、キラーT細胞の「目印」になる。肺がんや大腸がんなどの患者50人にワクチンを注射したところ、20人に、腫瘍が一時的に小さくなるといった効果が見られたという。

 効き目が表れたのは投与から1〜2カ月後。以前、がんの種類に合わせた1種類のペプチドを使っていたときは6カ月以上かかっていた。「時間が短縮されたうえ、腫瘍に効果が出る程度も高まった。一方、局所のはれや痛みなど、これまでよりやや強い副作用も出た」という。今回の試験はワクチンの安全性を確かめるのが主な目的。今後、ほかの抗がん剤との併用効果を調べ、実用化をめざす。質量分析器を使い、すい臓がんマーカーの候補になるペプチドを探す
=東京都中央区の国立がんセンター研究所で

 ■ 2001年10月30日 中日新聞社夕刊
◇ 新しい作用の抗がん剤 がん特有の分子を標的 白血病治療などに効果
効かない、副作用が強い、と悪評が多い抗がん剤。ところが、新しい作用の仕組みを持つ抗がん剤が登場し、従来の印象を改めようとしている。がん細胞だけがもつ特徴的な分子を「分子標的」として認識し、正常な細胞には影響を与えないという薬だ。(吉田薫)

 分子標的を狙う代表的な薬はグリベック。ノバーティス社(スイス)が開発した。
慢性骨髄性白血病に対して、半年の投与でがん細胞を完全になくしてしまうという効果が報告され「50年に一度の新薬かもしれない」(西条長宏・国立がんセンター部長)と、専門家を驚かせている。

 標的になるのは、細胞分裂を促進し、不死化させる「チロシンキナーゼ」という酵素。チロシンキナーゼは60種類もあるが、グリベックは、この白血病を起こす遺伝子が作るチロシンキナーゼの、特定の場所にはまりこみ、働きを妨げるように設計されている。他にはほとんど作用しないので、副作用が少ない。米国では昨年、超スピードで承認され、他のがんにも適用を拡大する臨床試験が行われている。一方で、この薬への耐性の出現による白血病の再発が問題になっている。日本でも年内の承認が期待されている。白血病は、他のがんに比べ、薬が効きやすい。他のがんでは、悪性化に複数のタンパク質が関与しており、それだけ分子標的の薬の開発も難航している。

 アストラゼネカ社(英国)の薬ZD1839(海外での商品名イレッサ)は、治療が困難な肺がんに対して、効果を挙げている。やはりチロシンキナーゼを阻害するのだが、こちらはEGFという細胞増殖因子の受容体から出るチロシンキナーゼだ。臨床試験では、これまでは抗がん剤が効かなかった症例の一部に、効果がみられ、「肺がん治療にも小さな光がみえてきた」と曽根三郎・徳島大医学部教授は言う。

 胃がん、乳がん、前立腺(せん)がんなどについても、国内をはじめ各国で試験が行われている。日米欧では年内に承認申請が出される見込みだ。標的を絞った抗がん剤の開発と同時に、抗がん剤と投与される人との相性の研究も進んでいる。遺伝子のちょっとした違いが、薬の代謝や効果に影響しており、今後は遺伝子診断によって副作用や効き方の予測が可能になる。「10年もすれば、がんの半分くらいは薬で治るようになるのでは」と、中村祐輔・東大医科学研究所ヒトゲノム解析センター長はみている。 

 ■ 2001年11月2日 朝日新聞社東京朝刊
◇ 新抗がん剤、肺がん治療に高い効果 近大など臨床試験
国内で臨床試験が続けられている新しいタイプの抗がん剤が、これまで治療が難しかった肺がんに高い効果を示すことが、近畿大学医学部、国立がんセンターなどが参加する国際共同研究でわかった。副作用も少ない。大阪市で開かれている日本肺癌(がん)学会で2日、発表される。

 この抗がん剤は、英国のアストラゼネカ社が開発した飲み薬「ZD1839」(商品名・イレッサ)で、がん細胞の増殖に関係する酵素の働きを妨げる「分子標的薬」の一つ。正常な細胞も攻撃するこれまでの抗がん剤と異なり、がん細胞のみを狙い撃つ。肺がんには、抗がん剤が比較的効く小細胞がんとあまり効かなかった非小細胞がんがある。昨年暮れから日本と欧州の8カ国で、非小細胞肺がんの患者208人を対象に、薬の効き目などを調べる「第2相試験」が続けられていた。日本では、重症の102人がこの薬を飲んだ。日欧合わせた結果では、患者の半数以上に、がんの進行が止まるなどの効果が見られ、全体の約2割では、がんの大きさが半分以下に縮小した。がんによる痛みが軽くなるなどの患者が実感できる治療効果は平均約8日で表れた。 副作用では、発しんや下痢が出た例もあったが、従来と比べて、大幅に改善されている。 

 ■ 2001年11月6日 日刊薬業
◇ 近畿大学 福岡教授「イレッサ」の非小細胞肺がんへの有用性発表
近畿大学第4内科の福岡正博教授は2日、大阪市で開かれた第42回日本肺癌学会総会の基調講演で、アストラゼネカが開発中の新規抗がん剤イレッサ(ZD1839)のフェーズ2結果を発表した。同試験は国際共同治験として実施されたもので、前治療無効の進行非小細胞肺がんを対象に、250mg/日および500mg/日の用量別に有用性が比較された。速報結果によると、有効性、安全性とも両群間に差はなく、全体の奏効率(著効+有効)は18.7%であった。福岡氏は、同剤の至適用量は250mg/日と考えられるとし、非小細胞肺がんを対象に来年中には日本で承認されることになるだろうと見通した。

 ZD1839は1日1回経口投与の上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤。近年注目を集めている分子標的抗がん剤のひとつで、非小細胞肺がん以外にも、乳がん、直腸がん、胃がん、ホルモン抵抗性前立腺がんなどを対象にフェーズ2が実施されている。非小細胞肺がんを対象に昨年10月から実施されたフェーズ2には、日本から102例が登録された。最短4か月間フォローアップされた208例での解析では、奏効率は250mg/日投与群(103例)=18.4%、500mg/日投与群(105例)=19.0%と両群間に差はなかった。病勢進行がみられなかったケースも含めた全体の病勢コントロール率(著効+有効+病勢安定)は52.9%で、副作用は下痢、皮疹などの比較的軽度なものが多かった。また、全体の約70%で投与8日目までに症状の改善がみられた。ただ、奏効率を日本と海外で比較すると、海外では250mg/日投与群=9.6%、500mg/日=11.1%に対し、日本では両群とも27.5%で、海外よりも高率であった。この原因について福岡氏は、日本の症例に女性や腺がんが多いなど、背景因子の違いが関与している可能性があるとし、今後さらに詳細に検討していく必要があるとした。同剤の今後の課題については、既存の抗がん剤および放射線との併用、術後および放射線治療後の臨床試験、他の分子標的薬剤との併用――などをあげた。

 ■ 2001年11月7日 株式会社じほう
◇「イレッサ」の奏効率18.7% 今後は併用療法も検討
第42回日本肺癌学会総会・基調講演 近畿大 福岡正博教授

近畿大第4内科教授の福岡正博氏は2日、大阪市で開かれた第42回日本肺癌学会総会の基調講演で、新規抗がん薬「イレッサ」(ZD1839)のフェーズ(P)2の結果を発表した。

この試験は国際共同治験として実施されたもので、前治療無効の進行非小細胞肺がんを対象に、250mg/日および500mg/日の用量別に有用性が比較された。速報結果によると、有効性、安全性とも両群間に差はなく、全体の奏効率(著効+有効)は18.7%だった。

福岡氏は、同剤の至適用量は250mg/日と考えられると述べ、非小細胞肺がんを対象に来年中には日本で承認されることになるだろうとの見通しを明らかにした。ZD1839は、1日1回経口投与の上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤。

近年注目を集めている分子標的抗がん剤のひとつで、非小細胞肺がん以外にも、乳がん、直腸がん、胃がん、ホルモン抵抗性前立腺がんなどを対象にP2が実施されている。非小細胞肺がんを対象に昨年10月から実施されたP2には、日本から102例が登録された。最短4か月間フォローアップされた208例での解析では、奏効率は250mg/日投与群(103例)=18.4%、500mg/日投与群(105例)=19.0%と両群間に差はなかった。

病勢進行がみられなかったケースも含めた全体の病勢コントロール率(著効+有効+病勢安定)は52.9%で、副作用は下痢、皮疹などの比較的軽度なものが多かった。また、全体の約70%で投与8日目までに症状の改善がみられた。

 奏効率を日本と海外で比較すると、海外では250mg/日投与群=9.6%、500mg/日=11.1%に対し、日本では両群とも27.5%で、海外よりも高率だった。この原因について福岡氏は、日本の症例に女性や腺がんが多いなど、背景因子の違いが関与している可能性があると説明し、今後さらに詳細に検討していく必要があると述べた。
同剤の今後の課題については、
・既存の抗がん薬や放射線との併用、
・術後および放射線治療後の臨床試験、
・ほかの分子標的薬剤との併用などをあげた。

情報提供:Japan Medicine(株式会社じほう)  

 ■ 2001年11月13日 株式会社じほう <日刊薬業>
◇ 振興事業団 小川副理事長「ET―743」などを注目される抗がん剤に
 財団法人・愛知県健康づくり振興事業団の小川一誠副理事長(前・愛知県がんセンター総長)は9日の日本癌治療学会で、現在世界で開発中の新規抗がん剤を概説し、注目されている薬剤として、海洋生物由来のアルキル化剤ET―743や、分子標的治療薬イレッサなどをあげた。分子標的治療薬は、従来抗がん剤との併用効果に期待が寄せられるが、少なくとも半数の患者で一定期間、がんを安定化(病勢安定)させ、この病勢安定が生存期間延長に寄与できることが必要と見通した。また海洋生物由来の抗がん剤は現在はなく、ET―743がその第1号となれば、海洋生物由来抗がん剤への道が今後、開かれる可能性があるとしている。

 小川氏は、臨床試験中の殺細胞性抗がん剤のなかで、注目されている薬剤としてET―743を紹介。固形がん患者対象のフェーズ1では、投与量規制因子は好中球減少と血小板減少で、肝毒性も高度だったが、乳がん、骨肉腫、脂肪肉腫にPR(有効)が認められた。さらに、2つのフェーズ2(米国・欧州)データにより軟部肉腫には有効性が確立されたと評価した。トポイソメラーゼ阻害剤や微小管タンパク結合剤も多くの薬剤で臨床試験が進行しているが、どの薬剤が有望かはまだ見通せない段階とした。

 分子標的治療薬では、開発中のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤として、イレッサ、C225(抗EGFRモノクローナル抗体)、OSI―774を紹介。イレッサは、現在はとくに、非小細胞肺がんへの効果で注目されており、長期間の病勢安定を維持でき、そして生存期間延長へ寄与できるかどうかが評価のカギになるとした。シグナル伝達阻害剤は、グリベック、CCI―779などを概説。グリベックは、慢性骨髄性白血病のみでなく、GIST(消化管間質性腫瘍)にも優れた効果を示すと紹介した。CCI―779はラパマイシンの水溶性を高めた薬剤で、フェーズ1でPRとなった、抗がん剤の効きにくい腎がんおよび、その他のがんへの効果が期待されている。

 ■ 2001年12月7日 化学工業日報社
◇ アストラゼネカ、日米で01年内に承認申請へ、肺癌治療薬イレッサ
【ロンドン=酒井紫野】アストラゼネカは、非小細胞性肺がん治療薬「イレッサ」を年内めどに日米で承認申請する方針を固めた。日本では2002年発売を見込む。イレッサは、従来の肺がん治療薬と比べて治療効果が高く、副作用も下痢や発疹程度。また経口剤で、患者のコンプライアンスやQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を改善させるのに役立つ。とくに日本人においてレセプターが定着しやすいことも臨床試験で確認された。肺がんは喫煙が誘発因子となるため、喫煙者が多い日本で今後、患者の増加が見込まれている。

 イレッサは、非小細胞性肺がんを適応対象とする1日一回投与の経口剤。日本人の例では、3年ほど前に始めた治験時から継続的に治療を続けている患者も確認されている(今年8月現在)。

 また同薬の作用機序によると、他の腫瘍に対する治療効果も望めるため、現在70以上のプロジェクトがあり、市場拡大が見込まれている。

 イレッサは、フェーズ1,で持続的効果、単独療法での非小細胞性肺がんにおける効果の高さが確認され、フェーズ1,から直接フェーズ3,に移行した。詳細な臨床データは来年発表される。他の腫瘍に対しての臨床試験は世界規模で進めており、日本では胃がん、欧米では乳がんや前立腺がん領域でフェーズ2,を行っている。直腸がんにも効果があったという報告もある。その治療効果の高さから、国内でも申請前にもかかわらず問い合わせが殺到しているという。

 日本市場における、がん領域の成長率は前年比21%(10月まで)。イレッサの投入は、その地位を確固なものとする可能性が高い。

 ■ 2002年1月28日
◇ 海外に先駆けて日本でZD1839(イレッサ)非小細胞肺がんの承認申請を行う
アストラゼネカ株式会社(本社:大阪市北区、代表取締役社長:マーティン・ライト)は、1月25日、ZD1839の非小細胞肺がんの適応について輸入承認申請を厚生労働省に提出しました。

本剤は日本で最初に承認申請された選択的なEGFR-TKI(上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤)であり、1日1回経口投与される薬剤です。
日本における申請は世界中の約400人の患者を対象にした2つの第II相臨床試験のデータに基づいて行われました。このデータはZD1839が1日1回250mg単剤投与された場合、前治療で効果が認められなかった進行非小細胞肺がん患者でがんが縮小するかあるいは病勢安定をもたらすことを示しました。

ZD1839は従来の抗がん剤とは異なる新しいタイプの分子標的治療剤の一つで、今回の適応が認められれば、肺がん治療の選択肢を広げる薬剤であると期待されています。本剤は、現在、アストラゼネカにより世界中で開発が進められており、他のがん種に対しても本剤の有効性が確認され次第、適応症の追加を行っていく予定です。

なお、上記の第II相臨床試験の1つは日本と欧州の施設にて同一プロトコールの下、同時に実施された日本人102例を含む約200例の規模の国際臨床試験で、その結果を基に日本が海外に先駆けて正式承認申請を行いました。

なお、昨年末には、同剤の臨床データが米国FDAに提出され現在審査を受けています。
がんは、1981年以来日本人の死亡原因の第1位となり、1999年にはおよそ29万人ががんで死亡しています(全死亡者数は98万2千人)。また、肺がんは、1998年からがんによる死因のトップとなり、1999年にはおよそ5万2千人が肺がんで死亡しており、今後ますます増え続けると予想されます。

アストラゼネカは、ZD1839が肺がん患者さんに症状改善や病勢安定をもたらし、QOLの向上に貢献できると確信しております。 

 ■ 2002年1月30日 株式会社じほう
◇ アストラゼネカ 非小細胞肺がん治療薬「イレッサ」の輸入承認を申請
 アストラゼネカは29日、非小細胞肺がん治療薬「ZD1839(イレッサ)」の輸入承認を日本で申請したと発表した。同剤は、英国アストラゼネカが世界各国で開発を進めている非小細胞肺がん治療薬(選択的な上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤)。臨床試験では、前治療で効果が認められなかった進行非小細胞肺がん患者に対する治療効果(がんの縮小・病勢安定)が確認されたという。なお、アストラゼネカでは今後、米国や欧州などでも同剤の承認申請を行うことを計画している。 

 ■ 2002年3月11日 株式会社じほう<日刊薬業>
◇ 日本での開発力は国際レベルに  アストラゼネカ 国内データの海外活用もスタート

 アストラゼネカのクラウス・ウィルヘルムソン氏(グローバル研究開発責任者)ら、研究開発首脳陣は、本紙記者の取材に対し、「日本における当社の医薬品開発はすでに国際水準に達している」との認識を示した。同社の日本法人は国際的な開発活動の一翼を担っており、日本での臨床試験データを海外で活用するケースも出始めているという。

 日本での医薬品開発についてジョン・パターソン氏(製品戦略・ライセンシング責任者)は「過去数年間で従来のやり方を根本的に変革した。ICHのE5もあり、すでに開発期間も欧米と変わらない。質の面でも高いレベルまで成長し、グローバル開発のリーディングカンパニーになった」と指摘。同社日本法人の加藤益弘氏(取締役研究開発本部長)も「E5を最大限活用している。開発中のものはすべて海外データの外挿を念頭に置いている。世界初の発売品目は日本でも6か月以内に発売できるようにする」と意欲を示した。これまで「アリミデックス」「ゾーミッグ」「ゾラデックス」(3か月1回投与型)で海外データの外挿に成功した。最近では逆に日本の臨床試験データを海外で活用するケースもあるという。今年は抗がん剤「イレッサ」、来年は、高脂血症治療薬「クレストール」など国際戦略製品の発売を見込んでいる。一方、世界規模での研究開発についてC・ウィルヘルムソン氏は「現在、全世界で約1万人の研究開発スタッフを抱えている。この業界で4番目に大きい。いろんな領域でリサーチしているが、すべてクリティカルマスには達している」とし、組織体制面の拡充はひとまず完了したことを指摘。今後は大学やベンチャー企業と実施している300を超える共同研究を地道に進め、「毎年15の開発候補物質を臨床試験に送り込み、3つの新製品を発売する」という目標達成にまい進する。研究開発費投資額は年間25億ドル(うち日本100億円)。売上高目標は全世界規模で早期にトップ3、日本で2005年までにトップ10入りをめざす。 

 ■ 2002年5月5日(張辛茹、医療ジャーナリスト)
◇ 2002.5.15 分子標的医薬「イレッサ」、固形癌に対する第1相試験結果が最終報告
話題の分子標的医薬「イレッサ」(Iressa、開発コード:ZD1839、開発:英国AstraZeneca 社)の第1相試験結果が、ついに論文発表された。非小細胞肺癌(NSCLC)だけでなく、食道癌や卵巣癌、中皮腫などの患者に対し、幅広い投与量での安全性が確認され、有効性も認められたという。研究結果は、Journal of Clinical Oncology(JCO)誌5月1日号に掲載された。

 ZD1839の標的分子は、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)のチロシンキナーゼ(TK)。 EGFRは多くの固形癌で過剰発現が認められており、EGFR-TKを阻害することで、細胞増殖につながるシグナル伝達を抑えて癌の増殖・転移を抑制する仕組みだ。同じ EGFR-TKをターゲットとする抗癌剤には、スイスRoche社が臨床開発中の「タルセバ」(Tarceva、開発コード:OSI-774、旧コード:CP-358,774)がある。両薬ともTK阻害作用を持つキナゾリン系の小分子で、経口投与が可能だ。

 EGFRはErbB受容体ファミリーに属しており、同じファミリーには、乳癌などの腺癌で過剰発現するHER2(ErbB-2)がある。これは、昨年6月にわが国で発売された注射薬「ハーセプチン」(一般名:トラスツズマブ、開発:スイスRoche社)の標的分子だ。また、昨年 12月に日本での販売が開始された経口薬「グリベック」(一般名:メシル酸イマチニブ、開発コード:STI-571、開発:スイスNovartis Pharma社)も、ZD1839と同様、TKを阻害することで抗腫瘍効果を発揮する。慢性骨髄性白血病などでみられる融合蛋白や、血小板由来成長因子(PDGF)などの受容体c-KitのTKが、メシル酸イマチニブの標的分子となっている。今回発表された第1相試験は、英米四つの癌研究施設で行われたもの。対象患者数は64人で、NSCLC、食道癌、卵巣癌、中皮腫、乳癌、前立腺癌などに罹患しており、うち 94%(60人)は既存の抗癌薬に反応しなかった。ZD1839は28日を1コースとし、1日1回 14日間連続投与した後、14日間休薬した。投与量は50〜700mgの8段階を設定した。

 その結果、一次評価項目である治療の「毒性」は、多くが皮疹(脂漏性皮疹など)と下痢、悪心、嘔吐などの皮膚・消化器系副作用であることが判明。グレード3以上の重篤な副作用は、下痢、嘔吐と腹痛が、1日700mg投与された4人の患者のみに認められた。こうした副作用が非常に軽いため、92%(59人)の患者は1コース以上の治療が受けられ、患者全体では154コースとなったという。

 なお、抗腫瘍効果としては、8カ月の観察期間にNSCLC患者16人中4人(投与量1日 300〜700 mg)で部分寛解(PR)が認められたほか、食道癌(1人)、卵巣癌(1人)、中皮腫(1人)、類癌性病変(1人)とNSCLC(3人)の計7人の患者で病状が安定(SD)した。また、肺癌患者における呼吸機能障害の改善や、骨転移患者の骨痛の緩和など症状緩和効果もみられた。研究グループは「ZD1839は、通常の抗癌剤によくみられる骨髄抑制、心毒性などの副作用がなく、皮疹や下痢が少し認められる程度の忍容性に優れた薬剤。肺癌をはじめ、固形癌治療の新たな選択肢として期待できる」と結論付けている。

 ZD1839の固形癌に対する治療効果を確認するため、現在、日本では胃癌、欧米では乳癌、前立腺癌を対象とした第2相試験が実施されている。なお、わが国では世界に先駆けて、今年1月にNSCLCに対する単独投与薬として承認申請が行われている。第4四半期には欧米でもNSCLCを適応症に、他の抗癌剤との併用投与薬として承認申請が行われる予定だ。

 この論文のタイトルは、「ZD1839, a Selective Oral Epidermal Growth FactorReceptor-Tyrosine Kinase Inhibitor, Is Well Tolerated and Active in Patients With Solid, Malignant Tumors: Results of a Phase I Trial」。アブストラクトは、こちらまで。 ZD1839の開発状況に関しては、AstraZeneca社の第1四半期業績報告(原文(PDF形式)及び邦訳)まで。 

 ■ 2002年5月17日 株式会社じほう<日刊薬業>
◇ 新分子標的抗がん剤のP2を報告
ASCOでZD1839 非小細胞肺がんに高い効果
 近畿大学腫瘍内科の福岡正博教授らの研究グループは、新しい分子標的抗がん剤として注目される「ZD1839」(製品名・イレッサ、アストラゼネカ、日米で申請中)のフェーズ2最終結果を米国臨床腫瘍学会(ASCO、米国オーランド)で19日、発表する。既治療の進行非小細胞肺がん患者に同剤を投与した場合の生存期間(中央値)は、通常の4〜5か月を上回る7.6か月(1日当たり250mg投与群)、8.1か月(同500mg投与群)にのぼっている。

 ZD1839は経口で作用する、選択的なEGFR―TKI(上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤)で、近年、注目を集めている分子標的抗がん剤のひとつ。EGFR―TKIは、がん細胞の浸潤と生存に影響を与えるEGFR―TKという酵素の活性を標的にしてブロックする、新しいタイプの抗がん剤。日本では、アストラゼネカがZD1839の輸入承認を申請したと1月に発表している。

 フェーズ2スタディーは、国際共同治験として実施されたもので、プラチナ製剤ベースの療法を含む治療をすでに受けたことのある進行非小細胞肺がん患者を対象に、250mg、500mgの投与量別に有用性を比較した。計210例が250mg投与群、500mg投与群にランダムに割り付けられた。無増悪生存期間(中央値)は2.7か月(250mg投与群)、2.8か月(500mg投与群)。生存期間(中央値)はそれぞれ7.6か月、8.1か月で、これは初回治療にほぼ匹敵する成績ともなっている。奏効率(著効+有効)はそれぞれ18.4%、19%。病勢コントロール率(著効+有効+病勢安定)はそれぞれ54.4%、51.4%となっている。

 一方、副作用の程度は、軽度〜中等度がほとんどで、皮疹や下痢などが主なもの。用量別に副作用を比較すると、250mgの方が頻度も程度も低かった。有効性の面では、2種の投与量はほぼ同程度の効果を示していることから、治療を受けたことのある進行非小細胞肺がん患者に対しては250mgの投与量を選択することが適切としている。

 ■ 2002.05.22 株式会社じほう<日刊薬業>
◇ 福岡・近大教授 抗がん剤イレッサの最終結果を明らかに
 近畿大学腫瘍内科の福岡正博教授らのグループは、新しい分子標的抗がん剤ZD1839(製品名・イレッサ、アストラゼネカ、日米で申請中)のフェーズ2(IDEAL1、国際共同治験)最終結果を米国臨床腫瘍学会(ASCO)で19日(米国オーランド)、発表した。

 IDEAL1は、プラチナ製剤ベースの療法を含む治療を既に受けたことのある進行非小細胞肺がん患者を対象に、1日250mg、1日500mgの投与量別に有用性を比較した。その結果、進行非小細胞肺がん患者に同剤を投与した場合の生存期間(中央値)は7.6か月(250mg投与群)、7.9か月(同500mg投与群)。QOLの観点から評価する症状改善率はそれぞれ40.3%、37%となった。奏効率(著効+有効)はそれぞれ18.4%、19%で、病勢コントロール率(著効+有効+病勢安定)はそれぞれ54.4%、51.4%。奏効率を国別に検討すると、日本人は両投与量ともに27.5%で、日本人以外の9.6%(250mg)、11.1%(500mg)よりも高い。この理由として、日本では患者の状態が比較的良い、腺がんが多い、前回受けた治療の平均期間が短い――などが考えられている。また、同剤の安全性では、とくに500mg投与群でグレード3/4の副作用が認められるがおおむね、軽度から中等度のものとなっており、今回の結果は同剤の有用性を示すものとなっている。福岡教授は今回結果について<1>通常4〜5か月の生存期間(中央値)が約8か月に延長されている<2>40%近い人に症状の改善が認められる<3>副作用が比較的少ない――などの点をポイントとしてあげている。

 ■ 2002年5月25日 朝日新聞東京朝刊
◇ 新抗がん剤、日本が世界初承認へ 肺がん治療に期待、異例の早さ
 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会は24日、肺がん用の新型抗がん剤「ゲフィチニブ(商品名・イレッサ)」の輸入を承認する方針を決めた。7月上旬までには承認される見通しで、一般に新薬を認めるのが遅い日本が、世界で最も早く承認することになる。

 厚労省によると、英国アストラゼネカ社が開発した飲み薬で、正常な細胞も攻撃してしまう従来の抗がん剤と異なり、がん細胞のみを標的にするという。非小細胞肺がんに効果があり、重い副作用も少ないとされる。

  今年1月に同社の日本法人(大阪市)が申請。ほかの治療法より有効との推定から優先的に審査され、異例の早さで承認方針が決まった。ただし、販売後も有効性や安全性を確認するため、国内で臨床試験するとの条件が付いた。

 ■ 2002年5月25日 読売新聞東京朝刊
◇ 肺がん新薬ゲフィチニブ 異例のスピード承認へ/薬事審
 肺がん細胞の増殖を抑える新薬「ゲフィチニブ」(商品名イレッサ)について、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会は24日、輸入を承認する方針を決めた。上部委員会の審議を経て、正式に承認される見通し。ゲフィチニブは英国の製薬会社「アストラゼネカ」が開発。今年1月輸入承認が申請され、異例の速さで手続きが進んでいる。この薬は、がん細胞の増殖にかかわるレセプターに直接作用する薬で、正常な細胞に大きな影響がなく、副作用が少ないという。

 ■ 2002年5月25日 毎日新聞大阪朝刊
◇ 肺がん治療の軽副作用新薬、承認 非小細胞がんに効果 厚生労働省
 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会は24日、副作用の軽い新しいタイプの肺がん治療薬「ゲフィチニブ」(製品名イレッサ)を承認した。治療が難しい肺がんの中でも従来の抗がん剤が効きにくい非小細胞肺がんの患者に効果が認められるという。来月12日の分科会の審議を経て、世界で初めて正式承認される見通し。

 ゲフィチニブは、肺がん細胞の増殖を阻止する「分子標的治療剤」。通常の抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常細胞も傷つけるため、強い副作用に悩まされることが多いが、ゲフィチニブはがん細胞にだけ働き、副作用が軽いとされる。英アストラゼネカ社が開発し、同社の日本支社が1月、厚労省に輸入承認申請していた。同社ホームページによると、世界の約400人の肺がん患者で臨床試験が行われた。それまでの治療で効果がなかった非小細胞肺がん患者に、がんの縮小、病状の安定などの効果があった。非小細胞がんは肺がんの約8割を占め、治療が難しい。 【須山勉】 

■ 2002年5月25日 毎日新聞東京朝刊
◇ 肺がん細胞の増殖を阻止 新薬、世界初の承認へ--厚労省
 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会は24日、副作用の軽い新しいタイプの肺がん治療薬「ゲフィチニブ」(製品名イレッサ)を承認した。治療が難しい肺がんの中でも、従来の抗がん剤が効きにくい非小細胞肺がんの患者に効果が認められるという。来月12日に開かれる分科会の審議を経て、世界で初めて正式承認される見通し。

 ゲフィチニブは、肺がん細胞の増殖を阻止する「分子標的治療剤」。通常の抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常細胞も傷つけるため、強い副作用に悩まされることが多いが、ゲフィチニブはがん細胞にだけ働き、副作用が軽いとされる。英アストラゼネカ社が開発し、同社の日本本社が1月、厚労省に輸入承認申請していた。同社ホームページによると、世界の約400人の肺がん患者で臨床試験が行われた。それまでの治療で効果がなかった非小細胞肺がん患者に、がんの縮小、病状の安定などの効果があった。非小細胞がんは肺がんの約8割を占め、治療が難しい。この日の部会では、手術不能だったり再発した非小細胞肺がんの患者に対し、1日1回の経口投与が認められた。

 厚労省によると、この治療薬は米国で申請の動きがあるが、承認した国はないという。【須山勉】

 ◇抗がん剤と併用も
小林国彦・埼玉県立がんセンター医長(呼吸器科)の話 がん細胞の増殖を止める薬は、肺がんでは初めて。化学療法による効果が望めなくなった患者にとって朗報だ。今後は、従来の抗がん剤との併用など、患者にとってより効果的な使用法の研究が求められる。

■ 2002年5月27日 じほう編集局
◇ 医薬品第二部会  肺がん用薬「イレッサ」承認を了承
 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会は24日、アストラゼネカの肺がん治療薬「イレッサ錠250」(新有効成分=ゲフィチニブ)の承認を薬事分科会で審議することを条件に了承した。優先審査対象である「イレッサ」は今年1月25日の申請からわずか4か月での部会了承で、「エイズ薬を除けば最も短い」(医薬局審査管理課)。

 ■ 2002年5月27日 共同通信
◇ 肺がん新薬の輸入を承認 厚労省部会が4カ月で
 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会は24日、非小細胞肺がんの新薬「ゲフィチニブ」(販売名イレッサ、アストラゼネカ社)の輸入承認に問題はないとする結論をまとめた。今年1月、世界に先駆けて日本で申請が行われ、約4カ月の短期間で部会承認となった。

 今後、上部組織の審議を経て正式に承認される見通し。世界的ながんの新薬が日本で初めて発売される珍しいケースとなる可能性がある。ゲフィチニブは、がん細胞の増殖にかかわる受容体の働きを妨げる「分子標的治療薬」の一つ。正常細胞には大きな影響を与えないことなどから、患者や医師の期待が高かった。

 申請は、日本を含む世界中の肺がん患者約400人を対象にした臨床試験データで行われた。
それまでの治療で効果がなかったがんが縮小したり、病状が安定するなど、ほかの治療に比べ、高い効果が見込まれたため優先審査の対象となった。手術不能だったり、再発した肺がんの患者に対し、1日一回、経口で投与する。

 ■ 2002年6月3日 読売新聞東京夕刊
◇ [すぺくとる]がんよ、おごるなかれ
 Astounded(仰天した)、Amazing(驚くべきこと)。先月、米臨床がん学会で発表された、がん新薬に対する専門家たちのコメントだ。

 脚光を浴びているのは「分子標的薬」と呼ばれる一群の薬。現在の抗がん剤は、がんを殺傷する一方、正常細胞にも大きな障害を与える。がん細胞の特定の場所(分子)を狙い撃ちするのが分子標的薬。ピンポイント爆撃のようなものである。同学会の記事で海外の通信社が取り上げていたのは、英アストラゼネカ社のイレッサ、スイス・ノバルティスファーマ社のグリベック、それに米ジェネンテク社のアバスチンなど。それぞれ標的とする場所は異なる。

 イレッサは他の治療法で効果がなかった肺がんで、がんの縮小や臨床症状の改善が確認されたという。効き目も早い。乳がん、前立腺がん、大腸がんでも臨床試験が進行中だ。

 グリベックは慢性骨髄性白血病の9割に効くが、今の抗がん剤がほとんど無効の消化管間質性腫瘍(しゅよう)(消化管のがん)でも、患者の6割でがんが縮小か成長が止まった。イレッサ、グリベックとも飲み薬である。

 ジェネンテク社のアバスチンは、がんに養分を供給する血管を作る分子を阻害する。末期腎臓がん患者で、がんの成長を抑えたと報告された。人間のがんで効果があった初の血管新生阻害薬だという。同社によると、腎臓がん以外でも効果が確認されつつある。過去2、30年、がん治療薬の開発は、期待と失望の繰り返しだった。それが、徐々にではあるが変化の兆しが見えはじめた。国内でもグリベックに続き、イレッサも近く承認される。がん細胞には標的の種類も多いらしい。あと10年、いや5年もすれば、がん治療は確実に変わるのではないか。がんよ、おごるなかれだ。(平)

 ■ 2002年6月13日 毎日新聞東京朝刊
◇ 新肺がん治療薬を世界で初めて承認--厚生労働省
 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会薬事分科会は12日、英国のアストラゼネカ社が開発した新しい肺がん治療薬「ゲフィチニブ」(商品名イレッサ錠250)を世界で初めて正式承認した。

2002年6月13日 読売新聞東京朝刊
◇ 肺がん新薬をスピード承認/厚労省
 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会薬事分科会は12日、新世代の肺がん治療薬ゲフィチニブ(商品名イレッサ)の輸入を承認した。ゲフィチニブは、既存の抗がん剤が効かないタイプの肺がん(非小細胞がん)を縮小させる効果があり、通常1年以上かかる手続きが約5か月に短縮された。承認にあたり、使用は手術不能例と、がん再発例に限定する条件が付いた。薬価の決定などを経て、秋ごろ使用開始の見込み。

2002年6月13日 共同通信
◇ 肺がん治療薬正式承認へ
 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会薬事分科会は12日、非小細胞肺がんの新薬「ゲフィチニブ」(販売名イレッサ、アストラゼネカ社)の輸入承認を決めた。がん細胞の増殖にかかわる受容体の働きを妨げる「分子標的治療薬」の一つで、効果の高さが期待されることから、今年1月の申請後、約4カ月半で優先審査が行われた。近く正式に承認され、世界的ながんの新薬が日本で初めて発売されることになりそうだ。 

 ■ 2002年6月14日 読売新聞東京朝刊
◇ 新肺がん治療薬 抗がん剤効かない患者に効果 広範な臨床データ必要(解説)
◆長期・広範な臨床データ必要

 新しい肺がん治療薬「ゲフィチニブ」(商品名イレッサ)が世界に先駆けて承認された。肺がん制圧への切り札となるのか。(科学部 佐藤俊彰)

 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会は12日、英国の「アストラゼネカ社」が開発したゲフィチニブの輸入を承認した。通常は検討に1年以上かかるが、わずか五か月で認められた。実際に、この錠剤が病院で使えるのは秋ごろになるとみられる。

 異例のスピード承認の背景には、肺がんの深刻な脅威がある。国内の肺がんによる死者は、昨年には5万5千人を記録。1998年以降は胃がんを抜いてがん死の中で最多となっており、2015年ごろには死者が10万人に達するとの予測さえある。肺がんは早期発見が難しく、抗がん剤の化学療法、放射線療法に頼るケースが多い。だが肺がんの8割以上は、抗がん剤の効きにくい「非小細胞がん」というタイプで、肺がんの5年生存率は2割以下と厳しい状況が続いている。

 そこに登場したのが、ゲフィチニブだった。申請に先立って日本と欧州で行われた治験では、既存の抗がん剤が効かない百人余りの肺がん患者のうち、2割でがんが縮小する効果が表れた。がんの成長が止まった患者を含めれば、半数以上に効いた。効果は服用開始から一週間くらいで出始めた。期待される理由は、その効果だけではない。従来の抗がん剤に比べると、白血球が減少するといった重い副作用がほとんど見られず、長期間、投与できる可能性が高いという利点も見逃せない。今のところ、副作用は皮膚の発しんや下痢など軽微なものに限られている。

 治験に加わった曽根三郎・徳島大教授は「戦後、抗菌薬が結核患者を激減させたように、肺がんとの闘いを根底から変える出発点になりうる」という。ゲフィチニブは、がん細胞の特定の部分だけを狙うことから「分子標的薬」とも呼ばれる。非小細胞がんなど幾つかのタイプのがんは、増殖する際に上皮成長因子(EGF)という生理活性物質(体内たんぱく質の一種)が重要な働きをするが、ゲフィチニブはEGFによって起こる一連の細胞分裂を妨害する。この結果、がん細胞は増殖できなくなる。

 従来の抗がん剤は、細胞の増殖を抑える点では同じだが、がん細胞と正常な細胞を区別せずに攻撃していたため、どうしても「薬の効き目を強めると、副作用もひどくなる」というジレンマが避けられなかった。分子標的薬は近年、脚光を浴びており、ゲフィチニブは、慢性骨髄性白血病用のイマチニブ(商品名グリベック)、乳がん向けのトラスツズマブ(同ハーセプチン)などと並ぶ「新世代薬」と高く評価されている。しかし、現段階での過剰な期待は控えたい。治験では、いったん縮小したがんが再び大きくなる例もあった。

 国立がんセンター中央病院の西條長宏・薬物療法部長も「がんを根治するような夢の薬とは違う。現状では、抗がん剤などの標準的治療が効かない場合の選択肢だ」と指摘する。どのくらい「延命」につながるか、ほかの抗がん剤と併用した時の効果はどうか、などの点はまだ詳しくわかっていない。薬事・食品衛生審議会も、こうした臨床データを長期的に広く集め、より効果的な治療法を探っていくことを承認の条件とした。今後も新薬の真価を見守りたい。 

 ■ 2002年6月14日 日本工業新聞社
◇ 新しい肺がん治療薬 スピード審査・承認 厚労省薬事分科会
 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会薬事分科会は、新しい肺がん治療薬「ゲフィチニブ」(商品名・イレッサ錠250)を承認した。分科会が同薬の有効性などから優先審査品目としたため、申請から四カ月半のスピード審査となった。

 ゲフィチニブは英国のアストラゼネカが開発した非小細胞肺がん剤。手術不能の末期がんや別の抗がん剤が効かない場合に投与される。同社の日本法人は「薬価の決定を経て、二カ月後をめどに販売を開始したい」としている。

 ■ 2002年6月27日 株式会社じほう<日刊薬業>
◇ 必要性高い新薬は迅速審査・厚労省・池谷課長 企業も優先審査薬の研究開発を
 厚生労働省医薬局の池谷壮一審査管理課長は26日に開かれた日本公定書協会の定期説明会で、申請後数か月で承認を得た医薬品が昨年11月以降3製品あることを紹介、「医療上の必要性が高く、有効性や安全性が高い医薬品は可能な限り迅速に審査を進めるよう努力する。製薬企業もそういう医薬品の研究開発に努力をお願いしたい」と述べた。

 厚労省は昨年来、優先審査の対象だった慢性骨髄性白血病治療薬「グリベックカプセル」(一般名・メシル酸イマチニブ)、抗ウイルス薬「レベトールカプセル」(リバビリン)、肺がん治療薬「イレッサ錠」(ゲフィチニブ)の3製品を申請後数か月で承認した。池谷課長はこうした現状を紹介し、製薬企業に優先審査の対象となるような製品の研究開発を要請した。また、小児用医薬品の開発について「毎度お願いしている。われわれも申請を出してもらわない限り、手も足も出ない。申請が出れば全力をあげて審査を進める」と強調。併せて「がん領域の医薬品で世界的に認められているのに日本はまだというものがある。また、がん以外でも世界中の教科書に載っていて医療上必要性が高いものがある。そういう医薬品の申請があれば全力をあげて審査する」との姿勢を表明した。

 一方、昨年4月からスタートした情報公開法で審査管理課関連の公開請求が増えていることも指摘。事務処理の円滑化に向け、製薬企業の協力を求めた。開示できる情報か、できない情報か、審査管理課で検討した後、当該製薬企業に最終確認を求めるが、返答が若干滞り気味になっているという。池谷課長は「公開請求がどっとくると通常業務に差し支える」とし、製薬企業に対して「医薬局の開示・非開示基準に沿って速やかな判断をお願いしたい」と要請した。薬事法改正案については「政省令数は最初120くらいと思っていたが、170くらいになりそうだ」とし、法案成立後、政省令案を示して業界の意見を聞く方針を明らかにした。

 ■ 2002年7月5日 株式会社じほう<日刊薬業>
◇ 薬価未収載薬で初の特定療養費化・・アストラゼネカの「イレッサ」患者の要望殺到で可能性強まる きょう5日に承認が予定されているアストラゼネカの非小細胞肺がん治療薬「イレッサ」(ゲフィチニブ)に対して、薬価未収載段階での投与を求める医療現場や患者の要望が殺到。企業側もなんらかの対応が必要な状況になっている。薬価未収載医薬品の投与は2002年度の診療報酬改定で特定療養費制度の対象になっており、同制度の"適用第1 号"となる可能性が高い。

 02年度の診療報酬改定では、医療機関や薬局に一定の条件を設け、あくまでも患者が希望した場合を前提に薬価未収載医薬品(薬事法承認後で薬価収載前の医薬品)の投与を特定療養費制度の対象とすることになった。これにより、薬剤料以外の診療費は特定療養費として医療保険の適用対象となり、薬剤料のみ患者から徴収することが可能になった。しかし、製薬企業関係者からは早くも運用の難しさを指摘する声が出ていた。患者からの薬剤料徴収に医療機関の理解が得られるかどうか、徴収額をどう設定するか −  など、「あまりに障壁が多く、実際に運用されるケースは少ない」という見方が強かった。そうしたなかアストラゼネカの非小細胞肺がん治療薬「イレッサ」の動きが注目されている。すでに薬価未収載段階での投与を求める要望が殺到しており、企業側も前向きに対応せざるを得ない状況になっている。

 薬価未収載医薬品を投与するには、サンプル提供という形もある。この場合、患者から薬剤料を徴収することはできず、費用はすべて製薬企業が請け負うことになる。また、サンプル提供は医療用医薬品製造業公正取引協議会の規約で「20症例」、「1か月」という制限があり、患者に不公平感が生じるおそれもある。「イレッサ」は原価も高く、推定患者数も1、2万人とされ、サンプル提供では対応しきれない。こうした状況を勘案すると同剤が薬価未収載医薬品の特定療養費化で"適用第1号"となる可能性が高い 

 ■ 2002年7月8日 共同通信
◇ 進行性肺がん治療薬供給へ  緊急性高く前倒し
 外資系製薬会社アストラゼネカ社(大阪市)は8日、厚生労働省から輸入承認が得られた進行性肺がんの新治療薬「ゲフィチニブ」(商品名イレッサ)について、医師や患者から強い要請があり、緊急性が高いとして、約2カ月かかるとみられる薬価収載を待たず、7月半ばから供給を開始すると発表した。

 ゲフィチニブは、治療が難しい進行性肺がんの分子標的治療薬として、日本など九カ国で治験を実施。1月末、輸入申請し、エイズ薬に次ぐ早さで7月5日、約5カ月の審査で承認され、進行性肺がんの治療薬としては、世界でも最も早い承認を受けていた。同薬は、手術不能または再発の非小細胞肺がんの新治療薬で、毎日一錠服用するだけでよく、骨髄抑制など、既存の抗がん剤のような強い副作用がないことが特徴。

 ■ 2002年7月9日 読売新聞東京朝刊
◇ 新肺がん治療薬「ゲフィチニブ」の供給早める
 新しい肺がん治療薬「ゲフィチニブ」(商品名イレッサ)について、製造元のアストラゼネカ社は8日、早ければ来週から医療機関への供給を始めると発表した。秋に予定される薬価収載を待たずに供給開始を前倒しするもので、医療機関では主治医の判断で使用が可能になる。ただ、薬価収載までは薬剤費は原則的に患者が全額を自己負担する。

■ 2002年7月9日 毎日新聞東京朝刊
◇ 新肺がん治療薬を今月中旬から供給--アストラゼネカ社
 アストラゼネカ社(大阪市)は8日、今月輸入を承認された新しいタイプの肺がん治療薬「イレッサ」(一般名、ゲフィチニブ)の供給を、厚生労働省の特定療養費制度に基づき、7月中旬から開始することを明らかにした。同制度が医薬品に適用されるのは初めてという。

■ 2002年7月9日 北海道新聞朝刊全道
◇ 肺がんの新治療薬 今月半ばから供給
 外資系製薬会社アストラゼネカ社(大阪市)は8日、厚生労働省から輸入承認が得られた進行性肺がんの新治療薬「ゲフィチニブ」(商品名イレッサ)について、医師や患者から強い要請があり、緊急性が高いとして、約2カ月かかるとみられる薬価収載を待たず、7月半ばから供給を開始すると発表した。

 同薬は、手術不能または再発の非小細胞肺がんの新治療薬で、毎日一錠服用するだけでよく、骨髄抑制など、既存の抗がん剤のような強い副作用がないことが特徴。

■ 2002年7月9日 中国新聞朝刊
◇ がん治療薬 前倒し供給へ 外資系製薬会社アストラゼネカ社
 外資系製薬会社アストラゼネカ社(大阪市)は8日、厚生労働省から輸入承認が得られた進行性肺がんの新治療薬「ゲフィチニブ」(商品名イレッサ)について、医師や患者から強い要請があり、緊急性が高いとして、約2カ月かかるとみられる薬価収載を待たず、7月半ばから供給を開始すると発表した。 

 ■ 2002年7月9日 日経BP
◇アストラゼネカが非小細胞肺癌治療薬「イレッサ」を薬価収載前から販売、特定療養費制度の初利用
 アストラゼネカは7月8日、特定療養費制度を利用して、非小細胞肺癌治療薬「イレッサ」(一般名:ゲフィチニブ)を薬価収載前から患者に販売すると発表した。2002年4月の診療報酬改定により、薬事法上の承認を受け、薬価基準への収載を希望している医薬品については、一定の条件を満たせば特定療養費制度の対象と認められるようになっている(関連トピックス参照)。適用されるのは「初めてのケース」(厚生労働省保険局)。この制度を利用するのは、「患者と医師の双方から強い要請がある。薬価収載まで約2カ月かかると予測しているので、それまで薬を供給せずに待たせるのは酷と判断した」(同社社長のマーティン・ライト氏)ため。

「イレッサ」は7月5日に承認を受けており(関連トピックス参照)、出荷準備が整う来週から実際に販売を開始する予定だ。なお、医薬品としての承認申請は1月25日で、抗エイズ薬を除けば5カ月あまりという最速で承認を受けたという。承認を受けたのは、世界でも日本が初めて。

 ゲフィチニブは、表皮成長因子(EGF)受容体のチロシンキナーゼ活性を選択的に阻害する薬剤。EGFが癌細胞膜表面のEGF受容体と結合すると、膜の内側にあるチロシンキナーゼ部位のリン酸化により活性化され、癌細胞の増殖や転移などを進むと考えられている。固形癌に対する分子標的医薬として、期待されている(関連トピックス参照)。

 2002年5月に開かれた米国臨床癌学会(ASCO)でも、「イレッサ」に関する研究報告がなされている(関連トピックス参照)。ドセタキセルなどを含む2度の化学療法が無効だった進行非小細胞肺癌患者に投与しており、これまでの治療法より良好な結果だった。また、肺癌に伴う息切れや咳、食欲減退などの症状も改善されている。しかし、症状は重くないものの、皮疹や下痢などの副作用が多くの患者に認められた。

 長期予後や初期治療薬としての「イレッサ」の有効性などに関するデータは、今後発表される予定になっている。 

 ■ 2002年7月10日 株式会社じほう<日刊薬業>
◇ アストラゼネカ「イレッサ」の薬価収載前供給を決める
 アストラゼネカのマーチン・ライト代表取締役社長は8日、記者会見し、先週5日付で承認を得た非小細胞肺がん治療薬「イレッサ」(一般名・ゲフィチニブ)を薬価収載前の段階で医療現場に供給する方針を明らかにした。薬事法承認後で薬価収載前の医薬品投与は2002年度の診療報酬改定で特定療養費制度の対象となっており、「イレッサ」が同制度の“適用第1号"となる。

 記者会見でライト社長は「非小細胞肺がん患者は予後が悪く、病勢の進行が早いので承認から薬価収載までの2か月間は患者によっては非常に長い。医師、患者からの強い要望を受けて薬価収載前の供給を決定した」と説明した。来週早々、供給活動を開始する。

 患者からの薬剤料徴収について加藤益弘取締役研究開発本部長は「一義的には医療機関が決めること」としながら、メーカー側としては「新しい薬なので比較対象がない。そのため研究開発のコストが基になると考えている」との見解を示した。具体的な価格は「類似薬としてグリベックがあるが、それよりは安く供給できると思う」と指摘。薬価収載希望価格と患者からの薬剤料徴収額は「かけ離れることはないだろう」と述べた。薬価収載前の出荷量は明らかにしていないが、紀ノ本正二代表取締役副社長・営業本部長は「患者さんや医師からの要求には十分こたえられる量を確保している」としている。なお、「イレッサ」の正式発売は薬価収載後。対象患者は1万8000人程度と推定している。今後、乳がん、頭頚部がん、前立腺がん、大腸がんなどの適応拡大を進めていく計画もある。ピーク時の売上高予測は数百億円。 

 ■ 2002年7月10日 株式会社じほう<日刊薬業>
◇ 「イレッサ」P2国際共同試験で病勢コントロール率54.4%
 アストラゼネカの非小細胞肺がん治療薬「イレッサ」が、患者や医療機関側からの要望を受けて、薬価収載前に医療機関に供給される見通しとなった。「イレッサ」は、選択的なEGFR―TKI(上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤)として、世界で初めて承認された分子標的治療薬。1日1回経口投与で、がんの増殖を抑制し、副作用も少ないことが特徴になっている。第2相国際共同臨床試験(IDEAL1)の結果によると、病勢コントロール率は54.4%、奏効率18.4%。自覚症状改善率は40.3%で、病状改善までの期間は8日(中央値)だった。日本人の副作用発現率は98.0%で、発疹や下痢などが主なものになっている。

 アストラゼネカの加藤益弘取締役研究開発本部長は、8日の同社会見で、<1>咳、喀痰など肺がん関連症状を早期に改善<2>副作用が少ない<3>1日1回経口投与――などの特徴から、「在宅診療を可能にし、患者のQOLに貢献できる」と説明した。イレッサは、日本では、日米欧で実施された日本人102例を含む国際臨床試験データを基に、2002年1月に申請。優先審査され、抗エイズ治療薬を除いては最短の審査期間で承認された。米国での承認は今秋の見込み。同社は、今後、頭頚部がんや大腸がんなどへの適応拡大をめざす。また、長期投与や既存の放射線療法と併用した場合などを検討する方針。

 ■ 2002年7月12日 薬事日報
◇ 中旬から「イレッサ」供給開始-アストラゼネカのライト社長が表明
 アストラゼネカ社長マーティン・ライト氏は8日に会見し、非小細胞肺がん治療薬「イレッサ錠250」(一般名ゲフィチニブ)の供給を、今月中旬から開始すると発表した。同剤は薬価未収載のまま供給されるため、特定療養費制度が適用される最初のケースとなる。5日付で製造承認を取得、すでに包装工程に入っている。なお薬価収載は9月上旬頃の見通し。

 イレッサは上皮成長因子受容体(EGFR)のチロシンキナーゼを阻害する分子標的治療薬。三極で同時開発され、日本で最も早く承認された初めてのケースとして注目された。効能効果は「手術不能または再発非小細胞肺がん」

 ライト社長は「患者の強い要望を受け、特定療養費制度の下で薬価未収載のままでの供給開始を決めた。しかしイレッサは魔法の新薬ではない。期待が過剰にならないよう節度ある情報提供を行う」と述べた。

 日本での治験は、化学療法で効果が得られなかった患者に対する二次治療として行われたもの。欧米で実施されている一次選択薬としての試験結果は秋頃に出る見通しだ。そのためライト社長は「データの範囲内でのみ使用を推奨する」としている。患者負担額についてライト社長は「医療機関が決めることだが、比較対照するものがないため、研究開発費をもとに決める。グリベック(ノバルティス・ファーマ社)よりは安く提供できるだろう」とコメントした。薬価収載後にはパッケージが変わることから、一部には供給量に対する不安もあったが、「患者のニーズに十分応えられる量を確保している」と語った。予想売上高については「大腸がん、前立腺がん、乳がん、頭頸部がん等の効能拡大試験の状況にもよるが、これらを追加できた場合には、ピーク時で数百億円の売り上げを期待する」(副社長・営業本部長紀ノ本正二氏)との見解を示した。

 イレッサの承認に要した期間は五カ月余り。エイズ治療薬を除けば最短記録となった迅速審査を、ライト社長は高く評価した。また「アストラゼネカの開発品は、すべて三極で同時開発している」と述べ、今後も国際共同治験に前向きに取り組む姿勢を明らかにした。 

 ■ 2002年7月15日 株式会社じほう
◇ 薬価未収載薬で初の特定療養費化・・アストラゼネカの「イレッサ」患者の要望殺到で可能性強まる
 5日に承認されたアストラゼネカの非小細胞肺がん治療薬「イレッサ」(ゲフィチニブ)に対して、薬価未収載段階での投与を求める医療現場や患者の要望が殺到。企業側もなんらかの対応が必要な状況になっている。薬価未収載医薬品の投与は2002年度の診療報酬改定で特定療養費制度の対象になっており、同制度の“適用第1号"となる可能性が高い。

 2002年度の診療報酬改定では、医療機関や薬局に一定の条件を設け、あくまでも患者が希望した場合を前提に薬価未収載医薬品(薬事法承認後で薬価収載前の医薬品)の投与を特定療養費制度の対象とすることになった。これにより、薬剤料以外の診療費は特定療養費として医療保険の適用対象となり、薬剤料のみ患者から徴収することが可能になった。しかし、製薬企業関係者からは早くも運用の難しさを指摘する声が出ていた。患者からの薬剤料徴収に医療機関の理解が得られるかどうか、徴収額をどう設定するか-など、「あまりに障壁が多く、実際に運用されるケースは少ない」という見方が強かった。そうしたなかアストラゼネカの非小細胞肺がん治療薬「イレッサ」の動きが注目されている。すでに薬価未収載段階での投与を求める要望が殺到しており、企業側も前向きに対応せざるを得ない状況になっている。

 薬価未収載医薬品を投与するには、サンプル提供という形もある。この場合、患者から薬剤料を徴収することはできず、費用はすべて製薬企業が請け負うことになる。また、サンプル提供は医療用医薬品製造業公正取引協議会の規約で「20症例」、「1か月」という制限があり、患者に不公平感が生じるおそれもある。「イレッサ」は原価も高く、推定患者数も1、2万人とされ、サンプル提供では対応しきれない。こうした状況を勘案すると同剤が薬価未収載医薬品の特定療養費化で“適用第1号"となる可能性が高い。

 ■ 2002年7月20日 朝日新聞東京朝刊
◇ 臨床試験の参加、損か得か?(かしこい!?患者学:16)
 薬の臨床試験(治験)の参加者を募る新聞広告をよく見かける。得か損かの相談を最近も受けた。

 薬の開発には患者を使った有効性、安全性の確認が欠かせない。無保険者が多い米国では医療付きの臨床試験は歓迎されるが、原則・皆保険の日本では関心は低く、半ば押しつけ的なものも以前は少なくなかった。

 全国紙広告は00年1月、塩野義製薬のうつ病薬が初めてだ。看護師や薬剤師が3週間で約6千本の電話を受け、病状や年齢など基準に合う約2千人を約150病院に紹介した。担当医師の判断で約200人が試験に参加、短期(4週)は毎週、長期(1年)は2週に1度通院し検査を受けた。 「治験参加は患者全体の利益になる」と、北里研究所臨床薬理研究所長で北里大学大学院教授の竹内正弘さん。臨床統計学者として9年間、米食品医薬品局(FDA)で働いた。「日本では専門家不足や医療現場任せもあって治験が停滞、新薬開発が遅れた。製薬企業が主体になり、新聞広告を通じることで治験の透明性が増し、患者も参加しやすくなる」と評価する。 参加者に余得が全くないわけではない。たいていは短い待ち時間でていねいに診察してもらえるし、交通費を含めて1回7千円から1万円程度の協力費が支払われる。

 最近は白血病薬グリベックや肺がん薬イレッサなどこれまでより効果が期待される薬も多い。一方、まれに抗ウイルス薬ソリブジンのように臨床試験で死者が出ることもある。情報を集めて主治医とよく相談しよう。 自分の薬の効き目が思わしくないうえ欧米で評判の新薬なら、早く使える分だけ臨床試験が得、ともいえる。
朝日新聞社(編集委員・田辺功)

 ■ 2002年8月21日 日刊薬業
◇ アストラゼネカ イレッサのプラチナ剤併用療法は生存率改善せず
 アストラゼネカは19日(英国ロンドン)、世界に先駆けて日本で承認された注目の抗がん剤イレッサとプラチナ製剤ベースの標準化学療法との併用療法は進行した非小細胞肺がん患者の生存率を改善しなかったと発表した。今回の結果は、INTACTトライアル(フェーズ3)の成績。良好な結果が得られたイレッサ単剤療法(IDEAL、フェーズ2)とは対照的な成績となった。同社では、「非小細胞肺がんに対する単剤療法の世界的な承認を引き続きめざすとともに、肺がんおよび他のがん種における最大限の可能性を追求する」としている。

 INTACTは、進行した非小細胞肺がん患者を対象に、イレッサとプラチナ製剤をベースにした標準化学療法の併用群と、標準化学療法単独群を比較した試験。引き続き解析が行われており、データは10月の欧州腫瘍医学会議(ESMO)で発表される予定。

 イレッサは世界に先駆けて日本で7月、手術不能または再発非小細胞肺がんの適応で輸入承認を取得。薬価収載をまたずに医療機関への供給を開始している。また米国では、進行した非小細胞肺がんに対する単剤療法で、申請中にあり、9月24日の諮問委員会で審議される予定。EUでは今後申請する予定。

 今回のINTACTの結果を受けて、近畿大学腫瘍内科の福岡正博教授は「詳細なデータをみていないので、明確なことはまだ言及できないが、どの時期にイレッサを投与すべきかを検討する新たな臨床試験を実施する必要があるだろう。また日本では、初回治療へのイレッサ投与に影響があろう。ただ、イレッサが患者のQOLを向上させることは示されているため、セカンドラインやサードラインの治療に同剤を用いることにメリットがあることは変わらない」とコメントしている。 

 ■ 2002年8月21日 株式会社じほう<日刊薬業>
◇ アストラゼネカ イレッサのプラチナ剤併用療法は生存率改善せず
アストラゼネカは19日(英国ロンドン)、世界に先駆けて日本で承認された注目の抗がん剤イレッサとプラチナ製剤ベースの標準化学療法との併用療法は進行した非小細胞肺がん患者の生存率を改善しなかったと発表した。 

■ 2002年8月22日 株式会社じほう<日刊薬業>
◇ 肺がん用薬イレッサが薬価収載へ  中医協総会  ピーク時に年間172億円を予測
 中央社会保険医療協議会は21日の総会で、今年4月の診療報酬改定で導入された「薬価未収載承認医薬品を対象にした特定療養費制度」の適用第1号となったアストラゼネカの非小細胞肺がん治療薬ゲフィチニブ(販売名「イレッサ錠250」)の薬価収載を了承した。 

 ■ 2002年8月22日株式会社しぼう<日刊薬業>
◇ 肺がん用薬イレッサが薬価収載へ
中医協総会 ピーク時に年間172億円を予測

 中央社会保険医療協議会は21日の総会で、今年4月の診療報酬改定で導入された「薬価未収載承認医薬品を対象にした特定療養費制度」の適用第1号となったアストラゼネカの非小細胞肺がん治療薬ゲフィチニブ(販売名「イレッサ錠250」)の薬価収載を了承した。また薬価算定組織と企業側の価格交渉が折り合わず薬価収載が見送られていた富山化学工業、三菱ウェルフアーマのニューキノロン系合成抗菌剤メシル酸パズフロキサシン(同「パシル点滴静注液300mg」「同500mg」および「パズクロス注300」「同500」)やツムラの医薬品・たばこ等誤飲時催吐薬トコンシロップ(同「トコンシロップ『ツムラ』」)の薬価収載も了承した。いずれも30日に薬価収載される予定だ。

 ゲフィチニブは経口投与の「分子標的治療薬」で、7月5日に承認された非小細胞肺がん治療薬。効能・効果は、手術不能または再発非小細胞肺がん。同様の薬理作用や効能・効果などをもつ類似薬がないため、原価計算方式で薬価算定された。算定薬価は250mg1錠・7216円10銭。発売後の予測販売金額は初年度58億円、ピーク時172億円。予測投与患者数は、初年度7500人、ピーク時1万9800人。薬価収載日から発売を開始する予定。

 なお、同剤は薬価未収載承認医薬品を対象にした特定療養費制度の適用第1号として7月中旬からすでに医療現場に供給(供給患者数・施設数は未公表)されているが、この日の中医協総会では、同制度下で医療機関が患者から徴収している薬剤料と今回示された算定薬価との関係などについての説明はとくになかった。

 ■ 2002年8月28日
◇ 日米で判定が分かれるか? 話題の抗癌剤「イレッサ」の評価
 2002年8月30日、アストラゼネカの話題の抗癌剤「イレッサ」(一般名:ゲフィチニブ/開発コード:ZD1839)が発売される。イレッサは癌細胞の表面に多発する上皮成長因子受容体(EGFR)というタンパクの働きをターゲットにした分子標的抗癌剤という新しいタイプの癌治療薬である。

 イレッサは国内では1998年から開発が進み、厚生労働省に承認申請されたのは2002年1月、約5ヵ月という異例の短期間で審査が終了し、2002年7月5日に承認された。イレッサの取得した効能・効果は、「手術不能または再発非小細胞肺癌」である。非小細胞肺癌は肺癌の80%を占める疾患で、いまのところ効果的な治療法は見出されていない。

 イレッサが承認された直後からに、開発企業のアストラゼネカや医療機関には患者の家族からの問い合わせが殺到したという。通常、医薬品は原則として承認後2ヵ月以内に行われる薬価算定を経て、正式に薬価が収載されなければ発売できない。しかし、あまりの反響の大きさに応えて、アストラゼネカは特定療養費制度に基づいて7月中旬から医療機関へ提供してきた。

 国内で承認された「イレッサ」単独による治療法は、2000年から国内と海外で同時に実施された2つのフェーズ2試験にもとづいて申請された。そのうち1つの試験において、被験者の20%弱で癌が半分以下に縮小し、約55%の被験者で癌の増殖が抑制されたという。癌治療において、癌の大きさが半分以下になることを「奏効」というが、イレッサはこの奏効率が高く評価された模様である。

 このフェーズ2試験に続いて、イレッサと白金製剤などによる標準的な癌化学療法との併用と、標準的治療との間で生存率を比較する「INTACT」名づけられたフェーズ3試験が行われていた。2002年8月19日、アストラゼネカはINTACTの結果について、標準的治療とイレッサを併用した標準的化学療法との間で、生存率に有意差を見出すことができなかったと発表した。

 アストラゼネカは日本で承認取得した単独療法で、欧州、米国とも承認を目指すとしているが、ある抗癌剤の臨床開発関係者は、海外では「イレッサ」の承認はかなり遅れるのではないかとみている。その理由は、海外では癌の大きさが縮小することよりも、患者がいかに長く生存するかを評価基準として重く見るからだという。

 アストラゼネカはその発表に先立つ8月7日、米FDAに対して申請データをすべて提出したと発表している。9月24日開催の癌治療薬に関する諮問委員会でイレッサに対する最初の審議がなされる予定だという。その審議結果によっては、日米間での癌化学療法の評価基準の違いが浮き彫りになるかもしれない。FDA諮問委員会の動きが注目される。

池田 豊
http://www.utobrain.co.jp/news/2002/082800/

 ■ 2002年9月2日 日経BP
◇ 厚生労働省、「イレッサ」など12品目の新医薬品の薬価基準を官報告示
 厚生労働省は、9成分12品目の医薬品の薬価基準を8月30日付けの官報で告示した。8月21日に開かれた同省の中央社会保険医療協議会の総会にて、承認されていたもの。今回薬価基準が収載される医薬品の中に、非小細胞肺癌治療薬である「イレッサ」(一般名:ゲフィチニブ)が含まれている。世界で初めて日本で承認され、特定療養費制度を利用して薬価基準収載前から販売するなど注目を集めている薬剤だ(関連トピックス参照)。

 薬価収載された製品名、一般名、薬価などは以下の通り。
・アストラゼネカの非小細胞肺癌用薬「イレッサ」(一般名:ゲフィチニブ)・・収載薬価は、250mg1錠が7216.10円。 

 ■ 2002年10月13日 asahi.com
◇ 肺がんを薬で治す《治療の最前線:2 》
抗がん剤の新しい組み合わせ。その臨床試験が世界を驚かせた。
今年1月、米国の著名な医学雑誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに日本から1本の論文が掲載された。

 二つの抗がん剤を新たに組み合わせて悪化した肺がんの治療効果を調べた報告で、2年後に生存している患者の割合が従来の標準治療より4倍近く高まったという内容だった。
「このがんの治療では、ここ20年近く大きな進歩がなかっただけに画期的な成果だ」と著者の一人、神奈川県立がんセンター呼吸器科の野田和正部長。「このがん」とは、小細胞肺がんという、比較的悪性度が高く、肺門部にできやすいがん。肺がんはがん細胞の性質によっていくつか種類があり=表=、小細胞がんは15〜20%を占める。がんとわかった時にはすでに肺の外に広がっている人が約6割。抗がん剤による治療が主になる。

 新しい方法は、日本で開発されたイリノテカンと、シスプラチンの併用。この方法と、従来の標準的な抗がん剤の組み合わせについて、患者の同意を得て二つのグループに無作為に割り振り、効果を調べた。成績は、新しい方法の2年生存率が19.5%なのに対し、従来の標準的な治療は5.2%。「意外だった」と、医師らが口にするほどの大きな差で、標準治療に振り分けられた患者が不利益を被るとして、試験が途中で中止された。

「欧米での追試で確かめられれば、日本発の研究成果が世界の標準的な治療法を書き換えることになる」と、国立がんセンターの西條長宏部長は期待する。

   ○  ○  ○
がんで亡くなる人のうち肺がんは年間5万2000人(99年)と最も多い。
肺がんの8割を占める非小細胞肺がんでは、治療はがんの進み具合、患者の年齢、体力などによって外科手術、放射線治療、抗がん剤が使いわけられる。「手術ができるのは25%程度」(福岡正博・近畿大医学部教授)だから、多くの患者は、化学療法や、化学療法と放射線の組み合わせに頼ることになる。

 今年7月、分子標的薬と呼ばれる新しいタイプの抗がん剤「イレッサ」が世界に先駆けて日本で承認されて注目された。副作用が比較的少ないのが特徴だ。日本や欧州で実施された臨床試験では、従来の抗がん剤で治療をしても効果がなかった患者に使った。患者の約2割では、がんの大きさが半分以下に縮小したと報告されている。例えば写真は、64歳の患者。手術後再発し、4種類の抗がん剤を使っても効かなかったのに、イレッサでがんの影が消えた。

   ○  ○  ○
ところが今月初めの日本癌(がん)学会で、イレッサを開発した製薬会社アストラゼネカが「既存の抗がん剤にイレッサを加えた治療法と、これまでの化学療法の生存率に差がなかった」という別の臨床試験結果を発表。論議を呼んでいる。

「イレッサは、効果がある人とない人がはっきり分かれるようだ。遺伝子から効きそうな人を予測するなど個々の患者に最適化した使い方に進むのではないか」と福岡教授はみる。

 厚生労働省の研究班は、01年度から肺がんの標準的治療のガイドラインづくりを進めている。肺がんの種類や悪化の状況により治療法をどう選ぶかなどをEBM(根拠に基づく医療)の手法で整理。来年度中には、専門医、一般医、患者や家族向けのものを公表する予定だ。

ガイドラインのとりまとめ役の藤村重文・東北厚生年金病院長はこう話す。
「自分が受けている治療法の利点、不利益などを理解してもらい、医師と話し合うのに役立ててほしい」

◆どこで治療を受けるか
外科手術の場合、一般の外科医が手術しているところもあるが、「お勧めは呼吸器外科の専門医にかかること」(藤村院長)。抗がん剤は強い副作用が出ることがあるので経験を積んだ医師に診てもらうのがいい。だが専門医(臨床腫瘍医)は米国には約2万人いるのに対し、国内では約300人程度。医師の専門は病院で相談するといい。

 国立がんセンターのホームページ(http://www.ncc.go.jp)で、がんセンターの経験やデータをもとにした同院の治療指針を紹介している。米国立がん研究所(NCI)にリンクし、米国の治療情報も得られる。

http://www.asahi.com/life/health/cancer/series/K2002101300100.html

 ■ 2002年10月15日 共同通信
◇ 肺がん新薬で死者13人 緊急安全性情報を指示
 効果の高さが期待され、異例の早さで輸入承認された進行性肺がんの新治療薬「ゲフィチニブ」(販売名イレッサ、アストラゼネカ社)について、厚生労働省は15日、死者13人を含む26人に間質性肺炎などの副作用被害が確認されたと発表した。同省は、同社に対し緊急安全性情報を出して医療機関に注意を呼び掛けるよう指示した。

 ゲフィチニブは、がん細胞の増殖にかかわる受容体の働きを妨げる分子標的治療薬の一つ。今年1月の輸入申請から約5カ月の異例の早さで承認された。現在承認されているのは日本のみで、近く米国やスイスなどでも承認される見通し。厚労省によると、7月半ばの供給開始から約3カ月で、40代から80代の末期肺がん患者に間質性肺炎などが見られた。記者会見に同席した工藤翔二日本医大教授は「副作用の発生頻度は他の抗がん剤に比べて高くはないが、死亡率が高い。服用開始から二週間以内で発症するケースが多いので注意する必要がある」と話している。

 アストラゼネカによると、これまでの使用患者数は約7千人。治験段階のデータでは急性肺障害や間質性肺炎が0.2―0.4%の頻度で起きることが分かっており、同社は使用上の注意の重大な副作用の項に「間質性肺炎」を記載していた。 

 ■ 2002年10月15日 日経BP
◇ 新規肺癌治療薬「イレッサ」でドクターレター 【緊急安全性情報】

 厚生労働省は10月15日、アストラゼネカに対し、非小細胞性肺癌治療薬のゲフィチニブ(商品名:イレッサ)に関する緊急安全性情報の配布を指示した。発売以降の3カ月間で、同薬との関連性を否定できない間質性肺炎などの肺障害が26例(うち企業報告22例)生じ、うち13例(同:11例)が死亡したため。肺障害の半数は、服薬開始後2週間以内に症状が発現、急速に進行していた。現在までの推定使用患者数は7000人以上。

 ゲフィチニブ服用の副作用によると考えられる間質性肺炎は、治験段階でも報告されており、既に添付文書における「使用上の注意」の「重大な副作用」欄に記載がなされていた。それにも関わらず肺障害症例の報告が相次いだため、今回、改めて「警告」欄を新設し、肺障害に関する記載を行って注意を喚起する。

「警告」欄には、「本剤の投与により急性肺障害、間質性肺炎があらわれることがあるので、胸部X線検査等を行うなど観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと」が記載された。さらに、「なお、患者に対し副作用の発現について十分説明すること」との一文も警告欄内に掲載された。

 具体的な注意事項としては、1.臨床症状(呼吸状態、咳および発熱等の有無)を十分に観察し、定期的に胸部X線検査を行う、2.必要に応じて胸部CT検査、動脈血酸素分圧(PaO2)、肺胞気動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)、肺拡張能力(DLco)などの検査を行う、3.急性肺障害、間質性肺炎等が疑われた場合には、直ちに本剤による治療を中止し、ステロイド治療等の適切な処置を行う--が挙げられている。

 また、患者への説明・指導事項も具体的に示されており、「本剤を投与するにあたっては、本剤の副作用について患者に十分に説明するとともに、臨床症状(息切れ、呼吸困難、咳および発熱等の有無)を十分に観察し、これらが発現した場合には、速やかに医療機関を受診するように患者を指導すること」との記載が行われている。 

 ■ 2002年10月15日 プレスリリース・緊急安全性情報
◇ イレッサ錠 250(ゲフィチニブ)による急性肺障害、間質性肺炎についての緊急安全性情報のお知らせ
 アストラゼネカ株式会社(本社:大阪市北区、代表取締役社長:マーティン・ライト)は、本日、イレッサ錠 250(ゲフィチニブ;以後本剤)による急性肺障害、間質性肺炎について緊急安全性情報を発出します。

 間質性肺炎に関しては既に添付文書の重大な副作用の項に記載されています。しかしながら、本年7月16日の本剤市場導入後、多くの患者の皆様がイレッサによる治療を開始されるに伴い、死亡例を含む急性肺障害、間質性肺炎の症例報告が増加してきました。当社は、現在までに集積された症例を検討した結果、稀ではあっても、本剤が急性肺障害、間質性肺炎を引き起こす可能性を排除できないと判断しました。急性肺障害または間質性肺炎を発現した患者の皆様が迅速に診断され、適切に治療されることが重要ですので、緊急安全性情報を発出するとともに、添付文書の改訂もあわせて実施します。

 急性肺障害および間質性肺炎は、診断が困難であり、肺がんに合併する症状との鑑別が難しい疾患です。更に、病因としては、感染症、放射線療法、薬剤、高濃度酸素療法およびこれらの要因の組み合わせが考えられています。また、急性肺障害、間質性肺炎および類似の症候が肺がん患者に発現することが知られています。従って、医師、薬剤師にこのリスクを十分理解していただくと同時に、本剤による治療開始前にこのリスクについて患者さんにも的確な情報提供していただくことが重要と考えます。

 本剤は現在までに世界中で30,000例以上に投与されており、急性肺障害、間質性肺炎の発生頻度は0.2%から0.4%と考えられます。(今後本剤の服用患者が増えるに従い、より正確な発生頻度を示すことができると考えています。)この発生頻度は、肺がん治療に用いられる他の薬剤に比べ、高い数値ではありません。

 本剤の適応症は進行非小細胞肺がんという殆ど治療の選択肢がない疾患ですが、本剤は当該患者の皆様にとって有効な忍容性の高い治療薬です。事実、本剤市場導入以降多数の著効例が報告されていますが、その他の重篤な副作用に関しての報告は極めて少ない状況です。

 アストラゼネカは、今回の緊急安全性情報ならびに添付文書の改訂によって、本剤がより適正に使用され、患者の皆様の利益が最大化されることを確信しております。
http://www.astrazeneca.co.jp/activity/press/02_10_15.html

 ■ 2002年10月15日 アサヒコム
◇ 新抗がん剤で急性肺障害、13人死亡 厚労省が緊急情報
 今年7月、世界で最初に日本で承認された肺がん用の新型抗がん剤「ゲフィチニブ」(商品名・イレッサ)で、これまでに肺炎など急性肺障害が起きた報告が26人あり、うち13人が死亡したと厚生労働省が15日発表した。いずれも重いがん患者だった。厚労省の指示で販売元のアストラゼネカ社(大阪市)は緊急安全性情報を出し、医療機関に注意を呼びかけている。

 この薬は、英国アストラゼネカ社が開発した飲み薬。正常な細胞も攻撃する従来の抗がん剤と異なり、がん細胞のみを標的にするため、副作用は比較的少ないとされていたが、肺障害を引き起こすことがあることは分かっていた。今年1月に、承認申請され、ほかの治療法よりも有効との推定から、優先的に審査され、異例の早さで承認が決まった。

 販売元によると、9月末までに約26億円の販売実績があり、推定使用患者は約7000人。臨床試験なども含め世界で約3万人に投与され、0.2〜0.4%の割合で肺障害が起きているという。 

 ■ 2002年10月15日 読売新聞
◇ スピード承認の肺がん治療新薬、副作用で13人死亡
 今年7月に発売されたばかりの肺がん治療薬「ゲフィチニブ」(商品名イレッサ)を投与された末期がん患者13人が、副作用による急性肺障害などで死亡していたことがわかり、厚生労働省は15日午前、輸入販売元の「アストラゼネカ」(本社・大阪)に対し、緊急安全性情報を医療機関に配布するようよう指示した。英国で開発されたゲフィチニブは、既存の抗がん剤が効かない肺がん患者にも効果があるとして注目され、同省が世界に先駆けて輸入を承認していた。同剤の添付文書には、「重大な副作用」として間質性肺炎が記載されているが、同省では改めて医療機関や患者に細心の注意を払うよう呼びかけている。

 同剤は、がん細胞に多く現れる特定のたんぱく質を狙い撃ちするという、これまでの抗がん剤とは異なる効き目があり、治験段階では、既存の抗がん剤が効かない肺がん患者のうち、2割でがんが縮小する効果があったとされる。また、錠剤のため患者の負担が少なく、既存の抗がん剤に特有な白血球減少などの副作用も少ないとされていた。

 今年1月25日に承認申請が出され、7月5日に承認された。通常の審査期間が1年以上かかるのに比べると、「スピード承認」だった。同月16日の販売開始以来、3か月間で約7000人に投与されている。添付文書に記載された副作用については、患者に説明の上で、投与することになっている。ガンのことは身内にはかかった人はいないため,現実味がなかった。しかし,薬に関してはサリドマイドがそうだったように,誰にでも関係してくるようなものである。やはり多くの実験に基づいた正確なデータがなければ使用してはいけない 

 ■ 2002年10月16日 日刊薬業
◇ アストラゼネカ 紀ノ本副社長 営業数値目標・適応拡大計画を見直しヘ
 アストラゼネカ(日本法人)の紀ノ本正二代表取締役副社長・営業本部長は11日、本紙の取材に応じ、世界に先駆けて日本で承認、販売されている非小細胞肺がん治療薬「イレッサ」(一般名・ゲフィチニブ)の営業数値目標、適応拡大計画を全面的に見直す方針を明らかにした。

 本国親会社が中心になって進行した非小細胞肺がん患者を対象に、イレッサと標準化学療法の併用群と標準化学療法の単独群の比較試験(INTACT)を実施したが生存率に有意差が認められなかった。これまでの営業数値目標や適応拡大計画は親会社の試験で有意差が出ることを前提に打ち立てていたので、再度、検討し直すことになった。

 現在、日本で認められているイレッサの効能・効果は「手術不能または再発非小細胞肺がん」。臨床現場では、いわゆるセカンドライン(第二化学療法)に位置づけられている。INTACTの結果が良ければ標準化学療法との併用が認められ、ファーストライン(第一化学療法)での使用も進むはずだった。しかし、結果的に標準化学療法単独との有意差が出なかった。営業本部の桂淳オンコロジー事業部長は「新しいことがわかったわけでネガティブにとらえていない。今後、データを十分分析したうえで、新たなトライアルのデザインを検討することになる」としている。実際、臨床家のなかには「すでに効果が出ている標準化学療法に、新たな薬を追加して有意差を得ようとするトライアルそのものに無理がある」との声もあるという。また、桂部長は試験結果に対する国内臨床現場の反応について「もともとセカンドライン以外の使用は勧めておらず、とくに大きな驚きはないようだ」と説明した。紀ノ本営業本部長は「イレッサの成長が予定通りにいかないというだけの話。当社のパイプラインは充実しているので事業面での影響はない」と話している。INTACTの結果は10月18〜22日に開かれる欧州腫瘍医学会議(ESMO)で公表される。

 ■ 日刊薬業 2002年10月16日(水)
◇ アストラゼネカ 紀ノ本副社長 副作用など情報提供を第一に考えている
 アストラゼネカ(日本法人)の紀ノ本正二代表取締役副社長・営業本部長は11日、本紙の取材に応じ、非小細胞肺がん治療薬「イレッサ」(ゲフィチニブ)の国内営業活動について「新しい治療薬であり、副作用を含めた情報提供を第一に考えている。セールス目標を追求するような姿勢はとっていない」との見解を表明した。

 通常の抗がん剤に比べて医療機関側の受け入れは早く、供給を開始した7、8、9月の3か月合計(特定療養費下での供給含む)で採用病院数は約900〜1000件。投与患者は推定約6000〜8000人にのぼるという。当初発表していたピーク時の予測投与患者数が約2万人だから、すでにその過半数に迫る勢いだ。ただ、桂浮オンコロジー事業部長は「今後は臨床研究も進み、おそらく投与患者も選ばれていくことになる。

 『ハーセプチン』『グリベック』『リツキサン』などの例をみても、販売開始直後は大きく伸びるが、その後は横ばいになる。おそらくイレッサも3か月後がピークになる」と予測している。なお、7、8、9月の合計売上高は「約25億円」としている。

 ■ 2002年10月16日 日刊薬業
◇ 「イレッサ」でDrレター配布を指示 厚労省 肺がん用新薬で13例の死亡報告
 厚生労働省医薬局は15日、アストラゼネカの肺がん治療薬「イレッサ錠250」(一般名・ゲフィチニブ)の投与を受けた患者で、間質性肺炎等による死亡事例が多数報告されたことを受け、同社に緊急安全性情報の作成、医療機関への配布を指示したことを明らかにした。今年7月16日の販売開始後の約3か月間で、間質性肺炎の副作用報告が26例あり、うち13例が死亡していることが判明。新たに設ける警告欄では、投与から2週間以内の早い時期に間質性肺炎を発症するケースが多いことから、服薬開始後早期の状況を胸部X線検査等で十分観察するよう強く求める。

 従来の抗がん剤とは異なる分子標的治療薬の「イレッサ」は、手術不能、再発非小細胞肺がんを効能・効果とする1日l回の経口剤。海外での承認事例はないものの、医療現場からのニーズが高く、優先審査で申請から約半年後の7月5日に正式承認され、薬価収載前に特定療養費制度を活用して供給開始された経緯がある。今年9月末までの販売実績は約26億円、推定使用患者数は約7000人で、10月時点で1010病院に納入されている。

 今回問題となった「間質性肺炎」は治験段階から明らかになっている副作用で、すでに使用上注意の「重大な副作用」に盛り込まれている。ただ、販売開始後の約3か月で、死亡13例を含めた被害が26例報告されたため、新たに設ける警告欄で「本剤投与で急性肺障害、間質性肺炎が現れることがあるので、胸部X線検査等を行うなど観察を十分に行い、異常が認められた場合は投与を中止し、適切な処置を行う」ことを明記、副作用発現への注意喚起を改めて促す。また、報告された26例のうち、14例が投与開始後2週間以内に症状を発症していることから、投与開始早期での胸部X線検査等の実施を求める。重要な基本的注意では、必要に応じ、胸部CT検査、動脈血酸素分圧(PaO2)、肺胞気動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)などの検査が必要になるとの考えも盛り込んだ。 

 ■ 2002年10月16日 薬事日報
◇ イレッサ錠に肺障害の副作用発生
 肺がんの治療薬として7月16日に発売されたゲフィチニブ(商品名イレッサ錠250)を使用した患者に3ヵ月間で、同剤との因果関係が否定できない間質性肺炎を含む肺障害の副作用が発生し、うち13人が死亡していたことが明らかになった。そのため厚生労働省は16日、輸入・販売元のアストラゼネカに対し「緊急安全性情報」(ドクターレター)を医療機関に配布するよう指示した。

「イレッサ錠」は申請から約6カ月という異例のスピード承認を受け、海外に先駈けて我が国で初めて承認された。分子標的治療薬という新しい作用機序を有する薬剤で、選択的に腫瘍の増殖や分化、転移に関連するシグナル伝達経路を遮断することで抗腫瘍効果を発揮する。がん細胞を特異的に標的とするため、化学療法剤などに比べ副作用が少ないのが特徴。

 これまで多くの末期患者に使用され、発売から9月末までの売上げは約26億円。推定使用患者数は約7000人。特定療養費制度が適用された7、8月には全国の460件の医療機関(200床以上)に納入され、10月までには1010件の機関に納入された。ゼネカ社によれば、全国の肺がん治療を行う医療機関の8割以上に相当する。http://www.yakuji.co.jp/yakuji/headlinenews/hln2002101602.html 

 ■ 2002年10月21日 日経BP
◇ 「イレッサ」にイエローカード、服用者に間質性肺炎が発症 
非小細胞肺癌を治療する「夢の薬」とも言われた、ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)の安全神話は崩れ去ってしまった--。10月15日、厚生労働省はゲフィチニブに関して、使用上の注意の改訂、医療関係者に対する緊急安全性情報の配布を、製造販売元のアストラゼネカに指示した

 ゲフィチニブの適応症は、従来の抗癌薬が効きにくい非小細胞肺癌。手術不能例と再発例が対象とされており、既存の抗癌剤の適応となれば処方は可能だ。服用者のほぼ全例で脂漏性発疹や下痢が発生するものの、副作用が非常に軽いとされており、しかも経口で服用できる。それだけに、医師・患者ともにこの薬に寄せる期待は大きかった。わが国では世界に先駆けて、今年7月5日に承認。薬価収載は8月30日だが、それより前の7月中旬から、特定療養費制度を利用した販売が行われていた(関連トピックス参照)。年間約5万人にも上る肺癌末期患者のほとんどが恩恵を受けるとも言われた。

 ところが、販売後3カ月、薬価収載後1カ月にして、ゲフィチニブの服用との「関連性を否定できない間質性肺炎を含む肺障害」が発生した。ゲフィチニブの服用者に、間質性肺炎を含む肺障害が26例(うち死亡13例)報告されたのだ。

 この事態は、予想できないことではなかった。治験段階でもゲフィチニブ服用による間質性肺炎の発症は報告されていた。ただし、当時は服用者の人数が少なかったこともあって、ゲフィチニブと間質性肺炎の関係は不明だった。間質性肺炎・肺線維症に詳しい東京大学老年病科講師の長瀬隆英氏は、日経メディカル2002年9月号の記事で注意を喚起しており、「ゲフィチニブによって、薬剤性肺線維症がどのくらいの頻度および程度で発生するのか、今後の報告が待たれる」と話していた。

 今回の緊急安全性情報の発出を受けて、長瀬氏は「ゲフィチニブが本格的に使用されるようになって1カ月のうちに、服用者約7000例中26例(約0.4%)で間質性肺炎が発症し、しかも13例(約0.2%)が死亡に至ったというのはかなり高い発症率と言える。発症までの時期としても1カ月以内というのはかなり短い」と指摘する。通常、薬剤性間質性肺炎は、薬剤の服用を中止すれば症状が改善する。だが、これまで報告されている、ゲフィチニブによる間質性肺炎では、中止後も症状が軽快せずに死に至った例もあった点を長瀬氏は重く見る。

 ともあれ、今後ゲフィチニブの投与の際は、細心の注意が必要とされる。アストラゼネカは同薬の投与に当たり、胸部X線検査を定期的に実施して、その上で胸部CT検査、動脈血酸素分圧(PaO2)、肺胞気動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)、肺拡散能力(DLco)などの検査を行うように注意を促している。この点に関し、長瀬氏は「(胸部X線検査だけでなく)肺機能検査を毎回やるくらいの注意が必要だ」と話す。肺障害が起こった場合は、最初にDLcoの低下が見られるためだ。その場合、直ちに全ての薬剤投与の中止が必要となる。

 また、近畿大学第四内科教授の福岡正博氏は、「間質性肺炎が急速に悪化する例は、元々重症な患者である可能性が高い」と指摘する。咳や呼吸困難が現れた場合は、すぐ医療機関を受診するようあらかじめ指導すると同時に、「重症な患者に対しては、処方を控えた方が良いだろう」との考えだ。

 とはいえ、「現在、非小細胞肺癌に対する有効な治療が無いことも事実」(長瀬氏)であり、リスクを承知で投与に踏み切らざるを得ない状況も少なくない。長瀬氏は「ゲフィチニブを処方する際は、ほかの化学療法と同様に危険を伴っていることを認識することが重要だ。処方に先立って、患者にリスクを説明し、了承を得た上で使用することが求められる」と話している。(星良孝、日経メディカル) 

 ■ 2002年10月22日 読売新聞>医療
   ◇ 優先審査薬で「副作用」相次ぐ
   ◆医師の問題意識の低さも背景に・・優先審査を受けた医薬品2品目に、相次いで副作用の問題が起きた。
(科学部・佐藤 俊彰 社会部・渡辺 亮)

 医薬品の優先審査制度は1993年の薬事法改正で導入された。「重い疾病の治療薬で、有効性、安全性が既存の医薬品と比較して明らかに優れている」ことが条件で、他の医薬品の承認申請の順序を飛び越して審査され、通常1年余りの審査期間が、半年余りに短縮される。緊急性の高い医薬品を少しでも早く使えるようにするための重要な制度で、米国の炭疽(たんそ)菌事件後には、日本で承認済みの医薬品の、炭疽治療薬としての効能追加が優先審査された。この制度が適用された医薬品で相次いで、副作用の問題が持ち上がったのはなぜか。

 C型肝炎治療薬「リバビリン」(商品名・レベトールカプセル)は、患者5人に脳出血などの副作用があったとして、厚生労働省が先月10日、注意喚起のための「安全性情報」配布をメーカーに指示した。しかし、その後さらに11例の副作用の報告があり、うち9例は注意喚起以前に発生した事例だった。これは、メーカーの情報収集体制が十分機能していなかったことを示している。副作用報告の遅れは、対策の遅れに直結する。

 新薬の有効性、安全性は承認段階で、必ずしも定まってはいない。リバビリンはもともと貧血、抑うつなど強い副作用のある薬だと知られていたのにもかかわらず、副作用の事例をすぐにメーカーに通報できなかった医療機関側の問題意識の希薄さにも問題があるだろう。一方、販売開始後わずか3か月で、26人が間質性肺炎などの重い肺障害を起こし、うち13人が死亡した肺がん治療薬「ゲフィチニブ」(同・イレッサ)については、添付文書に「重大な副作用」として、「間質性肺炎」が記載されていた。

 日本医大の工藤翔二教授は「期待の新薬で短期間に多くの患者に投与された。錠剤で投与しやすく、従来の抗がん剤より副作用が少ないという先入観が、医師の意識に影響したかもしれない」と指摘する。世界に先駆けて承認されたゲフィチニブは治験段階では、日本人に限ると、3割近くでがんが小さくなる効果が確認された。がん細胞を狙い撃ちする特性があるとされ、重い副作用は少ないのではと期待されていた。

 しかし、承認申請時の治験数は、海外実施分を含めてもわずか200例余り。本当に患者の延命につながるのか、他の抗がん剤との併用に問題はないのか、といったデータはなく、慎重な投与が必要なことは言うまでもない。京大病院探索医療センターの福島雅典教授は「すぐに他の抗がん剤との併用を禁止するなど制限が必要」と警告する。一方、ゲフィチニブの治験に加わった徳島大の曽根三郎教授は「(副作用の問題で)この薬の価値が下がるとは思わないが、どんな薬も、両刃の剣であることは忘れてはならない。こうした薬を、専門知識を持たない医師も使ってしまうことも問題だ」と話す。

 優先審査される薬は、患者にとって「最後の頼みの綱」である場合が多い。しかし、「効く」薬は、人体への影響も大きい。「新しくていい薬が出ました」としか言わないような医師には、患者も一歩踏み込んだ説明を求める姿勢が必要だ。

(2002年10月22日) http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news_i/20021022so11.htm

 ■ 2002年10月24日 日刊薬業
◇ アストラゼネカ イレッサ、標準化学療法との併用で延命効果なし
 アストラゼネカは22日、INTACT臨床試験のデータがフランス・ニースで21日に開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で報告されたと発表した。INTACT1および2は、化学療法未治療の進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象とした第3相無作為化比較試験で、それぞれの試験に1000症例以上が登録された。臨床試験は十分に検討された試験計画のもとで実施されたが、イレッサ(一般名・ゲフィチニブ)は未治療の進行非小細胞肺がんにおいて、白金製剤ベースの標準化学療法単独投与と比較して、標準化学療法との併用で延命効果を示さなかった。 

 ■ 2002年10月26日 アサヒコム
◇ 肺がん用新抗がん剤ゲフィチニブによる死者、39人に
 肺がん用の新型抗がん剤「ゲフィチニブ」(商品名・イレッサ)の副作用問題で、輸入販売元アストラゼネカ社(大阪市)は26日、医療機関から肺炎などの副作用の連絡があった患者が125人に増え、うち死者が39人になったと発表した。また、厚生労働省が13人の死亡を発表した今月15日の時点で、同社は69人(うち死者27人)の副作用情報を把握していたのに、同省には22人(同11人)しか報告していなかったことも明らかにした。

 厚労省は、47人分の過少報告について「把握後すぐ報告すべきだった。極めて遺憾」とし、法的に問題がなかったかどうか調査する方針。薬事法では、予測できる副作用については、把握後30日以内の報告を製薬会社に義務づけているが、重い副作用の発生頻度などが予測と異なる場合には15日以内としている。

 厚労省は15日に、同社からの報告と同省独自に把握した症例から、26人に副作用が見られ、うち13人が死亡したと発表していた。26日、厚労省で会見した同社は、15日時点で、47人は報告期限の30日に達していないと判断したと釈明。しかし、「その判断は正しくなかった」として社内体制の見直しを明らかにした。また、今年7月の販売開始から今月下旬までに国内では推定で1万〜1万1000人の患者に投与されたとし、医療機関で適正に使われているかも調べるという。この薬は、英国アストラゼネカ社が開発した飲み薬。手術不能な肺がん患者などに使われる。正常な細胞も攻撃してしまう従来の抗がん剤と異なり、がん細胞だけを標的にする。

 今年1月に申請。ほかの治療法よりも有効との推定から優先審査の対象になり、世界に先駆けて7月に異例の早さで承認された。臨床試験などで世界中で約3万人が服用し、0.2〜0.4%の患者に肺炎などの副作用がみられるという。

 ■ 2002年10月29日 共同通信
◇肺がん新薬で厚労省が指導
 進行性肺がんの治療薬「ゲフィチニブ」(販売名イレッサ、アストラゼネカ社=大阪市)の副作用被害をめぐり、同社が被害者数の一部を厚生労働省に報告していなかった問題で、厚生労働省は28日、同社に副作用情報の迅速な報告を求める通知を出し、行政指導した。

 通知は、ゲフィチニブを適切に使うための情報提供が不適切だったとして、副作用情報を医療関係者へ周知徹底するよう指導。再発防止対策を11月27日までに報告することを求めている。

 ゲフィチニブは非小細胞肺がんなどの治療に用いる分子標的治療薬。同社は10月15日、死者11人を含む22人に間質性肺炎などの副作用が出たと報告したが、その時点で把握していた別の47人分の副作用を報告しなかった。 

 ■ 2002年10月30日 日刊薬業
◇厚労省 イレッサで市販後安全対策の徹底を通知

 厚生労働省医薬局安全対策課は28日付で、アストラゼネカの肺がん治療薬「イレッサ」の副作用報告問題で、同社に市販後安全対策の徹底を求める課長通知(医薬安発第1028010号)を出した。通知では、アストラゼネカが販売しているイレッサを含めた全製品の市販後安全対策体制、実施状況の自主点検を指示するとともに、点検結果を11月27日までに報告するよう求めた。また、(1)急性肺障害や間質性肺炎などの重篤な副作用情報等の迅速な収集、検討に努める(2)収集・検討した副作用情報等の適正な厚生労働省への報告に努める(3)医療関係者への適正使用情報のさらなる提供に努め、医療関係者における本剤の適正使用に関する理解を促す − の3項目も盛り込んだ。

 一方、緊急安全性情報の配布を指示した15日時点で、同社が69症例の副作用情報を把握していながら22例しか報告しなかったことについては「市販後の安全対策の根幹である、適正使用のための情報提供、副作用等の情報収集、収集した副作用情報等の検討、厚生労働省への報告にかかわる企業内の体制、実施が不適切であった蓋然(がいぜん)性が高いと考えられる」と企業側の対応を厳しく指摘した。

 ■ 日刊薬業 2002年10月30日
◇ 厚労省 通知で市販後安全対策の徹底求める
 厚生労働省医薬局安全対策課は28日、アストラゼネカの「イレッサ」をめぐる副作用報告問題を受け、日本製薬団体連合会に市販後安全対策の徹底を求める課長通知(医薬安発第1028011号)を送付した。通知では「製造業者等における市販後安全対策の根幹である副作用情報報告等にかかわる社内体制、取り組みが不適切だったことに起因すると考えられる事例が見受けられた」と明記。そのうえで加盟各社の適正な市販後安全対策の徹底を改めて呼びかけた。 

■ 2002年11月17日 毎日新聞
◇ イレッサ副作用:過少報告 問われる企業モラル
企業モラルを疑うような出来事が、今度は製薬会社で起きた。大阪市北区のアストラゼネカ社が7月に発売した肺がん治療薬「イレッサ」(一般名・ゲフィチニブ)の副作用数を、厚生労働省に過少報告していたのだ。ちょうど国会では、医薬品の安全対策部門の一部を独立行政法人化する法案が審議中で、「医薬品の安全性強化に逆行する」と批判を浴びている。ア社のケースを“警鐘”と受け止めなければ、薬害根絶は望むべくもない。 【須山勉】

●情報隠して3分の1に過少報告
問題の経過を関係者の話をもとに再現した。
10月15日 午前11時10分、厚労省医薬局安全対策課とアストラゼネカ社が緊急の記者会見を開いた。投与された患者26人(うち死亡13人)に肺障害の副作用が起き、このうちア社が受けた報告は22人(同11人)と発表。ア社は医療機関に「緊急安全性情報」を配布して注意を呼びかけた。

同25日 午後3時半すぎ、ア社の担当部長ら4人が「15日以降の状況をご説明したい」と安全対策課を訪問。同課の池田年仁・安全対策企画官らは提出された数枚の資料を見て、驚いた。「なんですか? これは」

15日の時点でア社が把握していた副作用情報が22人から69人に修正され、死亡例も11人ではなく27人分を入手していたことが分かった。池田企画官らは早急に正確な数を公表するよう指導した。

同26日 午後3時45分からア社が厚労省で会見した。マーティン・ライト社長は冒頭、15日以降の経過を説明したが、15日の時点で69人の副作用情報を把握していた事実は伏せた。同省の黒川達夫・安全対策課長が席上、「69マイナス22の部分が、私どもにお話しがなかったことは極めて遺憾で、残念」と発言し、初めて過少報告していたことが明るみに出た。

●規則上、罰則なし
新しく開発された医薬品は通常、有効性や安全性を確認するため、ヒトへの試験(治験)が行われたうえで、承認される。治験は高齢者や持病を持つ患者などを対象としないため、市販後に新たな副作用が発覚することは珍しくない。問題は副作用をいかに迅速に把握・報告し、安全対策に結びつけるかだ。

薬事法施行規則は、使用上の注意から予測できる副作用で患者が死亡、重症になった場合、それを知ってから30日以内の厚労省への報告を製薬会社に義務付けている。

ア社によると、10月15日に公表した22人分は、30日以内の報告期限が迫っていた。残り47人分は期限まで間があったうえ、患者の性別や副作用の症状程度しか分からないケースも含まれていたため、さらに情報を集めてから報告しようと考えたという。ア社の加藤益弘副社長は会見で「30日以内の報告という意味では、過少申告ではなかった」と釈明した。

しかし、別の製薬会社幹部は「死者が増えた場合は、情報が不十分でも報告するのが普通」と言い、厚労省の黒川課長も「30日以内というのは、知ってから30日目に報告しろという意味ではないのだが」と首をかしげる。新薬のイメージダウンを最小限にとどめようとしたとの疑念はぬぐえない。

同規則はまた、副作用の発生頻度が予測できない場合の報告期限を「15日以内」と定めている。厚労省の調査でこれに違反したと判断されても罰則はなく、行政指導にとどまる可能性が高い。

●独立法人化、薬害根絶に逆行
「とにかく早く薬を承認し、早く使おうという発想は非常に危険だ」
薬害に詳しい東京都立北療育医療センターの別府宏圀院長は警告する。 イレッサは、医薬品の優先審査制度の適用を受け、申請から5カ月でスピード承認された。発売から4か月間に推定で約1万4000人の患者が使用し、今年発売された医薬品の中で最も注目されている。別府院長は「イレッサは世界で初めて日本で承認され、未解明の部分も多い。製薬会社からの報告を待つだけでなく、厚労省が監視を強めるべきだ」と指摘する。

薬害エイズなどで製薬業界との癒着が指摘された旧厚生省は5年前、薬務局内に同居していた医薬品の安全対策と業界振興の2部門を切り離した。

ところが、臨時国会に提出されている「医薬品医療機器総合機構法案」が成立すると、安全対策の根幹となる副作用報告の収集業務が04年4月から独立行政法人に移行される。法案は、製薬会社から職員を採用することも禁じていない。ある製薬会社の副作用報告を、その社に籍を置いていた職員が受け付ける事態も想定され、公正さが懸念されている。

法案は週内にも衆院を通過する見通しが強まっているが、大阪HIV薬害訴訟原告団の花井十伍代表は「過去の薬害を見ても、医薬品の安全対策は国の責任で行わなければならないことは明らか。製薬会社の社員がなれるような法人に請け負わせることを認める法案なんて、とんでもない」と、薬害根絶に逆行する独立行政法人化に憤りを隠さない。

医薬品副作用報告制度
●ことば
67年に発足。製薬会社や医療機関に厚生労働省への副作用報告を義務付け、その内容をもとに「使用上の注意」の改訂や販売禁止などの対策を取る。昨年度の報告数は製薬会社からが2万2451件、厚労省が医療機関から直接入手した分が4094件。       [毎日新聞11月17日] ( 2002-11-17-23:59 ) 

■ 2002年12月04日 毎日新聞
◇ 肺がん治療薬:副作用の死者81人に 厚生労働省調査
肺がん治療薬「ゲフィチニブ」(製品名イレッサ錠250)の副作用による死者が、11月25日現在で計81人に上ったことが4日、厚生労働省の調べで分かった。発売から約4カ月半での副作用死者としては異例の数という。肺障害などの副作用は死者を含めて計291人になった。イレッサは7月に世界で初めてスピード承認された。副作用の拡大により、医薬品の早期承認などを目的に政府が今国会中の成立を目指す「医薬品医療機器総合機構法案」の審議にも影響を与えそうだ。

イレッサはがんの増殖、転移に関係する分子を狙い撃ちにする「分子標的治療薬」で、正常細胞をも傷つける抗がん剤より副作用が軽いとされ、発売直後から多数の末期がん患者が服用。11月25日までの推定使用者数は約1万7000人に上っているという。

厚労省によると、イレッサの緊急安全性情報を出した10月15日以前の副作用報告は138人(うち死者57人)、同16日以降は95人(同14人)、副作用が出た日付が不明が58人(同10人)。副作用を起こした患者の死亡率は緊急安全性情報の前後で41%から15%へ減少した。同省安全対策課は「緊急安全性情報により、危険性は認識された」と評価している。

輸入・販売元のアストラゼネカ社は、イレッサの欧州の臨床試験での副作用出現率は0.2〜0.4%と説明。しかし、今回の報告数の副作用出現率は1.7%で、同課は今月中にも薬事・食品衛生審議会の安全対策部会を招集し、専門家の意見を聞く方針だ。

黒川達夫課長は「使用者数が多いことや末期がん患者が使用していることを考えると、単純に死者数が多いとは言えないが、必要であればあらゆる手段を取りたい」と話している。 【須山勉】

[毎日新聞12月5日] ( 2002-12-05-02:29 ) 

■ 2002年12月5日 読売新聞
◇ 肺がん治療薬「慎重に」 = 被害者の父が会見で訴え
英国製肺がん治療薬「ゲフィチニブ」(商品名・イレッサ)の副作用で81人が死亡した問題で、同薬を投与された後に死亡した女性の父親が5日午前、厚生労働省内で記者会見し、「イレッサは使い方によっては毒になる。慎重に使ってほしい」と訴えた。

会見したのは、さいたま市在住の近沢昭雄さん(59)。二女の三津子さん(31)が昨年9月に肺がんと診断され、入退院を繰り返しながら、別の抗がん剤投与などの治療を受けていた。その後、昭雄さんがインターネットでイレッサのことを知り、今年8月に主治医と相談して使用を始めた。10月2日に肺炎の疑いがあると診断されて再入院し、その後、急速に悪化。約2週間後の10月17日に亡くなったという。

近沢昭雄さんは、「使い方によっては副作用を抑えることができるはずで、製薬会社も何らかの対策を取ってほしい」と訴えた。

 ■ 2003年1月15日 毎日新聞・(ふれあいプラザ)
◎がん治療薬「イレッサ」 大きな期待に

◇ 欧米並み迅速審査 短期間に利用殺到・・・・・・> 副作用死124人

肺がん治療薬「イレッサ」の副作用被害が波紋を広げている。がん細胞だけを狙い撃ちする新しいタイプの抗がん剤として発売前から医療現場の期待を集め、承認前から臨床試験数の3倍近い296人が試験外で投与を受けていたほどだ。しかし、昨年12月13日までに494人に間質性肺炎などの副作用が生じ、このうち124人が死亡している。被害の背景や新薬の開発の現状を報告する。

●世界に先駆け発売
イレッサが厚生労働省に承認申請されたのは02年1月25日、発売は7月中旬。厚労省は他の新薬に優先して審査し、通常の半分以下の5カ月で承認した。世界に先駆けて日本で新薬が発売されるまれなケースとなったが、01年12月から臨床試験データを審査している米国では、まだ承認されていない。

イレッサは英国の大手製薬企業・アストラゼネカが開発した、がん細胞の増殖や転移を促すたんぱく質などの分子に的を絞って攻撃する「分子標的薬」。従来の抗がん剤はがん細胞と通常の細胞を区別できず、通常細胞まで破壊して強い副作用を伴いがちだったが、分子標的薬は通常の細胞には作用しないため、副作用が少ないと期待されていた。

もともと日本の新薬審査は遅く、患者団体や製薬企業から迅速化を求められていた。国は97年から3年間かけて審査要員を倍増し、01年には標準的な審査期間を従来の1年半から欧米並みの1年に短縮した。イレッサのスピード承認は、この迅速化策の象徴となった。

●副作用強調に懸念も
なぜ、イレッサはこんなに“優遇”されたのか。厚労省は、市場投入が遅れると患者の不利益になると判断したとする。

東京のがん専門医は「発売前からメディアで取り上げられ、自ら投与を願う患者が多かった。医師としても断りにくい」と話す。ア社は初年度約7500人への投与を想定していたが、昨年12月までの販売錠数から推定される投与患者は約1万9000人。副作用データが集まらないうちに短期間に利用者が膨らんだことが、想定を超える副作用被害につながった。厚労省は昨年10月、「緊急安全性情報」を出し注意を呼びかけている。

この副作用問題が新薬審査のスピードアップに水をさすことを懸念する声もある。患者団体「癌(がん)治療薬早期認可を求める会」(大阪市)の代表を務める三浦捷一医師は、「副作用の有無はある程度予測できるし、イレッサが末期肺がん患者の2割に効果があるのは確か。副作用ばかりが強調されて、新薬認可に滞りが生じるようでは困る」と話す。

開発レースの中で新薬が生まれるまでには長い時間と費用がかかる。薬になりそうな化合物を見つけても、市場に出る確率は1万1300分の1。一つの新薬の誕生には260億〜360億円の費用がかかるといい、新薬開発につながる遺伝子情報の解読競争で、研究開発費はうなぎ登りだ。競争に勝ち抜くため、欧米の製薬企業は合併による大型化を加速。ア社も、英ゼネカ社とスウェーデンのアストラ社が99年に合併し、世界4位に躍り出た。

製薬企業は開発投資を回収しようと、世界中で一日も早い販売を目指す。米国に次いで世界第2位の医薬品市場である日本でも、ア社のような外資系が攻勢を強めている。ある製薬企業の営業担当者は「イレッサは前評判が高かっただけに、営業担当者も医師も慎重さが欠けていたのでは」と指摘する。

遺伝子情報を基にした分子レベルの機能や構造の解析が進み、今後も、新薬が増えそうだ。開発費用の早期回収を狙う製薬企業、新しい薬を待つ患者側の期待、その中でのイレッサの副作用問題は一つの警鐘といえそうだ。

●作用メカニズム解明を
鶴尾隆・東京大分子細胞生物学研究所教授(がん化学療法学)の話 情報化が進み、患者の薬に関する知識は豊富だ。シビアな状態に置かれた患者には薬を使う権利があり、副作用があるから使うなとは言えない。ただ、イレッサの作用メカニズムは解明しきれていない。人により効果や副作用は違うから、どのような遺伝的体質の人に使っていいのか、科学的に解明することが製薬会社と科学者の義務だ。 

■ 2003年1月23日 沖縄タイムス社説
◇ 新薬の副作用・問われる厚労省の責任
末期がんなど重篤の患者にとって、治癒率が高いという新薬の情報ほど生への希望を抱かせるものはないだろう。しかし、一方で副作用の危険性が情報として届いていなければ、患者の権利は結果的に奪われてしまうことになりかねない。肺がん新薬のゲフィチニブ(販売名イレッサ)の副作用報告が相次ぎ、昨年十二月までに百二十四人が亡くなった。
治癒力への期待が先行し、副作用の危険性がないがしろにされてはなかったか、医療行政の責任が問われる。

イレッサは、英国で開発された「分子標的治癒薬」という新しいタイプの肺がんの治癒薬で、厚生労働省は昨年七月、世界に先駆けて承認した。申請から五カ月の短期の承認は、新薬承認の遅れがちな日本ではエイズ治癒薬を除いて最も速いものだった。

背景には患者団体の早期承認を求める要望もあった。同省は重篤の患者が対象であり、有効性、安全性が優れていたと優先審査の理由を説明するが、「長く待てない患者の希望に沿った」という同省幹部の話もある。また副作用が広がった要因に医療現場での急速な使用の拡大も指摘されている。承認から五カ月で二万人弱と、抗がん剤では異例ともいえる利用だ。

イレッサの審査報告書には、治験対象の患者数が少ないことや有効性・安全性が十分に確認されてなく、死亡率の高い間質性肺炎を起こす危険性が指摘されていた。同省は最近、企業に対し承認時の新薬の審査報告書の公開や医療機関への報告書の配布を指導、治験データなども三カ月以内の公表を義務づける通達を出した。

新薬の判断材料を提供し副作用防止を目的としているが、この措置は同省がイレッサ問題で後手に回ったことを示している。命を預かる行政、医療現場への信頼が揺らぐ事態だ。厚労省は審査過程の公開など新薬審査のあり方を含め、再発防止へ問題点を洗い直すべきだ。 

■ 2003年2月8日 毎日新聞
◇ 抗がん剤 厚労省、イレッサの輸入販売元に事実関係報告を指示
副作用で多数の死者が出ている抗がん剤「イレッサ」(一般名ゲフィニチブ)について、肺に障害が出る動物実験結果を、輸入販売元のアストラゼネカ社(本社・大阪市)が薬の承認後まで厚生労働省に報告しなかった問題で、厚労省は7日、薬事法違反の疑いもあるとみて、ア社に対し、早急に事実関係を報告するよう指示した。

薬事法施行規則は、製薬会社が承認申請した医薬品について、「品質、安全性、有効性を有することを疑わせる資料」を厚労相などに提出するように定めている。同社が入手していた動物実験データがこの資料に該当すれば違反となることから、同省審査管理課は、同社がいつ、どのようなデータを得ていたか、文書で報告を求める。違反に罰則はないが、行政処分がありうるという。

イレッサは02年1月に承認申請され、同7月に承認された。ア社はこれ以前の01年8月、東京女子医大の永井厚志教授(呼吸器内科)から「肺病の一種の肺線維症のマウスに、イレッサを投与して実験すると病状が悪化した」との報告を受けていた。翌02年5月にも、追加実験の報告を受けていた。教授はこの結果から、人間でも肺に副作用が出ると予想していた。 

■ 2003年2月21日 読売新聞 朝刊
◇ 副作用報告、英社が拒絶…抗がん剤イレッサ
昨年7月の承認後、間質性肺炎などで183人の死亡が報告されている抗がん剤「ゲフィチニブ」(商品名イレッサ)の副作用問題で、イレッサ投与が間質性肺炎を悪化させる可能性を示す動物実験の結果を学会報告する予定だった東京女子医大の永井厚志教授らが、メーカーの「アストラゼネカ」(本社・英国)の拒絶にあい、発表を断念していたことが20日わかった。

承認申請の準備中だった2001年秋のことで、この時点でイレッサが肺障害を起こし得ることを警告していれば、副作用がこれほど拡大することはなかったと見られ、メーカーの姿勢が問われることになりそうだ。

永井教授らは、細胞表面の特殊なたんぱく質の働きを妨げると、肺組織の成長が抑えられることを発見。このたんぱく質に作用してがん細胞の増殖を止めるとされるイレッサでも障害が発生する可能性があると考え、2001年3月から実験を開始。別の抗がん剤で肺に間質性肺炎の症状を作ったマウスにイレッサを投与すると、投与しない場合より症状が悪化した。

永井教授は同年10月、翌年5月に開かれる米国胸部学会で発表しようと、要旨(抄録)を送って登録、実験結果をアストラゼネカに報告した。薬剤提供の際の契約に「実験結果は承諾なしに第三者へ提供しない」という条項があったため、了解を求めたものだった。しかし同社の日本法人からは、「残念ながら抄録の取り消しをお願いいたしました」との連絡が電子メールで届いた。別のメールでは「公表を承認するには、さらにデータを提出していただき、詳細にわたる再審査の必要があるとの結論に達しました」としていた。

この結果発表は、昨年11月の日本肺癌学会まで遅れた。永井教授は「公表は待ってくれという意味だと思った。契約上仕方がなかったが、このようなことは過去に経験がない」と話している。

アストラゼネカ日本法人は「永井教授から学会の抄録提出締め切り直前に発表したいと連絡があり、データの提示を求めた。すると永井教授から『データは出せないので取り下げる』と返事があった。取り下げてほしいとは言っていない」と話している。 

■ 2003年3月2日 朝日新聞朝刊
◇ イレッサ副作用、警告遅れる 1カ月前には危険認識
肺がんの治療薬「イレッサ」の副作用による間質性肺炎で死亡する患者が相次いでいる問題で、薬の輸入販売元アストラゼネカ社(大阪市)が、医療現場に警告する緊急安全性情報を出す1カ月前の昨年9月、副作用とイレッサの因果関係を認めたうえで、添付文書の改訂を検討していたことが、社員のメールの写しから明らかになった。最終的に厚生労働省の指示で情報を出したのは10月15日になってからだった。

関係者によると、メールは同社安全性情報部の担当者がイレッサの開発や安全性を検討する担当者にあてた。日付は昨年9月12日で、同11日にあった担当者打ち合わせの内容が記されている。打ち合わせでは副作用である間質性肺炎の症例が検討されたとみられる。メールは報告症例について「全体としてイレッサとの関連性を否定することは難しい」と結論づけた。当時、海外を含めて「60例程」の報告があり、「決して発現率が低いとは言えない」とし、「イレッサとの関連性を肯定するという前提で、今後の対策を検討する必要がある」と、危険性を認識していた。

今後の対策として添付文書の改訂の必要性とMR(医薬情報担当者)から医療機関への情報提供などをあげた。「次のようなオプション(選択肢)が考えられる」として(1)添付文書は改訂しない(2)記載を変更する(3)より重い注意喚起として「慎重投与」などの項にも記載する――をあげている。

また「厚労省から何らかの指示がくる可能性は少なからずある」と予想し、「改訂しないと回答する明確な根拠を示すのは難しい」と記す。イレッサは世界的にも日本で初めて承認された抗がん剤であることから「日本の添付文書改訂は海外での審査に影響を与えるため、本社(英国)の意向に沿った形で厚労省と交渉を進める必要がある」としている。

また厚労省に「改訂しない」と伝えた場合、「今回乗り切ったとしても、症例が蓄積された場合、何らかの改訂をせざるを得ない」としている。メールでは打ち合わせの結論を受けて、添付文書改訂チームでの検討を依頼している。

打ち合わせがあった昨年9月11日時点で、同省に報告されたのは、日本の副作用症例の約10例(死者6人)で、ア社が把握していた約60例とは大きな隔たりがある。同省が副作用多発を懸念して、添付文書の改訂に伴う緊急安全性情報を出すよう指示したのは10月初めで、15日に発布された。安全性情報は企業の責任で出すもので、同省が指示するまでア社から改訂の意向は伝えられなかったという。

イレッサは承認後、約2000の医療機関で使われ、9月末時点では約7000人の肺がん患者に投与されている。メールの時点では、千数百人が投与を受けたとあり、同社が緊急安全性情報を出すまでに数千人の患者に投与された可能性がある。一般に抗がん剤に副作用はつきものとされ、市販後はいかに副作用に注意するかが重要。医療現場への副作用情報伝達の遅れは致命的となる。

同社は文書の存在を認めた上で、「詳細情報の収集や報告された症例の精査は時間を要するプロセスだったが、最大限努力したと考えている」と話している。

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■イレッサ■ 肺がん治療に使われる抗がん剤で、一般名ゲフィチニブ。英国のアストラゼネカ社が90年代から開発。昨年7月、世界に先駆けて日本で承認された。同社日本法人によると、国内の使用患者は1月末現在で約2万4千人。うち473人(2%)に間質性肺炎や急性肺障害が起き、173人が死亡した。一方で投与患者の2割に効果があるとされる。正常な細胞も攻撃する従来の抗がん剤と異なり、がん細胞を主な標的とするため、当初は重い副作用が少ないとみられていた。 

 ■ 2003年3月2日 朝日新聞
◇ 抗がん剤治療の専門医認定へ 日本臨床腫瘍学会が方針
がん治療が専門の内科医らでつくる日本臨床腫瘍(しゅよう)学会は、抗がん剤治療の専門医を認定する制度を設ける方針を決めた。抗がん剤は深刻な副作用が出る場合があり、適切で安全な使い方が求められていた。28日から福岡市で始まった同学会で計画が報告された。

抗がん剤は正しく使えば効果が期待できるが、使用法を誤れば患者の命にかかわる。たとえば、肺がん用抗がん剤イレッサのケースも、専門知識を十分持たない医師が副作用の発生を見抜けなかったことが被害を拡大させた。

また、がんの種類や病状で薬の組み合わせや量は異なり、新薬が出るとさらに複雑になる。細心の注意が必要だが、専門知識をもつ腫瘍内科医は少ないのが現状で、育成が急務になっている。

同学会によると、認定の基準は(1)学会認定施設で2年以上の研修を受ける(2)担当医として30例以上の症例を経験する(3)認定試験に合格するなど。06年の制度発足を目指し研修プログラムの作成などの準備を進めている。

同学会専門医制度委員長の福岡正博・近畿大学教授は「専門外の医師が抗がん剤を使って被害が出るようなことを防ぐため、厳密に審査して真の知識と技量を持った医師を認定していく」と話している。
 

■ 2003年3月3日 読売新聞
◇ 副作用説明せずイレッサ販売
肺がん治療薬「ゲフィチニブ」(商品名イレッサ)による副作用問題で、輸入販売元のアストラゼネカ日本法人が、新薬を納入する際には事前に医療機関に副作用の危険性を説明するよう定めた国の指針に反し、事前説明なしに販売した例が約300件に上ることが分かった。事前説明と副作用の発生との因果関係は不明だが、厚生労働省は今月7日に開く「薬事・食品衛生審議会」に報告し、ア社の安全対策について検討する。

厚労省の指針は、新たに開発された医薬品を販売する場合には、製薬企業の医薬情報担当者が医療機関を訪問し、医師に対して副作用の危険性を説明してから納入するよう定めている。このため、同省はア社に対し、どのように指針を守ったのか報告するよう求めていた。

ア社がこのほどまとめた調査結果によると、昨年12月19日までにイレッサを納入した1840の病院・診療所のうち、指針通り納入前に担当者が訪問していたのは1539施設。16%に当たる299施設では、納入前に訪問説明は行われず、2施設は訪問説明そのものがなかった。指針は例外として、納入前に訪問説明ができない場合、文書で説明したうえ、納入後2週間以内に改めて訪問説明することを求めている。しかし、299施設のうち11施設は、このルールも守られず、納入後2週間を過ぎてから訪問説明が行われていた。

ア社は「納入前の説明は義務づけられているわけではなく、実施指針の趣旨を尊重して対応した」などとしている。
(2003/3/3/14:33 読売新聞 ) 

■ 2003年3月5日 毎日新聞
◇ 副作用「がんのせい」・販売元が説明文記載に抵抗
抗がん剤「イレッサ」(一般名ゲフィチニブ)の臨床試験で患者に発生した重い間質性肺炎について、販売元のアストラゼネカ社(本社・大阪市)が、厚生労働省の承認審査で「がんの進行が原因」と主張し、医師向けの説明文書(添付文書)に副作用として載せることに最後まで反対していたことが分かった。実際には、ア社は臨床試験の段階で文書で副作用の可能性を認めていた。ア社はこの患者の重症度も実際より軽く報告しており、同省は薬事法違反(虚偽報告)の疑いで調査する。

患者は60歳代男性で、00年12月6日から首都圏の病院でイレッサの投与を受けた。22日に呼吸困難など間質性肺炎の症状が出て、投与を中止。人工呼吸器や薬剤治療の結果、間質性肺炎は改善に向かったが、01年1月29日にがんが悪化して死亡した。

担当医はア社に、「投与時期と発生時期の関係から、イレッサが原因である可能性が高い」と報告。これを受け、ア社は01年2月20日付で臨床試験に参加していた施設に注意を呼びかける文書を配り、「間質性肺炎はイレッサ投与後に発症し、中止後に治療で改善したことからイレッサとの関連性が疑わしい」と副作用の可能性を認めた。

ところが、02年の承認審査では、間質性肺炎を起こした他の2人を含め、「報告された間質性肺炎はがんの進行に伴うもので、イレッサが間質性肺炎を誘導する可能性は低いと考える」と主張した。これについて担当医に相談はなかったという。また、死亡した患者の担当医は、副作用の重症度について、4段階のうち最も重症で、致死的であることを示す「グレード4」と報告したが、ア社は、審査を行った国の医薬品医療機器審査センターに1段階軽い「グレード3」と報告した。

ア社は結局、「副作用の可能性がある」とのセンターの指示で添付文書に間質性肺炎を記載したものの、死亡の危険性は明示しなかった。審査センターは「ア社は間質性肺炎を副作用と認めず、添付文書に載せるのは嫌だと主張した。ア社も副作用と考えて調べていたなら、もう一段高く書いたかもしれない」と説明する。

担当医は「がんによる間質性肺炎なら通常は改善しない。ア社から相談されれば反対した」と話す。
ア社は「因果関係がはっきりしていないことなどから、間質性肺炎を添付文書に記載する必要性は少ないと考えていた。重症度についてはグレード4とすべきだったが、担当者が注意不足だった」と話している。 

【鯨岡秀紀、高木昭午】[毎日新聞2月26日] ( 2003-02-26-03:01 ) 

■ 2003年3月10日 毎日新聞
◇ イレッサ:追加試験せずに発売「副作用の疑い」報告後も
抗がん剤「イレッサ」(一般名ゲフィチニブ)で多発した副作用の間質性肺炎について、販売元のアストラゼネカ社(本社・大阪市)が、外部の専門家から肺への副作用を示唆する動物実験結果を連絡された後、安全性を確認する追加試験をしないまま同剤を発売していたことが分かった。発売前の臨床試験でも間質性肺炎は発生していたのに、ア社が追試を始めたのは多数の副作用死者が出た後だった。

実験は、東京女子医大の永井厚志教授らが行った。別の薬剤で肺を傷つけて「肺線維症」という状態にしたマウスにイレッサを投与し、イレッサが肺の状態を悪化させるとの結果を得た。イレッサの承認と発売は02年7月だが、教授とア社によると、ア社は01年10月までに教授から結果を連絡され、02年5月には詳しいデータも入手した。

臨床試験の患者にも間質性肺炎は発生。うち1人の担当医は01年2月までに、ア社に「イレッサで起きた疑いが強い」と報告した。ア社は国の承認審査でも、「副作用と疑われる間質性肺炎が国内外で7人に出ており、うち2人が死亡した」と指摘されていた。それでもア社は追試の実施を検討しないまま、「イレッサが間質性肺炎を起こす可能性は低い」と判断し、発売した。ア社は「間質性肺炎の患者は7人で非常に少なかった。マウスに起こした肺線維症は人間の肺線維症と異なり、実験結果は人間に適用できないと考えた」と説明する。
ア社は発売後に多数の死者が発生したことを受け判断を変え、今年から追試を始めたという。

医薬品専門誌「正しい治療と薬の情報」編集長で、都立北療育医療センター院長の別府宏圀(ひろくに)さんは「副作用として非常に疑わしいのに確認の追試をしなかったのは、重大な結果が出たら困るので実施したくなかったからではないか。動物実験は安全性確認に必須の作業で、その結果が人間にあてはまるかどうかを言い出したらきりがない」と批判している。 【鯨岡秀紀、高木昭午】 

■ 2003-03-20 朝日新聞
◇抗がん剤イレッサ副作用、今後にどう生かす?
肺がん治療の「夢の新薬」といわれたイレッサ(一般名ゲフィチニブ)が、副作用問題で立ち往生しています。抗がん剤に副作用はつきものですが、どんな副作用がどれだけあるのか、市販後に判明することも少なくありません。副作用情報が医師や患者へ届くまでに、時間がかかったことに問題があるようです。一方で、助かった患者さんがいるのも事実です。この薬を慎重に使い、効果を生かせるよう育てていくために、読者から寄せられた声と合わせて、考えてみました。(イレッサ取材班)

●相次いだ「劇的効果」の報告
イレッサの効果を表すとき、「劇的」という言葉がよく使われる。

今月8日に千葉大学で開かれた日本肺癌(がん)学会関東部会では、イレッサに関する報告が相次いだ。「45歳の肺腺がんの男性。治療開始前は46ミリあった腫瘍(しゅよう)が、1カ月後に16ミリに縮小した」「投与60日後、画像上腫瘤(しゅりゅう)は消失した」53演題のうち28がイレッサの効果を報告した。研究者の発表のたびに、座長が声をかける。「治療成績はどれくらいでしたか?」。効果のあった患者の割合のことだ。「13人中6人(46%)です」「30〜40%です」。臨床試験での効果が約2割だったのと比べて高い治療成績だ。

こんな話もある。末期の肺がん患者にイレッサを投与して2週間後。患者のX線写真を見た医師は、患者に「もう一度撮ってきてください」と促した。あるはずの影が写っていないから、間違えたと思ったのだ。ところが、撮り直した写真をみて驚いた。本当に影はきれいになくなっていた。徳島大の曽根三郎教授と近畿大の福岡正博教授のチームが効果を遺伝子解析している。患者49人のうち、「腫瘍が50%以上縮小」は15人、「変化なし」は18人、「悪化した」は16人だった。

曽根教授は「ほかの抗がん剤や放射線も効かなかった患者の3割に効果があった。副作用の面ばかり強調されるが、画期的な薬であることは間違いない」と話す。イレッサは、がん細胞の増殖にかかわる特殊なたんぱく質の働きを妨げて、がんを退治しようとする。がん細胞を直接攻撃して正常細胞にもダメージを与える従来の抗がん剤と比べ、副作用が少ないとみられていた。1日1回、錠剤を服用すればすむため、自宅でも治療できる。イレッサは承認前から注目を浴び患者団体などの働きかけで国会議員も動いた。

●遅れた治療現場へ情報伝達
だが、販売直後から、間質性肺炎を起こすなど副作用報告が相次いだ。問題はその後の対応だ。
薬を開発した英国の本社から輸入・販売を一手に引き受けるアストラゼネカ社(大阪市)の情報収集が遅れた。医師ら治療現場へ打ち返す態勢にも問題があった。それを指摘する報道に対し、肺がんの患者をもつ家族から、批判の声が朝日新聞社へ届いた。

「担当記者はがん患者の気持ちをまったく理解していない。この薬がまるで人殺しのように感じる。薬がなければ死ぬしかない患者の希望を奪うことになる」
「病床で暗澹(あんたん)たる気持ちを抱いている患者の方、ご家族の方の存在をも意識して冷静に記事を書いていただきたいものです」
後者は、4年前に42歳の夫を肺がんで亡くした北陸に住む主婦(46)から届いたメールだ。肺がんの発見が遅れ、入院6日目に肺がんであることを告知された。製薬会社にいる知人や医師に、よい薬や治療法がないか尋ねて回った。が、夫は17日後、亡くなった。
「イレッサがあったら、服用していましたか?」と電話で尋ねてみた。
「間違いなく服用していました」 逆に、千葉県に住む男性の手紙には不満がつづられていた。症状が安定していた妻(当時63)がイレッサを服用し始めて、せき込むようになり入院。せきは止まらず、1カ月後に亡くなった。

イレッサとの因果関係はわからないが、夫は副作用について知らされていなかった。「イレッサを飲んでいなかったら、もっと元気な姿を見ていられたかもしれない」と後悔する。
劇的に効く人がいる一方、副作用で死亡する患者もいる。なぜ効果に差が出てくるのか。そのメカニズムはまだわかっていない。副作用が頻発するとの情報が、もっと早い段階で伝わっていたら、治療にあたる医師、受け入れた患者や家族にとって、この薬のイメージは変わっていただろう。使われ方も、違っていたのではないか。

<イレッサ> 昨年7月、世界で初めて日本で承認された。開発段階での臨床試験では、日本人51人の27.5%、外国人52人の9・6%に効果があったとされる。承認後、2月末までに国内で約2万5000人に投与され、間質性肺炎や急性肺障害の副作用で177人の死亡が報告されている。 

■ 2003年3月23日 毎日新聞
◇ イレッサ副作用:承認1カ月前に死亡例 厚労省報告せず
抗がん剤「イレッサ」(一般名ゲフィチニブ)の副作用問題で、承認より1カ月余り前の昨年5月に、国内でも間質性肺炎による死者が出ていたことが分かった。販売元のアストラゼネカ社(本社・大阪市)は厚生労働省に報告していたが、同省は昨年末の検討会で公表した資料に記載せず、承認前に国内で死者はなかったとしていた。厚労省は承認の可否を審議した薬事・食品衛生審議会薬事分科会にも報告しておらず、死亡例を軽視した対応が問われそうだ。

亡くなっていたのは、肺がんのため、ア社の英国の親会社からイレッサの無償提供を受けていた73歳の男性。昨年5月16日に間質性肺炎を発症、同24日に死亡した。ア社は同27日、同省に男性の副作用死を報告した。ところが同省は、同6月12日に開催された薬事分科会でこの事実を報告しないまま承認の了承を得て、7月5日にイレッサを承認した。

同省は昨年末に専門家を集めて開いた検討会で、承認前に報告のあった副作用例の一覧表を公表したが、一覧表に男性の例は掲載されていたものの、死亡していないことになっていた。

厚労省はこれまで、承認前に副作用による間質性肺炎の疑いがあると判断した患者は国内外で計7人で、死者は海外の2人だけと説明。ア社に対し、薬の説明文書に致死的な危険性を示す警告欄を設けるよう指示しなかった理由を「海外からの報告は情報が少なく、データの取り寄せも難しい。イレッサと死亡は完全に関係ありと断定できなかった」としていた。また、同省自身が審査報告書で「国内と海外で効果や副作用の出方に差がある」と指摘しており、国内患者の副作用死データは重要だったとみられる。発売後も日本では海外より高い率で間質性肺炎が発生している。

同省審査管理課は「国内で死亡例が1例出ても安全性に関する判断には影響しないと考え、分科会には報告しなかった。年末の検討会で公表した資料で死亡の事実を記載していなかったのは単純ミスで、隠したわけではない」と説明している。
<鯨岡秀紀、高木昭午>

■ 2003年3月24日 読売新聞
◇ イレッサ」の副作用、遺伝子レベルで研究
副作用が問題になっている肺がん治療薬「ゲフィチニブ」(商品名・イレッサ)について、東京大学医科学研究所の中村祐輔教授らは、副作用の可能性を遺伝子レベルで診断する研究に乗り出す。事前に遺伝子を調べて副作用を予測し、有効な患者だけに薬を投与する手法の確立を目指す。

中村教授らは輸入販売元のアストラゼネカ社と共同で、急性肺障害の副作用が出た患者75人と、副作用が起きなかった患者75人の遺伝子の提供を受け、SNP(個人差)を比較、副作用を起こすタイプの遺伝子を特定する。当面は薬剤の代謝に関係する遺伝子の個人差5000―1万か所を中心に調べるという。

イレッサは臨床試験で、既存の抗がん剤が効かない患者の約半数で進行が止まり、約2割ではがんの大きさが半分以下に縮小する効果があったとされた。昨年7月に発売されたが、その後副作用が問題化。今年1月末までに国内で推計約2万3500人に投与され、うち約0・8%の183人が急性肺障害などで亡くなっている。
◇ ◇ ◇
[SNP] 遺伝情報は、細胞内に塩基と呼ばれる4種類の化学物質で記録されている。人間では約30億個の塩基がDNAに並んでいるが、1000個に1個の割合で個人によって違う塩基が並ぶ。これがSNPで一塩基多型とも呼ばれる。肌の色など外見上の特徴や、病気のなりやすさといった体質の違いも、この個人差のためとされる。 

■ 2003年3月31日 神戸新聞
◇ イレッサ/なぜ薬害を絶てないのか
使い方次第で毒にもなるのが薬だ。だからこそ副作用情報や使用上の注意は速く、正確に医療機関に伝える必要がある。それが、過去の悲惨な薬害がもたらした教訓だ。ところが、同じ過ちがまた繰り返されようとしている。進行性肺がんの治療薬として、昨年七月から輸入が認められた「イレッサ」(一般名ゲフィチニブ)の副作用とみられる間質性肺炎や急性肺障害で、これまでに約二百人の患者が死亡した。薬の副作用によるものとしては過去に例のない数だ。

イレッサは、新しいタイプの肺がん治療薬として国の優先審査の対象となり、昨年七月、約五カ月のスピード審査で承認された。それ自体、異例のことだ。ところが、輸入販売元のアストラゼネカ(大阪市)は、販売開始から二カ月もたたない九月上旬に、副作用で七人が死亡したという情報を医療機関から得ていた。

解せないのは、その後の対応だ。医療機関に「重篤な副作用が起こることがある」との緊急安全性情報を配布したのは、厚生労働省の指示を受けて半月経った十月中旬のことで、この間一カ月余りも適切な措置を取らなかったことが指摘されている。この会社が、一月末に公表した副作用の推定発症率は2%だったが、実際の発症率は、三倍強の7・2%に上る。副作用は避けがたいにしても、なぜ、予測値と実際の発症率の間にこれほど隔たりがあるのか。また、医療機関によって副作用の発症率にばらつきがあるとされるのは、なぜか。解せないことが多過ぎる。

輸入販売元からの医薬品情報が適切だったかどうかが、まず疑われよう。それ以前に国の審査が適切に行われていたかどうかも検証される必要がある。結果的に薬害を放置した責任は免れないのではないか。その構図は、薬害エイズ事件や抗がん剤との併用で多数の死者を出した皮膚病新薬ソリブジンの薬害事件と少しも変わらない。

厚労省は、ソリブジン事件をきっかけに医薬品の安全対策と治験・新薬承認審査制度の見直しを行った。しかし、治験の透明化という課題は克服されたとはいえない。新薬開発に最低でも十年かかり、百五十億円という巨額の開発費を要することと決して無関係とはいえまい。そうした問題が、回りまわって薬害根絶を阻む要因となっていないだろうか。

イレッサの一連の騒ぎでいちばん困っているのは患者・家族である。これ以上、医療に混乱が起きないよう、国は安全情報の収集と再発防止に全力を挙げるべきだ。 

■ 2003-04-05 読売新聞
◇ カルテ開示、法制化論議大詰めに
◆患者の権利盛り込む個別法が必要
カルテなど診療記録の開示の法制化をめぐる論議が大詰めを迎えている。(解説部・渡辺 亮)

診療記録とは、カルテ(診療録)や手術記録、看護記録、エックス線写真などの総称だ。かつて、患者のことは、医師がすべて判断するのが当たり前とされた時代には、患者が診療記録を見ることなど不可能だった。しかし、ここ10年余りで患者の権利意識は高まり、患者が病気と治療内容を理解することの重要性も認識されるようになった。それとともに、診療記録開示(一般的にはカルテ開示)を求める声は強まった。

1998年に、当時の厚生省検討会はカルテ開示の法制化を提言した。しかし、日本医師会などの「自主的な取り組みに委ねるべきだ」という反発を受けて、同省医療審議会は99年、法制化を先送りし、3年間で「環境整備」を行うとした。

その猶予期間が終わり、厚生労働省が昨年、改めて設置した検討会は4月中に報告書をとりまとめる予定で、先月25日の会合では、厚労省側が作成した報告書の原案「論点整理」が示された。この案は、今国会に提出されている個人情報保護法案が成立すれば、カルテ開示の法制化が一部実現するため、不足部分を「ガイドライン」(指針)で補完するというものだ。

同法案で、カルテ開示が原則義務化されるのは、患者本人が請求した場合だけで、遺族は対象外。患者が死亡し、医療事故が疑われる場合など、遺族がカルテ開示を求めることも多く、厚労省案は、遺族の請求には指針で対応するとしている。しかし、指針による運用では、開示の可否について、医療機関側の裁量が大きくなりすぎる恐れがある。

実際、指針が既に定められている国立病院で、「遺族との信頼関係の確保の観点から主治医が必要と認める場合には開示できる」という規定をたてに、「遺族との信頼関係は保たれていた」と主張し、開示を拒否した事例もある。「医療情報の公開・開示を求める市民の会」の勝村久司事務局長は「指針は医師のためのマニュアルに過ぎない」と批判する。

診療記録の改ざんの問題もある。東京女子医大病院の医療過誤事件では、医師が証拠隠滅罪で起訴されたが、これは極めて異例なケースだ。医療事故が刑事事件として立件されて初めて、その証拠となる診療記録の改ざんは、証拠隠滅罪に問われる。医師法は診療録の記載を義務づけているが、改ざんを禁止する規定はどこにもなく、厚労省案もこの点には触れていない。

この3年間で、日本医師会が自主的な指針を作るなど、カルテ開示の取り組みは進み、昨年、厚労省が行った調査では、開示に応じている医療機関は88・6%に上った。 その一方で、「『カルテを見たい』と言うと、医師にいやな顔をされ、それ以上強く言えないケースが多い」(勝村事務局長)ともされる。医師によって書き方がまちまちで、他の医師でも読解不能のことがあるという問題点も指摘されている。

カルテは医師の備忘録ではなく、診療の質向上と透明性の確保のため、医師と患者が共有すべきものだ。やはり、診療記録の位置づけを明確にし、「患者の権利」という視点を盛り込んだ、個別法での法制化を目指すべきだ。

■ 2003年5月2日アストラゼネカプレスリリース
これはアストラゼネカ英国本社が2003年5月1日に発信したプレスリリースの日本語訳です

◇ アストラゼネカ、イレッサの承認をオーストラリアで取得・進行非小細胞肺がんの適応で

アストラゼネカは、オーストラリアの薬事当局が化学療法剤の前治療を受けた限局型進行性または転移性非小細胞肺がん患者の治療薬としてイレッサ(ゲフィチニブ、ZD1839)を承認したと、本日発表しました。 オーストラリアは世界で最初の上皮細胞成長因子受容体阻害剤として知られる新しいタイプの抗がん剤イレッサを承認した第2番目の国となりました。イレッサは日本の厚生労働省により2002年7月に手術不能又は再発非小細胞肺がんの適応で承認され、米国FDA、欧州EMEAを含む他の国・地域においては承認審査の過程にあります。

アストラゼネカのVice President兼オンコロジー(腫瘍領域)責任者Brent Voseは、「オーストラリアにおけるイレッサの承認は、数千人に及ぶ肺がん患者ならびにその家族に大きな希望を与えるものです。オーストラリアはイレッサを承認した第2番目の国ですが、当社は承認審査が進行中の他の多くの国においても同製品が承認され、進行肺がんの過酷な症状に苦しむ患者さんにこの重要な新しい治療薬が提供されることを期待しています」と述べました。
オーストラリアでイレッサが承認された背景には、イレッサの有用性に対する確信、ならびに、患者とその家族に過酷な影響をもたらす複雑かつ非常に重い症状を伴う非小細胞肺がんの新しい治療選択肢に対する大きなニーズの認識があります。2000年には世界中で120万人が肺がんと診断され、100万人以上が肺がんで死亡しています。オーストラリアでは8157人の肺がんの新規患者が報告されており、6938人が肺がんで死亡しています。非小細胞肺がんの全世界の市場は16億ドルと推定されており、2011年には80億ドルに達すると予測されています。

オーストラリアでの承認は2つの大規模な無作為化第II相臨床試験、IDEAL1と2に基づくものです。これらの試験は前治療を受けた進行非小細胞肺がん患者において、イレッサ250mg一日一回単独投与が臨床的に有意な抗がん作用をもたらすことを示しました。

イレッサの有効性は客観的な奏効率に基づいています。抗腫瘍効果の殆どは投与後8週間以内にみられたとともに、少なくとも40%の患者において臨床的ベネフィットと症状改善がもたらされました。イレッサ服用患者の約30%が服用開始後1年以上生存しました。イレッサは1日1回投与の錠剤で、非小細胞肺がん治療に使われる標準的な殺細胞性の化学療法剤に見られる重篤な副作用はまれですが、一般的に軽度で忍容性の高い皮疹や下痢などの副作用があります。間質性肺障害は既知の肺がん合併症でありイレッサ服用患者の約1%にみられています。

■ 2003年5月2日 毎日新聞
◇ 抗がん剤:イレッサの副作用報告616例に 厚労省発表
抗がん剤「イレッサ」(一般名ゲフィチニブ)について、厚生労働省は2日の安全性問題検討会で、急性肺障害と間質性肺炎による副作用報告が先月22日現在で616例に達したと発表した。うち246例が死亡している。推定使用患者数は2万8300人で、発症率は2.2%、死亡率は0.87%と、今年1月末現在(発症率2.0%、死亡率0.74%)よりやや上昇した。

同省はまた、国立がんセンターや近畿大学など4施設が学会発表した使用結果も説明した。患者の15.5〜27.5%に効果があった一方で、2.4〜11.8%に間質性肺炎など肺の副作用が起きていた。同省のデータと大きく食い違っており、同省へ報告されていない副作用もかなりあるとみられる。 【鯨岡秀紀、高木昭午】


■ 2003-05-03 読売新聞
◇ イレッサ副作用死亡246人に
◆肺がん治療薬・・昨年7月に発売された肺がん治療薬「ゲフィチニブ」(商品名・イレッサ)を使用し、副作用で死亡した患者は246人に上ることが、2日に開かれた厚生労働省の「ゲフィチニブ安全性問題検討会」に報告された。

報告は先月22日までのまとめで、同省が緊急安全性情報を出した昨年10月15日以前の投与で副作用死した患者は162人。これ以後の投与開始で死亡したのは52人だった。

■ 2003-05-04 朝日COM
◇ イレッサ副作用死246人に 厚労省発表
厚生労働省は2日、肺がん用抗がん剤「イレッサ」の副作用で急性肺障害と間質性肺炎を起こした患者が4月22日までに616人報告され、うち246人が死亡したと発表した。服用患者は推定で約2万8000人。副作用対策などを協議する同省の検討会で報告した。

死者のうち、輸入販売元のアストラゼネカ社が副作用を警告する緊急安全性情報を出した昨年10月15日以前に服用を始めた人は162人で、投与開始から原則4週間入院する措置を講じた昨年12月27日以降の死者は14人。同省は「措置の効果が出ている」としている。

また、昨年7月の承認後に国内で実施または計画された臨床試験の内容も公表された。手術で肺がん切除に成功した患者を対象にした臨床試験は緊急安全性情報を出した後も継続され、3人が間質性肺炎を起こしたが、うち2人はイレッサではなく、偽薬を投与されていた。 

■ 2003-05-06 朝日
◇米食品医薬品局が抗がん剤イレッサを承認
米食品医薬品局(FDA)は5日、抗がん剤イレッサを承認すると発表した。標準化学療法が効かない非小細胞肺がん患者に対し、イレッサを単独で使うことを認める。承認ずみの日本で深刻な副作用が起きているが、進行がん患者には利益があると判断した。

進行した非小細胞肺がんの216人を対象とした米国の臨床試験では、病巣の大きさが半分以下になる割合は10%だった。劇的に効く患者もおり、効果はおおむね7カ月ほど続いたという。一方、昨年7月、世界で初めてイレッサを承認した日本では、4月22日までに616人の副作用報告(急性肺障害、間質性肺炎)があり、うち246人が死亡した。

米国の副作用の発生率は約0.3%で、その3分の1が致命的という。FDAは「進行がんの場合、副作用の危険性は薬の潜在的な利益を上回らない」と判断した。

米国では、年間15万人以上が肺がんで死亡しており、うち8割が非小細胞肺がん。FDAのマクレラン審議官は「他の薬の効かない数千人が、もう一つの治療法を手にできる」と話した。  

■ 2003-05-06 日経net
◇ 米FDA、肺がん治療薬「イレッサ」の販売承認
【ワシントン=吉田透】米食品医薬品局(FDA)は5日、英大手製薬アストラゼネカが肺がん治療薬として申請していた「イレッサ」(一般名、ゲフィチニブ)を販売承認した。イレッサは日本で米欧に先駆けて承認されていたが、副作用の疑いで200人を超す死者を出し、社会問題になっている。

FDAは、日本でイレッサを使用した患者の約2%に致命的な副作用が表れており、米国内での臨床試験でも同じ副作用が報告されていると指摘。そのうえで承認に踏み切った理由として「イレッサがもたらす(肺がん患者への)利益は(副作用による)リスクを上回ると信じる」と強調した。

ただ副作用による被害を抑えるため、肺がん治療薬として標準的に使われている2種類の薬が効き目を示さなかった場合や末期がん患者に限って使用すべきだと、医師に勧告している。

FDAは日本での副作用被害の情報を受けて、審査期間を3カ月延長して、慎重に審査を進めていた。米国内の消費者団体は「FDAは承認すべきでない」という反対運動を強めていた。 

■ 2003-05-17 読売新聞
◇ 抗がん剤「イレッサ」投与1か月後に死亡、遺族が提訴
岐阜県大垣市民病院で、副作用が問題になっている抗がん剤「イレッサ」を投与され、1か月後に死亡した同市内の女性(当時59歳)の遺族が、「病院は投与を事前に知らせず、説明義務を果たしていない」として、市を相手取り、慰謝料など約1100万円を求める訴えを、17日までに岐阜地裁大垣支部に起こした。

訴状などによると、肺がん治療で通院中、抗がん剤の使用を拒否していた女性は昨年9月4日、担当医師にイレッサを投与され、容体が急変して同9日に入院。投与を知り、眠れないなど不安定な精神状態となり、10月7日に敗血症ショックのため死亡したという。

山口晃弘・同病院長は「主治医は抗がん剤の説明をしたが、患者に伝わっていなかった。説明が十分でなかった」と話している。 

■ 2003年6月6日 読売新聞
◇ 医薬品の副作用死、年間1239件
医薬品の副作用による死亡報告が、2001年度の1年間だけで計1239件も厚生労働省に寄せられていたことが、6日わかった。

同省が、長妻昭・衆院議員(民主)の質問主意書に対する答弁書の中で明らかにした。医薬品の副作用による年間の死亡報告数が判明したのは初めて。

同省によると、同年度中に医療機関や製薬会社などから厚労省に報告があった副作用報告は重複報告を含めて計2万6545症例だった。このうち、医師や製薬会社などが「医薬品の副作用によるものと疑われる死亡」として報告した症例は1239症例。これも重複報告を含むが、10歳未満の子供が死亡したケースなどもあったという。これらの副作用報告には、薬局・薬店で買える一般用医薬品はほとんどないという。同省ではこれまでも、副作用報告件数は公表していたが、死者数を集計して明らかにしたことはなかった。同省は「多いとか少ないとかの評価はできない」としている。

副作用報告制度は1967年から始まった。95年の薬事法改正で、製薬会社からの報告が義務づけられた。一方、医療機関からの報告は、これまで任意で寄せられていただけだが、来月からは義務づけられる。(読売新聞) 

■ 2003年6月4日 読売新聞
◇ イレッサと抗がん剤併用は「効果なし」…米学会報告
【トロント(カナダ東部)=館林牧子】

間質性肺炎などの副作用が問題になっている肺がん治療薬「イレッサ」(一般名ゲフィチニブ)を標準治療と併用した場合の効果について、標準治療だけの患者と比べて生存率に変化がないとする国際的な大規模臨床データがまとまり、3日まで米シカゴで開催中の米がん治療学会で報告された。

イレッサは数百人が参加した中規模臨床試験で、がんが縮小したことを示すデータはあるが、大規模な臨床試験での延命効果は実証されていない。

調査したのはオランダの自由大学病院のジウセピ・ジアコーネ博士らのグループ。欧米の医療機関で、進行性の非小細胞肺がんの治療中の患者約2100人について、既存の抗がん剤を使った標準治療法と、これにイレッサを加えた成績を比較したところ、生存期間や病気の進行度合いに変化がなかった。

販売元である「アストラゼネカ」米国支社のスティーブン・アバーブック臨床研究部長は「標準治療と併用しても効果はなかった。違う使い方で大規模臨床試験を実施し、有効性を実証したい」としている。イレッサは、がん細胞だけをたたく新薬として、日本が昨年7月に世界に先駆けて承認。

米食品医薬品局(FDA)も先月、標準治療では効果がなかった患者に単独で使うなどの厳しい条件付きで承認した。 

■ 2003-06-27 読売新聞連載医療ルネッサンスNo4
◇ 薬と臨床試験・新抗がん剤の波紋厳格な市販後調査を
「イレッサの承認は拙速だった。もっと厳しく審査されたら、副作用の重大さが分かったかもしれない」「間質性肺炎」の副作用で昨秋、死亡した近沢三津子さん(当時31歳)の主治医だった埼玉県の呼吸器内科医Aさん(48)は、胸中を語る。

◆一錠で肺炎発症
三津子さんは1か月間入院してイレッサを服用。退院2週間後の定期検査で肺炎が見つかるまで薬を飲み続けた。「この薬でがんを治す」との思いが強く、検査の前日、熱っぽかったが薬を服用してしまった。

三津子さんが亡くなる1か月前、この病院では50歳代の男性がイレッサ服用翌日、つまり一錠飲んだだけで肺炎を発症し死亡している。病理解剖しなかったので、副作用が原因とは断定できない。

しかし、承認直後の添付文書には間質性肺炎の危険性は明記されており、この男性の死亡をきっかけに病院側は、肺炎への注意を徹底すべきだった。

2人の死を教訓に病院は、独自にイレッサ使用法を決めた。投与開始から4週間は入院し、週に1回、胸のエックス線撮影と、血液中の酸素濃度検査。退院後2―4週は、通院で同様の検査を続ける。国が求めた内容より厳しい。

薬の販売元のアストラゼネカ(大阪市)も副作用被害を食い止めるために厳格な「市販後調査」をすべきだった。薬の承認前に行われた臨床試験は、少ない患者数や病状を対象にした情報に過ぎない。そこで薬の市販後、多くの患者に対する使用実態の調査が大切だ。

対応の好例は、乳がん新治療薬のハーセプチンだ。
販売元は「国内の使用経験が浅く、予想できない副作用が出る危険性もある」と判断。薬を納品する病院に▽乳がん専門医が処方▽集中治療室があるなど緊急対応がとれる▽心不全の副作用が懸念されるため循環器科医が常勤する――などの条件をつけた。しかも市販後半年間は全患者を調査し、安全使用を徹底した。

アストラゼネカも市販後調査自体を実施中だが、処方できる医療機関を絞らなかった。それが副作用被害を広げた可能性が高い。

◆高い有効性
その一方、国立がんセンターでのイレッサの奏功率(がんが5割以上縮小した割合)は27%と、やはり有効性は高い。「この薬がないと肺がん治療に支障が出る」(Aさん)ほど組み込まれている。

東京都立北療育センター前院長の別府宏圀(ひろくに)さんは「抗がん剤治療に精通した腫瘍(しゅよう)内科医が日本にはほとんどいない。人材を育成しないと同様な被害は今後も繰り返される」と警告する。

          ◇
[市販後の臨床試験]市販後調査とは別に、病状などの条件をそろえた多くの患者を対象に、より厳格に有効性や安全性を検証する試験。イレッサは、がん縮小効果が認められたが、延命効果は明らかでないため、今年8月から従来の抗がん剤と生存期間の比較試験をする。
(2003年6月27日) 

■ 2003年7月25日 日本経済新聞夕刊
◇ 政府が「対がん10カ年戦略」を決定
政府は25日、がんの発症・死亡率の激減を目指した来年度からの「第三次対がん10カ年総合戦略」を決定した。

戦略は「研究」「予防」「医療・社会環境」の3分野での取り組みを盛り込んだ。全国を通院可能な範囲に分けた364の地域ごとに最低ひとつの診療拠点病院を数年以内に設けるほか、がんの遺伝子レベルでの基礎研究の成果を予防や診断、治療に応用する研究(トランスレーショナル・リサーチ)を推進するとしている。学会と連携した専門医の育成にも取り組む。総合戦略は10年ごとに見直している。がんによる死亡者は年間約30万人で、日本人の死亡原因の3割(第1位)を占める。適切な対策をとらないと2020年には同45万人に達するとの試算もある。 

■ 2003年9月13日 Asahi.com
◇ 訴訟前提でも開示」明記せず・カルテ開示で厚労省指針
厚生労働省は12日、患者や遺族から求められた場合、医療機関はカルテを原則として開示しなければならない、と定めたカルテ開示の初の指針をまとめた。焦点となっていた、訴訟を前提とする開示については、明文化しなかった。日本医師会は独自の指針で「訴訟前提の請求は開示原則の対象外」としており、国の指針はこれを明確に否定するものにはならなかった。

指針は有識者らでつくる検討会の議論をもとにまとめられた。
検討会の報告書には指針の留意事項として「訴訟前提だけを理由に開示しないのは適当でない」と明記されていた。医師会の独自指針が「原則開示」としながらも付則で「裁判を前提にした場合は範囲外」としている点が問題視されたからだ。だが、厚労省は指針に報告書の表現を盛り込まなかった。「書いてなくても当然、訴訟が前提であるだけでは開示請求を拒否できない」と同省は説明している。

一方、日本医師会は独自指針を「当面、見直す必要はない」としており、医療機関がこれまで同様、医師会の指針をたてに、訴訟を前提とした開示請求を拒める余地が残った。指針は、遺族にも原則開示するよう定めたほか▽改ざんを防ぐために記録の訂正は訂正者・内容・日時がわかるようにする▽自由な請求を妨げないために請求理由を記載させない▽開示を拒む場合は理由を文書で示し、苦情の申立機関があることを説明する−−などと規定した。

開示を拒みうる場合は「第三者の利益を害するおそれがあるとき」と「患者本人の心身の状況を著しく損なうおそれがあるとき」に限った。指針自体に法的な強制力はない。 

■ 2003年9月16日河北新報新聞社説より
◇抗がん剤副作用 検証急ぎ十分な情報公開を
国内で毎年三十万人が亡くなっている 「がん」。中でも治癒率が低く、死者が増加の一途をたどる肺がんの患者に大きな希望を抱かせたのが今年七月に輸入承認された新薬ゲフィチニブ (販売名イレッサ)だった。
その新薬の副作用による死者が、五カ月足らずで百二十四人に達していることが分かった。

厚生労働省が公表したこの数字は、あまりにショッキングだ。副作用で短期間にこれだけの死者が出るケースが極めて異例というだけではない。イレリサは、がん細胞を狙い撃ちする分子標的薬として開発され、臨床試験(治験)段階では大きな効果を示すとともに、副作用が少ないと指摘されていたからだ。

このため、患者団体などが早期承認を強く要望。厚労省がこれに応え、五カ月間のスピード蕃査で承認し、世界に先駆けて発売された経緯がある。期待を反映、既に一万九千人の患者が投与を受けた。だが、現実は前評判を大きく裏切ってしまった。薬が働く仕組みの解明は十分だったのか。
審査経過に問題はなかったか。処方と投与後の観察は妥当だったのか。患者に必要な情報は届いていたか。
製薬会社・輸入販売元、国、医療機関それぞれが真筆(しん し)に検証するよう求めたい。

製薬会社サイドには、副作用被害が表面化した十月段階で、厚労省への被害者数の報告が遅れ、事実上の過少報告となるなど、看過し難い行動があった。加えて今月、承認条件として求められた安全性と有効性を確認するための市販後治験が未着手であることも明らかになった。

治験は、少数の健康な成人による一相試験、少数の患者による二相試験、千人規模で有効性を確認する三相試験を経て承認されるのが通例だ。
ただ、イレッサのように早期承認が求められる抗がん剤などの場合、日本では二相までとし、承認後に大規模な試験を行うことを求めている。 スピード承認自体は患者サイドの要請でもあり、必ずしも批判すべきではあるまい。

重要なのは、安全性確認の努力を続けることであり、そのための情報収集に力を注ぎ、得た情報は、都合の悪い内容であっても患者らに対して開示していく姿勢だ。その意味で、厚労省の検討会で専門家から「市販後治験が実施されていなかったことが被害拡大を招いたのではな」と指摘されたのは当然 と言える。
製薬会社と国は、重く受け止めてもらいたい。イレッサ被害の緊急対策として検討会は、十分な肺がん治療の経験を持つ医師のもとで、投与から四週間は患者を入院させて副作用を監視することなどをまとめた。態勢整備を急がねばならない。

抗がん剤に限らず、医薬品に副作用は避けられない。イッサが劇的な効果を示す患
者がいるのも事実である。今回の副作用被害が教えているのは、薬の個性と患者の体質の個性を見極め、一人ひとりに合わせた医療を実現することの大切さであろう。検証を
急ぎ、情報を共有して再発を防ぐことが、亡くなった百二十四人に対する責務である。

■ 2004年3月4日  Bio Today掲載
◇ イレッサがスイスで販売承認
AstraZeneca社 分子標的抗がん剤・イレッサが非小細胞肺がんの3rdライン治療薬としてスイスで販売承認された
2004年3月4日、AstraZeneca社はIRESSA(GEFITINIB、ZD1839)が非小細胞肺がんの3rdライン治療薬としてスイスで販売承認されたと発表しました。 

■ 2004-03-24 京都新聞
◇ 副作用の死者444人に 肺がん治療薬イレッサ
肺がん治療薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)による副作用問題で厚生労働省は24日、副作用の間質性肺炎などで死亡した患者数が延べ444人に上ることを、参院厚生労働委員会で明らかにした。

厚労省安全対策課によると、23日現在のデータで、副作用報告は1151例。報告が重複しているケースや、後から副作用でないと分かった死者、症例も含まれ、正確な数ではないとしている。

イレッサは英国の製薬会社が開発、世界に先駆けて2002年7月に国内承認された。劇的な効果があるとされる一方で副作用が多発。厚労省は同年10月に緊急安全性情報を出し、2カ月後、処方を抗がん剤治療に詳しい医師に限定するなどの緊急対策をとった。

副作用による死者は、昨年5月に厚労省が公表したデータで246人(同4月22日現在)だったが、今回公表された死者数のうち何人が対策以後の事例かははっきりしないという。 

■2004-3-31 読売新聞
◇ セカンドオピニオン制度化…国立病院4月から
4月から全国154か所の国立病院・療養所が独立行政法人化されるのに伴い、厚生労働省は30日、新体制でのサービス内容やコスト削減策を発表した。

治療費や薬代の支払い時にクレジットカードが使えるようになるほか、主治医以外の医師に医学的な意見を聞ける「セカンドオピニオン制度」を創設。各病院の院長には年俸制を導入、給与に業績を反映させるなど様々な改革が実施される。

それぞれの病院を取りまとめる中核組織として、「独立行政法人国立病院機構」が来月1日に発足。各病院では、これまで窓口での現金払いか日銀への振り込みしか認められなかった医療費の支払いが、クレジットカードやキャッシュカードを使った引き落とし決済も可能となる。

新設する「セカンドオピニオン制度」では、対応できる医師のリストを患者や家族に提示し、様々な意見を気軽に聞けるよう配慮。患者が機構外の民間病院などの意見を求める場合も、診療記録を相手先の病院に開示する。

コスト面では、今後5年間の建物や医療機器などの投資額を、過去5年間の半分にあたる約1900億円に削減。1年ごとに契約していた「賃金職員」制度は廃止し、今後5年間で技能職員ら約700人を削減する。病院付属の看護師などの養成校も現在の80校から49校に減らすという。

同機構の初代理事長に就任する矢崎義雄・国立国際医療センター総長は「地域医療を担うという使命は忘れずに、採算性、合理性も追求する。5年間で全体として黒字に転換させたい」と抱負を述べた。

セカンドオピニオン 患者が治療法や闘病方針を決める際、判断材料とするために聞く主治医以外の医師の意見。最近はセカンドオピニオンを専門に受け付ける「セカンドオピニオン外来」の開設も全国で相次いでいる。料金体系は病院ごとに異なっている。 

■ 2004-03-31 読売新聞
◇ 説明不足と、抗がん剤副作用死に1160万賠償命令
国立病院東京医療センター(東京都目黒区)で死亡した東京都世田谷区の女性(当時56歳)の夫(67)が、「担当医は適切な検査や説明を怠り、カルテも改ざんされた」として、国と担当医に約1360万円の賠償を求めた訴訟の判決が31日、東京地裁であった。

貝阿弥(かいあみ)誠裁判長は、「担当医は抗がん剤治療の危険性を具体的かつ詳細に説明したとは認められない」と述べ、国と担当医に計約1160万円の支払いを命じた。

また、カルテの記載の一部について、「担当医が『生命のリスクも考えられることを説明、了解いただいた』と記載した通りの説明をしたとは認められない」と指摘した。

判決によると、女性は1998年11月、同センターで悪性リンパ腫(しゅ)と診断され、入院。99年3月に退院したが、2000年2月に再発し、投与した抗がん剤の副作用による多臓器不全で、同年7月、死亡した。

■ 2004年4月21日中央日報 http://www.joins.com/
◇ 韓国・「イレッサ」市販へ
英国系多国籍製薬企業の韓国アストラゼネカが21日、末期非小細胞肺がん治療剤の「イレッサ」を正式に発売すると発表した。 イレッサが保健当局の許可を受けて市販されるのは、日本、米国、豪州、シンガポール、アルゼンチンに次いで、韓国が6番目となる。

同社が96年に開発したイレッサは、既存の化学療法に失敗した非小細胞肺がん患者の唯一の治療剤。国内では2001年12月からEAPプログラムにより、患者の一部に対し、試験的に供給されてきた。 しかし昨年6月に食品医薬品安全庁の市販許可を受け、今回の市販が確定。肺がん患者が処方を受けられることになった。

また先月からは、健康保険にも適用された。これにより、1日1錠を服用した場合の患者負担額は、従来は1カ月240万ウォン(約23万円)だったのが、39万ウォン(約3万7000円)に減った。

同社の関係者は「イレッサは、入院治療が必要な他の抗がん剤とは異なり、1日1錠服用する薬品」とし「また保険の適用により、患者は、比較的少ない負担で新しい治療の機会が得られる」としている。 イレッサは、医師の処方を受け、薬局で購入することが可能だ。

朴泰均(パク・テギュン)食品医薬専門記者

■ 2004-04-30 朝日COM
◇ 抗がん剤イレッサ、効き目は遺伝子の変異で差 日米調査
副作用で多数の死者を出した肺がん用抗がん剤イレッサ(一般名ゲフィチニブ)が効く患者は、EGFRと呼ばれる遺伝子で突然変異を起こしている場合が多いことが分かった。名古屋市立大の藤井義敬教授ら日米の研究チームが29日付の米科学誌サイエンス(電子版)で発表する。患者の体質に応じて薬を選ぶオーダーメード医療の実現に一歩近づきそうだ。

イレッサは、劇的に効く患者がいる半面、強い副作用を起こす患者もいる。臨床上、肺腺がんの女性に効く例が多く、日本と欧州で行われた治験では日本人の方が成績がよかった。

藤井教授らが、肺がんの8割を占める非小細胞肺がんの患者119人(日本人58人、米国人61人)でEGFR遺伝子が変異しているか調べたところ、変異していたのは日本人15人、米国人1人の計16人。がんの種類別では、肺腺がんが70人中15人、それ以外が49人中1人。男女別では、女性が45人中9人、男性が74人中7人だった。効果があるとされるグループの方が、突然変異が起きている割合も高かった。

藤井教授は「イレッサが効く肺がんを、EGFR遺伝子の異常を調べることで予測できる可能性がある。効果が低いと思われる患者への投与を避けることが可能になれば、オーダーメード医療のいいきっかけとなる」と話している。 

■ 2004年4月30日 共同通信・ワシントン29日共同
◇ イレッサ効くがんに共通点 効果予測も可能と期待
一部の患者にがんを縮小させる高い効果があるとされる肺がん治療薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)について名古屋市立大など日米共同チームは、効果がみられた患者に共通するがん細胞の遺伝子変異を発見し、米科学誌サイエンス(電子版)に29日発表した。

チームは変異の有無を調べれば薬が効くかどうかを予測することが可能になりそうだと指摘しており、副作用の回避にも役立つと期待される。イレッサはがんの増殖にかかわる「EGF受容体」というタンパク質の働きを抑える抗がん剤。チームは、イレッサの治療を受けていない日米の肺がん患者計約120人分のがん細胞を調べ、EGF受容体の遺伝子に一定の割合で変異があることをまず見つけた。

変異は米国人より日本人に多く、男性よりも女性、喫煙者より非喫煙者に多いなど、これまでにイレッサの効果がより高いと報告された患者の傾向と似通っていた。次にイレッサで治療を受けた米国の患者9人のがん細胞を調べたところ、効果のあった5人は全員変異が確認されたが、効果なしの4人には変異はなかった。

■ 2004-04-30時事通信
◇ 「効く人」に特有の遺伝子異常=肺がん治療薬イレッサ−日米研究
肺がん治療の新薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)が、一部の人に劇的に効くのはなぜか。名古屋市立大と米ダナ・ファーバーがん研究所の共同研究チームは、イレッサが効く人のがん細胞に特有の遺伝子異常があることを突き止め、30日付の米科学誌サイエンス電子版に発表した。一人ひとりの体質に合った治療(テーラーメード治療)につながるものとして期待される。

■ 2004-06-21 YOMIURI ON-LINE
◇ イレッサ副作用、被害者の会が販売元へ謝罪など求める
肺がん治療薬「イレッサ」(一般名・ゲフィチニブ)に副作用が多発している問題で、患者53人の遺族でつくる「イレッサ薬害被害者の会」=さいたま市、近澤昭雄代表(60)=が21日、輸入販売元の「アストラゼネカ」(大阪市北区)に「責任を認めて謝罪すべきだ」として、賠償金の支払いや原因調査、その結果の公表などを申し入れた。

回答次第では、関西在住の遺族が7月中にも、ア社と国に対し、損害賠償を求める初の訴訟を大阪地裁に起こす方針。

イレッサは英国で開発され、一昨年7月、厚生労働省が輸入販売を承認した。販売後、間質性肺炎や急性肺障害などによる副作用死が続出。同年10月、厚労省の指示でア社が緊急安全性情報を出した。12月には死者が100
■ 2004-06-21 YOMIURI ON-LINE
◇ イレッサ副作用、被害者の会が販売元へ謝罪など求める
肺がん治療薬「イレッサ」(一般名・ゲフィチニブ)に副作用が多発している問題で、患者53人の遺族でつくる「イレッサ薬害被害者の会」=さいたま市、近澤昭雄代表(60)=が21日、輸入販売元の「アストラゼネカ」(大阪市北区)に「責任を認めて謝罪すべきだ」として、賠償金の支払いや原因調査、その結果の公表などを申し入れた。

回答次第では、関西在住の遺族が7月中にも、ア社と国に対し、損害賠償を求める初の訴訟を大阪地裁に起こす方針。

イレッサは英国で開発され、一昨年7月、厚生労働省が輸入販売を承認した。販売後、間質性肺炎や急性肺障害などによる副作用死が続出。同年10月、厚労省の指示でア社が緊急安全性情報を出した。12月には死者が100人を突破、投薬を専門医に限定するなどの使用制限を始めたが、ア社によると、国内で今年3月末までに、重い副作用が1083例あり、うち438人が死亡している。

この日は、被害者の会のメンバーら6人がア社を訪れ、「臨床試験で副作用発症の可能性を認識しながら、輸入承認まで厚労省に報告していなかったうえ、今も販売を続けており、責任は重大」として、7月5日を期限に賠償金の支払いなどを求めた。

一昨年10月に二女(当時31歳)を亡くした近澤代表は申し入れ後の会見で「なぜ副作用情報を隠してきたのか納得できない。今も服用している何万人もの患者のためにも、事実を明らかにすべきだ」と話した。ア社は「遺族とは、十分誠意を持って話していきたい」としている。
投薬を専門医に限定するなどの使用制限を始めたが、ア社によると、国内で今年3月末までに、重い副作用が1083例あり、うち438人が死亡している。

この日は、被害者の会のメンバーら6人がア社を訪れ、「臨床試験で副作用発症の可能性を認識しながら、輸入承認まで厚労省に報告していなかったうえ、今も販売を続けており、責任は重大」として、7月5日を期限に賠償金の支払いなどを求めた。

一昨年10月に二女(当時31歳)を亡くした近澤代表は申し入れ後の会見で「なぜ副作用情報を隠してきたのか納得できない。今も服用している何万人もの患者のためにも、事実を明らかにすべきだ」と話した。ア社は「遺族とは、十分誠意を持って話していきたい」としている。

■ 2004-07-06 京都新聞
◇ イレッサで遺族ら提訴決定 ・・輸入販売会社が責任を全面拒否
肺がん治療薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)の副作用をめぐり、亡くなった患者の遺族らでつくる「イレッサ薬害被害者の会」が謝罪や損害賠償を求めた申し入れに対し、輸入販売会社「アストラゼネカ」(大阪市)は5日、「法的責任はない」として遺族らの要請を全面的に拒否した。

これを受け、関西に住む遺族らは「副作用の危険性を認識しながら医療機関などに対する警告を怠った」として、同社と輸入を承認した国に対し、ただちに損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こすとしている。

回答書で、同社は「イレッサは薬事法に基づき厚生労働省の審査を経て承認された薬剤で、会社に法的責任はない」と主張。「イレッサの副作用は医薬品に不可避に伴うもので『薬害』ではない」と説明。

また「医療機関に対し十分な説明を行ってきた」などとして、「情報を隠ぺいし、副作用抑止の注意義務を尽くさなかった」とする遺族らの主張に反論している。

被害者の会は「不誠実な回答に断固抗議し、法的責任を厳しく追及する」とコメントしている。(共同通信) 

■ 2004-08-25読売新聞
◇ 肺がん薬「イレッサ」、国内患者5・8%が肺障害
肺がん治療薬「イレッサ」(一般名ゲフィチニブ)を服用した国内患者が、副作用の肺障害を起こす発症率は5・8%に達することが、販売元のアストラゼネカ社の調査でわかった。

米国での発症率(0・3%)の20倍近い高率で、日本人の遺伝形質が影響している可能性もある。同社では調査データをもとに、薬の添付文書の改訂などの対策を進めている。

同社は昨年6月から今年3月にかけ、全国615の医療施設で、イレッサが投与された肺がん患者3322人(男1932人、女1390人)を調査した。その結果、約5・8%にあたる193人が肺障害の副作用を発症、うち75人が死亡した。肺障害が起きやすいのは、〈1〉全身状態が悪い〈2〉喫煙歴がある〈3〉投与時にすでに間質性肺疾患がある――などの場合だった。このほか、発疹(はっしん)や肝機能異常などの副作用も報告されたが、いずれも症状は軽かった。

同社では今回の調査結果を医療機関に配布し、患者への説明などに役立ててもらうほか、今後、薬の添付文書にも反映する。調査に参加した工藤翔二・日本医科大教授は「この発症率は他の抗がん剤に比べて大きいわけではないが、日本で飛び抜けて高いという事実は重要。分子遺伝学的な研究が必要だ」としている。

◆イレッサ=肺がんの増殖に深く関係する分子を標的として攻撃する「分子標的治療薬」の1つとして、世界に先駆けて2002年7月、日本で承認された。健康な細胞も無差別に殺してしまう従来の抗がん剤に比べて重い副作用が出にくいという期待感から、専門医のいない病院などで安易な使用が相次いだ結果、患者の副作用死が問題化した。

■ 2004-08-31 毎日新聞
◇ イレッサ訴訟、和解へ−大垣市、 患者遺族に300万円支払い /岐阜
大垣市は30日、大垣市民病院で死亡したがん患者の女性(当時59歳)の遺族から「病院は抗がん剤の副作用などを十分説明していなかった」として、慰謝料など1100万円を求められていた訴訟に対し、和解金300万円を支払うことを決めた。9月6日開会の市議会に提案する。

同病院によると、女性は00年9月から肺がんのため通院。02年9月に、主治医が抗がん剤「イレッサ」を投与。数日後、副作用と思われる症状が出たため投与を中止したが、翌10月に原発性右肺腺がんなどで死亡した。遺族側は昨年5月に「説明義務違反」などと岐阜地裁に提訴。その後、同地裁から和解案が出されていた。

同病院は「説明不十分だった」として和解に応じることにした。遺族側も了解しているという。【子林光和】

■ 2004年11月19日 共同通信
◇ 延命効果調べ承認を 学会が抗がん剤評価基準
厚生労働省の委託を受け、抗がん剤の評価方法見直しを進めていた日本癌(がん)治療学会は19日までに、抗がん剤を承認する場合は、原則として腫瘍(しゅよう)の縮小効果だけではなく延命効果まで調べるべきだとする報告書をまとめた。同省は報告書をたたき台に、新しい抗がん剤の臨床試験の際に使う評価指針を改定する方針。

通常、医薬品が国の承認を受けるには3段階の臨床試験が必要。だが抗がん剤については、新しい薬をできるだけ早く患者に届けるという観点から、人体への安全性を確認する第1相試験と、腫瘍縮小効果を確認する第2相試験の2段階をクリアすればよかった。

しかし、欧米では1000人規模の患者で延命効果を確認する第3相試験の実施が標準的になっていることや、異例の早期承認の後に副作用で多数の死者が出た肺がん治療薬イレッサの教訓から、抗がん剤についても原則として第3相試験の実施を求めることにした。  

■ 2004-12-20毎日新聞
◇ <イレッサ>難治性肺がんの延命効果なし・大規模臨床試験で
日本や欧米で非小細胞肺がんの治療薬として承認されている「イレッサ」(一般名ゲフィチニブ)について、輸入・販売元のアストラゼネカ社(大阪市)は20日、「臨床試験で生存期間の延長に効果はなかった」とする中間結果を公表した。
 同社によると、臨床試験は03年7月から04年8月にかけて日本を除く世界28カ国の210施設で、標準的な抗がん剤による治療が効かなかった非小細胞肺がん患者1692人を対象に実施した。1日当たり250ミリグラムのイレッサと偽薬を飲む2群に分け、生存期間を比べた。

その結果、患者の生存期間はイレッサ群の5.6カ月に対し、偽薬群は5.1カ月だった。非小細胞肺がんのうち、日本人に多い腺がんでもイレッサ群の6.3カ月に対し、偽薬群は5.4カ月で、ともに統計学的に有意な差はなかった。
 同社はこの中間結果を厚生労働省に報告するとともに、医療機関への情報提供を始めた。発表では、「残念ながら、全体的な延命効果(の実証)には至らなかった。腫瘍(しゅよう)縮小では有意な改善がみられており、イレッサによる治療を続けるかどうかは医師と十分相談してほしい」と述べている。 【山本建】  

■ 2005-01-06 読売新聞医療ニュース
◇ イレッサ、EU・欧州への申請取り下げへ
肺がん治療薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)について、製造元のアストラゼネカ(本社・英国)は4日、欧州医薬品審査庁への承認申請を取り下げると発表した。

日本を除く28か国約1700人を対象に実施した臨床試験で、非小細胞肺がんの患者に投与しても延命効果が見られないという結果が出た。 

■ 2005-01-20 共同通信
◇ 「使用制限の必要なし」 厚労省のイレッサ検討会
日本を含まない28カ国の大規模臨床試験で、延命効果が確認されなかった肺がん治療薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)について、厚生労働省の検討会(座長・松本和則国際医療福祉大教授)は20日の初会合で「現時点では使用を制限する必要はない」との見解をまとめた。理由として、東洋人を対象にした結果解析では、生存期間の改善が示唆されていることを挙げた。

ただ、イレッサ投与との関連が疑われる間質性肺炎などの死亡者が昨年末で約590人(国内のみ)に上ることから、投与開始後4週間の入院や、経験を積んだ医師の下での使用など、従来の安全対策を徹底するよう求めた。
 また、患者の遺伝子変異と効果の関連についての研究をメーカーに求めたほか、今回の結果を患者に説明し同意を得た上で使用することが重要とした。

■ 2005月1月20日 毎日新聞
◇ <イレッサ>副作用で588人死亡 厚労省、対応を検討
世界に先駆けて02年7月、国内で販売された肺がん治療薬「イレッサ」(一般名・ゲフィチニブ)の副作用問題で、厚生労働省は20日、間質性肺炎などの副作用が起きた人は1473人に上り、うち588人が死亡したとの報告を先月末までに医療機関などから受けたと明らかにした。イレッサは昨年末、延命効果が見られないとの臨床試験の結果が出ており、販売元のアストラゼネカ社(本社・英国)が欧州での承認申請を取り下げたほか、既に承認している米国の食品医薬品局(FDA)は回収も視野に入れた規制をする方針を表明しており、厚労省の対応が注目されている。

欧米の動きを受け厚労省は20日午前、「ゲフィチ二ブ検討会」を開催、最新の副作用報告数を明らかにした。販売開始から先月28日までの使用患者は推定8万6800人。あくまで各医師の判断による報告なので、実際の副作用件数はさらに多いとみられる。
 ア社によると、03〜04年、日本を除く28カ国の肺がん患者1692人にイレッサの臨床試験を実施した結果、イレッサを服用したグループと偽薬を飲んだグループの生存期間にほとんど差は見られなかった。ただ、このうちマレーシアやフィリピンなどの東洋人342人だけを見ると、生存期間の延長が「示唆された」としており、ア社日本法人は「一部の肺がん患者には有用な薬と考えている」とコメントしている。【須山勉】

■ 2005-01-20 読売新聞
◇ 夢のがん新薬「イレッサ」厚労省が有効性の再検討開始
延命効果はあるのか――。「夢の新薬」とされながら、副作用が原因とみられる死者が500人以上に上っている肺がん治療薬「ゲフィチニブ」(商品名・イレッサ)。製造元が「延命効果はない」との調査結果を公表したため、厚生労働省は20日、専門家を集めて有効性の再検討を始めた。

いったん承認しながら、薬の根本的問題をまた議論する異例の展開になっている。
昨年12月17日、英国の製薬会社「アストラゼネカ社」の情報が世界を駆け巡った。28か国でイレッサを投与された1692人を調査した結果、がん細胞は縮小するものの、延命効果は認められない、という自社商品の有効性を否定する内容だった。

3日後、米食品医薬品局(FDA)は規制強化の検討を開始。ア社は今年に入り、欧州連合(EU)での承認申請を取り下げた。イレッサは35か国で承認され、投与された患者は推定で延べ21万人。日本では2002年7月、世界に先駆け、承認された。申請からわずか5か月。難治性がんの一つの肺がんが、副作用の少ない経口薬で治療できると期待が高まった。ところが、承認から3か月後、急性肺炎などの副作用で13人が死亡していたことが分かった。その後も増え続け、昨年12月28日現在、国内で投与された患者延べ8万6800人(推定)のうち、副作用によるとみられる死者は588人。うち2人の遺族は、国とア社に損害賠償を求め、東京、大阪で係争中だ。

イレッサの有効性に関し、国内の専門家が注目しているのは、調査結果の“ただし書き”部分だ。「東洋人だけには延命効果があった」。「東洋人」とは、マレーシア人やタイ人で、日本人は含まれていない。しかし、日本医大の工藤翔二教授は「日本人にも延命効果が期待できる」と評価する。イレッサは、がん細胞の増殖にかかわる遺伝子レベルの特定部位を狙い撃ちする「分子標的薬」。工藤教授は「人種によって遺伝子構造が違い、効果に差が出るのは当然」と言う。

余命わずかな患者へのイレッサの劇的効果を数多く見てきたという東京医大の加藤治文教授も、「承認取り消しになれば、患者から最後の延命手段を奪うことになる」と訴える。一方で、危険性を訴える声は根強い。京都大大学院の福島雅典教授は、「危険性を過小評価し、見切り発車した。まさに薬害」と、厚労省の対応を批判する。

厚労省が有効性の結論を出すメドは3月。福島教授は「日本人を対象に詳細な試験を行い、どういう人に効くのか、本当に効いているのかを早急に解明すべきだ」と訴えている。  

 ■ 2005年3月15日 共同通信
◇ 患者選んで投与を イレッサで学会が指針改訂
日本肺癌(がん)学会は、肺がん治療薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)の使用指針の改訂版を15日公表、「延命や症状改善、腫瘍(しゅよう)縮小効果が得られる可能性が高い患者群に投与することが推奨される」などの文言を新たに加え、患者群の具体例として「女性や非喫煙者、日本人(東洋人)、特定の遺伝子に変異を示す症例」などを挙げた。
イレッサは、海外の大規模臨床試験で延命効果が確認されず、厚生労働省が検討会で対応を話し合っている。改訂指針は17日の検討会で報告する予定。副作用とみられる間質性肺炎に注意することや、患者が症状を自覚した場合はすぐに受診するよう指導することを医師に求めるなど、従来の項目はそのまま引き継がれた。
同学会は2003年11月に指針を策定。今回は、その後の研究成果などを踏まえ改めた。

■ 2005年3月28日 毎日新聞
◇ 社説:肺がん治療薬 使用は専門医の慎重な判断で
肺がん治療薬「イレッサ」(一般名ゲフィチニブ)の使用継続を認める結論を厚生労働省の検討会がまとめた。日本人を含まない世界規模の臨床試験で延命効果が認められなかったが、「東洋人」に限って分析すると延命効果が示唆されたからだ。

日本ではイレッサの副作用が疑われる死亡者は昨年末で588人に上る。その一方で顕著な効果があがった人もいる。日本人での延命効果を確かめる試験の結果が出るのは07年だ。「初めに結論ありきだ」との批判もあるが、現時点で使用の中断は難しいとの判断は納得できる。

だが、副作用に加え日本人の延命効果が明らかでない以上、投与にはいっそうの注意がいる。

今回改訂された肺癌(がん)学会のガイドラインは、効果があがる可能性の高い患者群として、がん細胞に特定の遺伝子変異のある人や女性、非喫煙者などを挙げている。一方、肺の重い副作用の危険性を高める要素として、喫煙歴や男性であることなどを挙げ、これらの患者への投与は利益が危険性を上回る場合に限ると規定している。

しかし、これらの条件が100%確実でない以上、条件に合わなくても使いたい人は出てくる。そうなると、鍵を握るのは医師の適切な判断だ。

使用が患者の利益になるかどうか、肺がん化学療法に十分経験のある専門医が判断して患者にもよく説明し、慎重に投与することを徹底してほしい。検討会では「患者も専門医を選んでほしい」という意見が出たが、まずは医師の側が自己規制し、あわせて専門医の情報を公開することが必要だろう。日本に不足しているといわれる専門医の育成も欠かせない。

検討会では、製造・販売元のアストラゼネカ社がイレッサ投与患者数を把握していないことへの批判もあった。投与患者数だけでなく、投与医療機関や副作用発生状況を正確に把握するため、投与者の全数調査は必要ではないか。

現在、抗がん剤の臨床試験は一般薬と異なる。通常の薬は多数の患者を対象とし既存薬などと比較する第3相試験を経て承認申請される。抗がん剤はその前段階の比較的少人数の第2相試験で腫瘍(しゅよう)の縮小効果が見られると承認の対象となる。延命効果を確かめるのは市販後の第3相試験でいい。

だが、イレッサのデータが次々示されると、別の薬を投与される人もいる第3相試験への参加患者が減る可能性があるだろう。こうした点からも、延命効果がわかってから承認することが望ましいが、望みがあれば少しでも早く使いたいという患者の願いも無視できない。そのバランスを考えたシステムは重要な検討課題だ。

イレッサ承認の過程や販売直後の使用に、それまでの副作用情報を生かしきれなかったことも忘れてはならない。厚労省の審査体制は常に見直していく必要がある。薬に副作用はつきものでも、それを最小限に抑える責任を、国や製薬企業、医師らがそれぞれの立場で果たさなくてはならない。

■ 2005年4月26日毎日新聞
◇ 記者の目:「イレッサ」使い方議論だけでなく
副作用が問題となった肺がん治療薬「ゲフィチニブ」(商品名・イレッサ)について、厚生労働省は「いかに使いこなすか」という議論を重ねてきた。副作用が起きやすい患者のタイプが少しずつ解明され、イレッサを飲んでいたり、飲もうとしている患者には大きな関心事だろう。だが、もう一つ、早急に議論すべき問題があることを忘れてはならない。

同省は02年7月、世界で最も早くイレッサを承認した。抗がん剤なのに副作用は軽いとされ、予想をはるかに超える数の肺がん患者が服用し、重い副作用が続々と報告された。副作用の疑いで死亡した患者は04年末までに報告分だけで588人に上る。添付文書は10回近くも改訂された。

こうした予期せぬ結果を招いた経緯を厚労省はどう検証し教訓にするのか、まるで見えない。同省は医薬品の承認迅速化を進める方針だが、このままではいずれ「第二のイレッサ問題」が起きるのではないか。

イレッサが承認される約2カ月前の02年5月、厚労相の諮問機関である薬事・食品衛生審議会医薬品第2部会で、承認の可否が議論された。非公開だったが、後に公開された議事録(発言者名は非公開)によれば、ある委員は臨床試験のデータについて、こんな疑問を口にしていた。

「それほど重篤な副作用が起こっていない、これ自体もよく分からないと私は思います。(中略)今の段階で十分作用機序(人に作用を及ぼす仕組み)が説明できているとは思わないのですが、その辺についてはいかがでしょうか。これをこのままやると、大変問題が起こるのではないか」

だが、別の委員はトーンの全く異なる発言をした。

「従来の抗がん剤にあるような骨髄抑制というのは出てきていませんし、そういう意味では副作用もそれほど心配することはないのではないかということで、やはり私はこれを開発した企業にも敬意を表したい」

もう1人の委員も、イレッサの承認審査をした医薬品医療機器審査センター(現・医薬品医療機器総合機構)に「大いに敬意を表したい」と称賛していた。議事録を読む限り、患者の命にかかわる副作用の問題について科学的な審議が尽くされたのか、疑問が残る。

また、厚労省は承認前、イレッサの製造元であるアストラゼネカ社から海外の臨床試験などの副作用報告を計196例(うち死者55例)受けながら、十分なデータを集めず、添付文書に記載もさせなかった。報告の存在が明るみに出たのは、副作用が問題化した後だった。

肺がん患者グループ「カイネ・ゾルゲン」の沖原幸江さんは「多くのがん患者は治療の主作用と副作用、それに自分の生き方を加えててんびんに掛け、治療法を選択している。死亡例の非公開は、ある意味で患者の決定権を奪う行為。薬の主作用・副作用に関する情報はすべて開示してほしい」と訴える。

最近も、あぜんとする出来事に遭遇した。3月24日に開かれた厚労省のゲフィチニブ検討会で、ア社はイレッサの推定使用患者数を突如、8万6800人から4万2000人に修正した。傍聴者から「患者数と言えばデータの土台ではないか」といった批判の声が上がった。ア社の責任はもちろんだが、2年半も前から問題になっている薬なのに、監督官庁の厚労省はいったい何をしていたのか。

いまだに使用者数も把握されていない事態を受け、一部の委員はイレッサの使用患者をすべて登録させて追跡調査するよう求めた。だが、厚労省医薬食品局安全対策課の幹部は消極的で、検討会がとりまとめた意見に「(ア社は)患者情報の把握に一層努める」という一文が挿入されただけで終わった。

この幹部はイレッサの承認審査が行われていた当時、審査を担当していた医薬品医療機器審査センターの審査部長だった。医薬品を審査・承認した担当者が後に責任が問われかねない状況になった時、今度は薬の安全性を監督するポストに座っている−−というシステムは、公正さを欠いていないだろうか。

過去、厚労省は薬害エイズや血液製剤によるC型肝炎感染が社会問題化した際、その経緯を調べて結果を公表した。あくまでも「身内」の調査ではあったが、イレッサ問題ではそれすら行われていない。

ゲフィチニブ検討会に寄せられた意見書などでは、イレッサの副作用で命を失った患者の遺族も、使用継続を求める患者も、徹底した追跡調査と情報公開を訴えている。こうした声に応えなければ、薬害を繰り返す厚労省への不信は募るばかりである。( 社会部・須山勉)

 ■ 2005年6月26 読売新聞
◇ 義務化から2か月 カルテ開示Q&A
全記録コピーもらえる 請求の理由伝える必要なし
4月に個人情報保護法が全面施行されて2か月余り。カルテ開示が初めて法的義務となり、患者は医療機関に、自分のカルテを開示するよう堂々と求められることになった。具体的には、何がどこまで認められたのか、Q&Aの形で基礎知識を紹介したい。(山口博弥)

Q カルテ開示は患者にとってどういう利点があるの?
カルテ(診療録)には、自分の病気の診断や受けた治療の内容、処方された薬の名前などが書いてある。

医師に病気の説明を受けたのに、結局よく分からなかった、という患者は多いはず。そんな時、カルテのコピーをもらってじっくり目を通せば、理解を深めることができる。別の医師の意見も聞きやすくなる。

主治医に頼んですぐにコピーをもらえればいいが、それを拒否されたら……。そんな心配が、個人情報保護法の施行で解消された。

事業者は、本人の求めに応じて、個人情報の開示・訂正などを行わなければならない、と定めているからだ。カルテのほか、手術記録、看護記録、エックス線写真、紹介状、調剤録など、保管しているすべての診療記録が対象となる。

Q だれでも、どの医療機関に対しても、カルテ開示を請求できるの?
請求できるのは原則的には本人(未成年者の場合は親も)。同意を得ていれば、家族や、委任を受けた代理人も請求できる。

開示の方法は「書面の交付」が基本で、カルテのコピーをもらうことがこれに当たる。ただし、本人が納得すれば、閲覧など別の方法でも構わない。

法が適用されるのは、5000人分以上のカルテがある医療機関。小規模の診療所は該当しない場合もあるが、法施行に先立ち、厚労省が昨年12月に作った医療・介護関係事業者向けの個人情報取り扱い指針では、こうした施設も開示請求に応じるよう求めている。

Q 遺族は開示請求できるの?
死者の情報は個人情報とならないため、法は遺族への開示を想定していない。

しかし取り扱い指針では、一昨年9月に同省がまとめた「診療情報の提供等に関する指針」の規定に基づき、遺族への開示を求めている。開示を請求できるのは、患者の配偶者、子、父母、これに準ずる人(法定代理人を含む)だ。

Q 手続きや費用は?

開示を求める手続きの方法は、医療機関が決めることができる。取り扱い指針では、「求めの方法は書面によることが望ましい」。医事課や総務課といった窓口で、書類に記入して申し込むのが一般的だ。

指針には、「(医療機関が)開示等を求める理由を要求することは不適切」ともある。「別の医師の意見を聞きたい」「医療内容に疑問があるので調べたい」など、開示を求める理由を患者が医療機関に伝える必要はまったくない。

開示手数料は、医療機関が「実費を勘案して合理的であると認められる範囲内」で設定できる。

首都圏のいくつかの病院に問い合わせると、文書1枚あたり10円、同20円とするところがあった。また、国立病院は1件あたり300円と決められている。

Q 開示されない場合は?
医療機関の苦情相談窓口に訴えてもダメなら、都道府県の相談窓口へ。

明らかな違反行為があれば、厚生労働大臣は、違反行為の中止や是正措置を取るよう「勧告」や「命令」を行い、改善されなければ「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」の罰則を科すことができる。

「すんなり開示増えた」
NPO法人「患者の権利オンブズマン」理事長の池永満さんによると、一昨年に厚労省の指針ができた後も、患者が開示を求めて医療機関に拒否されるケースが、度々報告されていた。

しかし、法が4月に施行されて以降は、「医療機関が必ずしも開示に積極的になったわけではないが、患者が請求した時の対応が大きく変わった」。

たとえば、「代理人には開示しない」と拒否する、開示請求書に「請求の目的」を記入する欄がある、など、医療機関の不適切な対応を患者が指摘すると、「間違っていた」と非を認め、すんなり開示される事例などが増えたという。

医療機関の意識を変えるには、患者側が法についてよく学び、堂々と請求していくことが近道のようだ。

 ■ 2005-07-09日 読売新聞
◇ NHKがん特集番組、誤解招く…臨床医らが意見書
NHKが放送した、がんの特集番組について、医師らのグループ「患者とともに納得の医療を目指す臨床医の会」(代表・小林一彦JR東京総合病院血液内科医長、405人)が、「番組は視聴者の誤解を招き、医療現場が混乱している」などとする意見書をNHKに送付した。

NHKは「番組で扱ったデータは正確で、誤解を与えた事実はない」としている。
同会が問題にしているのは、今年4月30日、5月1日に放送されたNHKスペシャル「シリーズ 日本のがん医療を問う」と、6月25日に放送されたETVワイド「手をつなごう がん患者と家族たち」。

意見書は▽人口の年齢構成を無視した『粗死亡率』で日米を比較しており、客観性を欠く▽番組で取り上げた抗がん剤が、病気を治す薬のように報じられ、延命薬に過ぎない現状を無視している――などと指摘し、今後の医療報道への配慮を求めている。小林代表は「番組の趣旨は評価できるが、客観的な事実をきちんと伝えて欲しい。意見書を出すことで、さらに議論を深めてもらえたら」と話している。

 NHKは、週明けにもこのグループに正式な見解を伝える方針。
(2005年7月9日21時4分  読売新聞)

◇ NHKがん特番に臨床医らが意見書
NHKが放送した、がんの特集番組について、医師らのグループ「患者とともに納得の医療を目指す臨床医の会」(代表・小林一彦JR東京総合病院血液内科医長、405人)が、「番組は視聴者の誤解を招き、医療現場が混乱している」などとする意見書をNHKに送付した。NHKは「誤解を与えた事実はない」としている。

同会が問題にしているのは、今年4月30日、5月1日に放送されたNHKスペシャル「シリーズ 日本のがん医療を問う」と、6月25日に放送されたETVワイド「手をつなごう がん患者と家族たち」。意見書は▽人口の年齢構成を無視した『粗死亡率』で日米を比較しており、客観性を欠く▽番組で取り上げた抗がん剤が、病気を治す薬のように報じられ、延命薬に過ぎない現状を無視している――などと指摘し、医療報道への配慮を求めている。

 ■ 2005年7月9日朝日新聞文化芸能欄
◇ がん特番「誤解招く」と医師ら意見書 NHKは反論
4〜5月に放映されたNHKのテレビ番組「シリーズ日本のがん医療を問う」について、がん治療に携わる医師ら405人が「視聴者に誤解を招き、治療現場に混乱を生じている」とする意見書をNHKに送った。がん死亡率の日米比較や抗がん剤の取り上げ方などが不適切だったとし、今後の医療報道の改善を求めた。8日、意見書を受け取ったNHKは「データは正確で、視聴者に誤解を与えた事実はない」と反論。週明けに文書で見解を伝えるという。

番組は大型連休中に2回にわたってNHK総合テレビで放映された。
意見書を送ったのは、医療者向けメーリングリストでの番組批判をきっかけに結成された「患者とともに納得の医療を目指す臨床医の会」(臨床医ネット、代表=小林一彦・JR東京総合病院血液内科医長)。番組は年齢構成の違いを無視した「粗死亡率」で日米のがん死亡率を比べ、日本のがん医療が米国に劣る印象を与えたと指摘。「科学的客観性を逸脱し、不適切」と批判した。

臨床医ネットはまた、今年3月に承認された大腸がんの抗がん剤「オキサリプラチン」の取り上げ方について、「同抗がん剤が効くのは進行・再発がん患者の一部で、重い副作用を伴うこともあるのに、番組が画期的な薬であるという側面ばかり紹介した結果、使用者が不自然に増えた」と指摘した。販売元のヤクルトによると、放映後の5月は使用者が4月の倍近い966人に増えた。累計では副作用死が疑われる死者が4人出ているという。

臨床医ネットの小林代表は「日本のがん医療を良くしようという趣旨は分かるが、事実を伝えないと患者のためにならない」という。これに対し、NHKは「粗死亡率を使ったのは、日本でのがん死が実数として増えている事実を伝えようと判断したため。オキサリプラチンの使用者が増えたのは患者が待ち望んでいた薬が承認され、医師が処方した結果ではないか」と反論している。 

 ■ 2005年9月13日 読売新聞
◇ イレッサ効かない人、血液で判定可能に
肺がん治療薬「ゲフィチニブ」(商品名イレッサ)が効くかどうかを血液で簡単に判定する診断法を、東大医科学研究所と広島大の研究グループが開発した。14日から札幌市で開かれる日本癌(がん)学会で報告する。

 ゲフィチニブは、治療が難しい進行した非小細胞肺がんの患者の一部に大きな効果がみられる一方、約5%に間質性肺炎などの重い副作用が起きたことが報告されている。このため、薬が効く見込みの薄い患者への投与を避けることが望ましく、簡単な診断法の普及が望まれていた。

 研究グループは、非小細胞肺がんの細胞から分泌される2種類のたんぱく質に注目。ゲフィチニブを使っている非小細胞肺がんの患者50人について、薬の効果とこれらの血中量との関係を調べた。

 その結果、二つのうち一つでも陽性と判定された22人のうち19人(86%)は、薬を使っても肺がんが悪化した。どちらも陰性と判定された28人中17人(61%)は、がんの進行が止まったり、がんが小さくなったりする薬の効果が表れた。

 これまでの検査法は、がん細胞を患者から直接取って遺伝子を調べるため、患者の肉体的な負担が大きいうえ、遺伝子を調べる特別な装置が必要だった。新しい診断法は、患者から血液を採取するだけで済み、検査部のある病院なら早ければ半日で判定が可能という。

 現在は神奈川県立がんセンターと協力して、他のたんぱく質を組み合わせるより精度の高い診断法の確立をめざしており、数年以内に実用化させる方針。

 ■ 2005年9月14日 産経新聞
◇「陽性」の3.6倍に 「イレッサ」血液診断法
「陰性」のがん患者生存期間
 患者によって効きが違い、副作用も問題となっている肺がん治療薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)の投与を受けた末期がん患者のうち、東大医科学研究所の中村祐輔教授らが開発した血液診断法で「効果が期待できる」と判定された患者の生存期間は、「期待できない」患者の三・六−二・六倍に達することが分かった。
 血液診断で効果を予測し、イレッサ投与の可否を決めるオーダーメード医療に直結する成果。投与開始約二年九カ月後の生存率も「期待できる」患者は39−25%と高く、中村教授は「同じ病態の患者が他の治療でこれだけの効果を得るのは難しい」と説明。札幌市で開催中の日本癌(がん)学会で十四日発表した。
 中村教授らは、イレッサが効かない患者の血液中に、TGFAとAREGという二種類のタンパク質が多いことを発見。神奈川県立がんセンター、広島大と共同で平成十四年八月以降、末期の肺がん患者五十人を対象にタンパク質の有無と生存期間を調べた。
 TGFAが陰性でイレッサの効果が期待できる三十五人は、投与から約二年九カ月後の生存率が39%だった。一方、陽性の十五人は約一年十カ月後までに全員が死亡、両者の生存期間は約三・六倍の差がついた。AREGでは、陰性患者の約二年九カ月後の生存率は25%、陽性患者では約二年四カ月後の生存率が16%で、生存期間は約二・六倍の開きがあった。

 ■ 2005年11月2日 日経BP
◇ 抗がん剤臨床評価ガイドラインが改訂、患者数多いがんではフェーズ3試験
抗がん剤の承認申請に必要な臨床試験の骨子をまとめた「抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドライン」が改訂され、厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知で示された(薬食審査発第1101001号、2005年11月1日)。改訂ガイドラインは、2006年4月1日から適用される。

改訂ガイドラインの最大の特徴は、「患者数の多いがん種を対象とした抗悪性腫瘍薬では、延命効果などの明確な臨床的有用性の検証が必須と考えられる」とした上で、「非小細胞肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん等で(中略)患者数が多いがん種では、それぞれのがん種について、延命効果を中心に評価する第3相試験の成績を承認申請時に提出することを必須とする」とした点。現行では、抗がん剤に関しては、腫瘍縮小効果をみる第2相試験が終了すれば申請できる。

第3相試験の方法については「生存率などのエンドポイントを用いて(中略)、対照群を設け、ランダムに割り付け、薬剤の特性に応じて可能ならば二重盲検法を採用する」と明記した。

ただし、「第2相試験終了時において高い臨床的有用性を推測させる相当の理由が認められる場合には、第3相試験の結果を得る前に、承認申請し、承認を得ることができる」とした。このような場合、承認後の一定期間内に、第3相試験の結果も踏まえて承認の妥当性を検証するが、第3相試験の実施場所は国内外を問わないこととなった。

ガイドラインの改訂に関して審査管理課は、2005年2月3日にパブリックコメントを募集していた。のべ22通(430件)寄せられた意見および回答は、電子政府総合窓口のWebサイトのこちら(http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&KID=495040148&OBJCD=&GROUP=)で閲覧できる。(北澤京子、医療局編集委員) http://medwave.nikkeibp.co.jp/regist/medi_auth.jsp?id=0/mdps/411225
 

 ■ 日刊薬業 2005年11月2日(水)
◇ 厚労省 抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法GLを改訂
厚生労働省医薬食品局審査管理課は1日付で、「抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドライン」(GL)の改訂通知(薬食審査発第1101001号)を各都道府県に送付した。1991年2月の現行GL通知から10年以上が過ぎ、その後の抗悪性腫瘍薬の開発、審査状況の変化に対応した内容に改める。GLは2006年4月1日から適用し、現行GLは来年3月31日をもって廃止する。

通知では、GLを改訂した背景を説明した上で、(1)抗悪性腫瘍薬の定義(2)抗悪性腫瘍薬の評価に必要とされる臨床試験の種類(3)承認申請時の臨床第3相(P3)試験成績の提出(4)臨床開発計画を立案するために従うべき指針(5)臨床開発に関する規制当局との相談 − などについての考え方を明記。その上で、P1試験、P2試験、P3試験ごとに「目的」や「試験担当者及び試験施設」「対象患者」「有害事象の評価基準」などの考え方を解説している。留意事項としては、新たなGLで示された方法などを開発計画に取り入れること認めるほか、「学問の進歩などを反映した合理的根拠に基づいたものであれば、必ずしもここに示した方法を固守するよう求めるものでない」などを盛り込んだ。

◇ 厚労省、抗がん剤承認に延命効果の確認義務付けへ
厚生労働省は新しい抗がん剤を承認する際の臨床試験(治験)で、患者の延命効果の確認を義務づける。抗がん剤の治験結果の評価指針をこのほど改訂、2日までに都道府県に通知した。来年4月から適用する。抗がん剤の有効性や安全性を正確に見極められるようにする。従来は腫瘍(しゅよう)の縮小効果が認められれば原則的に承認していた。欧米並みの基準にすることで世界に通用する抗がん剤の開発につなげる。

患者が多い非小細胞肺がん、胃がん、大腸がん、乳がんなどが対象となる。安全性を調べる第1相試験、腫瘍の縮小効果を確かめる第2相試験のデータに加え、延命効果を調べる第3相試験のデータを求める。海外で実施したデータの利用も認める。

患者が少なく延命効果を確認しにくい抗がん剤については、従来通り腫瘍縮小効果だけでも認める。また、第2相試験で極めて高い効果がみられた場合も、この段階で承認し、その後、承認が妥当かどうかを検証する仕組みにする。 (13:50)
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20051102AT1G0200A02112005.html


 ■ 2005年11月 2日(共同通信)
◇ 延命効果の確認義務 厚労省、抗がん剤治験で
抗がん剤の有効性や安全性を高めるため、厚生労働省は2日までに治験(臨床試験)評価法の改定指針をまとめ、新薬の申請、承認にあたって治験で延命効果を確認することを初めて義務付けた。

従来は抗がん剤を早く使えるようにするため、体への安全性を調べる第1相試験と、腫瘍(しゅよう)の縮小効果を見る第2相試験のデータに問題がなければ、承認を得られた。しかし、厚労省は「縮小効果はあっても副作用が強く、結局は延命しないケースがみられた。改善の余地は相当ある」として、指針を見直した。
より有効性が高い薬剤開発を促し、日本人の死因1位のがん対策に役立てたい考えだ。 


 ■ 2006年8月24日 くまにちコム「健康・医療
◇ 肺がん治療薬「イレッサ」 復権目指しアジア人対象に臨床試験
副作用で死亡者が相次いだ肺がん治療薬「イレッサ」(一般名ゲフィチニブ)のアジア人患者を対象にした第V相臨床試験が4月から、日本、中国、韓国など10の国と地域で進んでいる。

全く治療経験のない進行非小細胞肺がん患者にイレッサを単独投与して、安全性と有効性、認容性を評価する。イレッサは、がん細胞だけを狙い撃ちする分子標 的治療薬として、英アストラゼネカ社が開発。2002年7月、世界のトップを切って厚生労働省が承認。翌8月、同社の日本法人(大阪市)が売り出し、間も なくして副作用による死者が相次ぎ、評価が一転した薬剤だ。

◆「夢の治療薬」
イレッサは、発売前の臨床試験段階で前化学療法が無効だった進行非小細胞患者にも奏功、がん細胞が消滅した患者もいたことから、当初は「夢の治療薬」と歓迎された。

ところが、発売後2カ月も経たないうちに、服用した患者が急性肺障害や間質性肺炎などの副作用から死亡する例が相次いだ。イレッサが錠剤ということもあり、がんの化学治療を熟知していない医師が安易に使ったことも混乱に拍車をかけた。このため厚生労働省は02年12月、異例の専門家会議を設置、副作用による死亡例の分析を開始した。発売開始から4カ月足らずだった。

専門家会議は4回開かれ、03年5月、検討した内容を報告書にまとめた。イレッサを使える医師や医療施設が絞られて、厳重な管理下での使用に制限された。 厚労省によると、発売後の推定服用者は2万8000人、副作用被害者616人、うち246人が亡くなった。副作用発症率は2・2%。抗がん剤の通常の副作 用発症率は0・6〜1・0%とされるため、明らかに高率だった。

◆ISEL試験
英アストラゼネカ社は04年12月、日本を除く世界28カ国の難治性の非小細胞肺がん患者を対象に実施した大規模臨床試験「ISEL試験」の初回解析結果 を公表した。試験の実施期間は03年7月〜04年8月。対象は、化学療法を含めさまざまな療法を試みた末期の肺がん患者1692人。イレッサ服用群と偽薬 服用群を比較した結果、腫瘍(しゅよう)の縮小効果はあったものの、生存期間は5・6カ月と5・1カ月で有意な延命効果はなかった。

ただアジア人374人では、生存期間がイレッサ服用群9・5カ月に対し、偽薬服用群5・5カ月と差があり、生存期間の延長が示唆された。一方、同社日本法 人は04年12月、国内のイレッサ服用者は同年1月末現在、推定2万3500人、厚労省に報告した副作用被害者は473人(うち死者173人)と発表し た。

ISEL試験結果の公表後、英アストラゼネカ社05年1月、EUに対する承認申請を取 り下げた。03年5月に承認された米国でもFDA(米食品医薬品局)が「イレッサは、服用未経験者には投与すべきではない」とする警告を発した。少なくと も欧米では、イレッサの命脈は事実上、絶たれたに等しい状態になった。

◆解析結果、08年末までに公表
そんな中、ISEL試験結果をバネにして、イレッサの“復権”を狙うのが今回のアジア人患者に限った臨床試験だ。試験を実施する国・地域は、日本、中国、 香港、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、シンガポール、台湾、タイ。合計1212人をイレッサ服用群606人と、カルボプラチンとパクリタキ セルの併用化学療法群606人に分類し、有効性や安全性などを比較する。主要評価項目は無増悪生存期間、副次的な評価項目は全生存期間、抗腫瘍効果、副作 用など。治療経験のない進行非小細胞肺がん患者に使うファーストライン治療薬としての使用が判断される。

同社の日本法人によると、日本での被験者の群別の組み入れは既に終了、07年11月までとしている全10カ国・地域での被験者組み入れが終了すれば、08年半ばをメドに試験結果を解析、08年末までには解析データを公表するという。

日本肺がん学会は05年3月、「女性、非喫煙者、日本人(東洋人)などへの使用を推奨する」というイレッサの使用指針を決定、厚労省の検討会も追認した。 国内の肺がん死亡者は年間5万7000人。一方、今年4月に公表されたイレッサによる副作用被害者は1631人、うち死亡者643人だった。(南里秀之)

 ■ 2006年9月27日  読売新聞
◇ イレッサの副作用発症率、他の抗がん剤に比べ3倍に
肺がん治療薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)の副作用とみられる重い肺障害の発症率は、他の抗がん剤を使った患者に比べ約3倍に高まることが、イレッサを販売するアストラゼネカ社(本社・大阪市)が国内で実施した大規模な調査でわかった。

今回の調査は2003年11月から06年2月まで行われ、全国の肺がん患者4473人を登録。イレッサの代表的な副作用とされる、急性肺障害と間質性肺炎の発症率などを調べた。

その結果、イレッサを使用し3か月以内に発症したのは4%で、他の抗がん剤を使用した場合は2・1%だった。

喫煙歴があるなど重い肺障害を発症しやすい人はイレッサの治療から外されることが多いため、こうした対象患者の違いを考慮に入れると、イレッサは他の抗がん剤に比べ、発症の危険性が3・2倍に高まることが判明した。イレッサは、投薬から1か月以内の発症率が高いこともわかった。

イレッサの副作用によるとみられる死亡は2%だったが、これは主に重い肺障害が原因で、他の抗がん剤でみられる造血系の副作用による死亡は、1例もなかった。専門家は「喫煙歴以外の患者の特性もよく見極め、適切な抗がん剤を選択することが望ましい」と分析している。 

 ■ 2006年9月28日 共同通信社
<<イレッサ副作用の危険3倍 輸入販売元が日本人調査 >>
副作用による死亡が問題になった肺がん治療薬イレッサについて、輸入販売元のア ストラゼネカ(大阪市)は27日、日本人では他の抗がん剤を投与した場合に比べ、間  質性肺炎と急性肺障害の副作用が3.2倍起きやすいとする調査結果を発表した。

日本人は欧米人よりイレッサの治療効果が高い遺伝子型が多いとの報告がある一方、 副作用の危険は2-6倍程度とされてきた。調査にかかわった工藤翔二(くどう・しょ うじ)日本医大教授は「副作用に関する遺伝的背景を明らかにする必要がある」としている。

同社は2003年11月から今年2月まで、国内の肺がん患者約4400人を追跡。間質性肺炎などの副作用が起きた122人のうち、79人がイレッサを、43人がイレッサ以外の抗 がん剤を投与されており、イレッサ投与は他の抗がん剤投与より副作用の危険度が3.2倍高かった。

イレッサの副作用の多くは投与後4週間以内に起き、この間の危険度は3.8倍。また、 副作用に伴う死亡率は32%で、他の抗がん剤の28%よりわずかに高かった。同社は「投与に際しては副作用への注意を既に呼び掛けている。近く日本人での治療効果に関する調査結果も公表する予定だ」としている。 

 ■ 2007年03月28日 薬事日報
◇イレッサVSタキソテールは“異種格闘技戦”
最近、大きな話題となったゲフィチニブとドセタキセルの市販後第III相試験結果について、国頭英夫氏(国立がんセンター中央病院肺内科)は札幌で開かれた日本臨床腫瘍学会で、「もともとコンセプトの違う治療を比較する異種格闘技戦であった」とコメントした。

 この第III相試験は、ゲフィチニブの承認条件として実施されたもので、ドセタキセルに対するゲフィチニブの非劣性を明らかにすることが目的だった。しかし、非小細胞肺癌患者を対象に行われた試験では、全生存期間に有意差はなかったものの、結果的に非劣性を証明することはできなかった。ただ、副次的エンドポイントでみると、奏効率や長期の無増悪生存期間で、ゲフィチニブの有用性を示す成績が得られており、さらなる検討が必要との見解も示されていた。

 その成績を踏まえて、国頭氏は「非劣性が認められなかったことは一つの重要なポイント」とし、「副次的エンドポイントで、ゲフィチニブがドセタキセルに比べて奏効率やQOLで優れているが、その利点をもってしても、優先してゲフィチニブを積極的に選択することは推奨できない」とクギを刺した。

 この試験では、全生存期間の中央値がゲフィチニブで11.5カ月、ドセタキセルでは14カ月だったが、生存曲線をみると、投与18カ月付近で交差し、20カ月を超えるとゲフィチニブ群で生存率の高い結果が得られている。その点について国頭氏は、「症例数の設定根拠が甘く、無理がある。クロスオーバーがあるデザインであり、有意にどちらかが負けることは起こりにくい」と試験デザインを批判した。それでも、ゲフィチニブの全生存期間の非劣性を証明できなかった結果は重視すべきだとした。

 今回の試験で注目されるのは、奏効率がドセタキセル群の12.8%に対して、ゲフィチニブ群では22.5%と明らかに高かったにもかかわらず、全生存期間の延長はドセタキセル群が勝るという矛盾する結果が得られたことだ。奏効率で劣るドセタキセルが、全生存期間の延長ではゲフィチニブに勝るという結果をどう考えればいいのかが問題となった。

 そのカギを握るのが化学療法剤と分子標的薬剤の違いだ。サイトトキシックな作用を発揮する抗癌剤は、おしなべて奏効性を示す。一方、ゲフィチニブに代表される分子標的薬剤の場合は、効く患者と効かない患者が明確に分かれており、同じ抗癌剤でも作用の仕方が全く異なる。

 これこそが分子標的治療の特徴でもあり、もともとゲフィチニブとドセタキセルでは、効果と生存期間の現れ方に大きな違いがあったと考えられる。国頭氏は「今回の試験は、コンセプトの違う治療を比較したということだ。そもそもハザード比が経時的に変化するため、コックスの回帰分析になじまない試験であり、本来はこのような臨床試験をやってはいけなかった」と話し、この第III相試験を“異種格闘技戦”だったと総括した。 

■ 2007年6月1日 東京新聞
◇ イレッサ副作用死706人 02年7月の販売開始以降
肺がん治療薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)の投与による副作用と疑われる症例が、2002年7月の販売開始から今年3月末までに1797件報告され、死亡が706人に上ったことが、厚生労働省のまとめで1日、分かった。

 小池晃参院議員(共産)の質問に対する答弁書で明らかにした。
2006年度の1年間で、イレッサの副作用とみられる症例は166件、死亡は63人増えた。05年度と比べると症例、死亡のいずれも8件の増加。

 輸入販売元のアストラゼネカ(大阪市)からの急性肺障害や間質性肺炎の副作用報告を基に集計した。
厚労省は答弁書で「イレッサを使用したことで重大な副作用が発現することがあると認識している。今後も業者からの報告などにより知見を集積、内容を踏まえて安全対策を講じたい」としている。

 ■ 2007年6月19日 毎日新聞
◇ イレッサ副作用死:1200万円の賠償求め、遺族が沼津市立病院を提訴 /静岡
 肺がん治療薬「イレッサ」の副作用の十分な説明を行わず、その後の処置も不適切だったため、裾野市内の男性(当時65歳)が死亡したとして、男性の長男(30)と妻(67)が18日までに、沼津市立病院の担当医師と沼津市を相手取って1200万円の損害賠償を求める訴訟を地裁沼津支部に起こした。

 訴状によると、男性は94年4月に同病院でがんと診断され右肺を切除。03年4月に再入院した際、担当医は「イレッサ以外の治療法がない。副作用は2000人に1人」などと説明し、イレッサの投与を開始した。男性はその後退院したが、同年6月に気管支炎と肺炎で再び入院。家族がイレッサの投薬中止を求めたが担当医は投薬を続けた。同年7月、担当医は呼吸困難軽減のためとして、男性らの意思を無視してモルヒネを投与。男性は同月12日に死亡した。

 遺族は「イレッサの副作用について正しく説明を受けていれば投与させなかった」と主張している。同病院は「対応を検討中」としている。

 英アストラゼネカ社が開発したイレッサは、02年7月に輸入承認されたが、間質性肺炎や急性肺障害などの副作用が多発し、米国などでは新規投与が禁止されている。厚生労働省によると今年3月末までに1797人の副作用が報告され、706人が急性の肺障害で死亡している。【山田毅】

 ■ 日経BP社 2007年9月6日
◇ 非小細胞肺がんでゲフィチニブがドセタキセルに非劣性示すデータ発表
 白金系抗がん剤に基づく化学療法を受けた経験のある局所進行または転移性非小細胞肺がんを対象に、ゲフィチニブ(商品名「イレッサ」)とドセタキセルの効果を比較する大規模国際フェーズ3臨床試験INTERESTの結果が明らかとなった。以前に行われた日本での臨床試験では非劣性が証明できなかったが、分子標的薬と化学療法を比較する最も規模の大きい臨床試験の報告で、ゲフィチニブがドセタキセルと非劣性であることが明らかとなった。成果は9月2日から6日に韓国ソウルで開催されている世界肺がん学会議で、フランスMedical Oncology Centre R GauducheauのJean-Yves Douillard氏によって発表された。

 臨床試験は、1件または2件の化学療法(少なくとも1件は白金製剤を含むレジメン)を受けたのち進行もしくは再発した、局所進行、転移性非小細胞がん患者を対象に行われた。患者は無作為にゲフィチニブを1日当たり250mg投与する群と3週間おきにドセタキセル75mg/m2を静脈内投与する群に割り付けられた。24カ国149施設で1466人の患者が登録され、ゲフィチニブ群は733人、ドセタキセル群も733人となった。1466人のうち323人がアジア人だった。

 主要評価ポイントは、全生存期間についてゲフィチニブがドセタキセルに非劣性であることを示すことと、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)遺伝子のコピー数を比較することによって、バイオマーカーを利用した場合の優位性を示すこと。治療期間の中央値はゲフィチニブ群が4.4カ月、ドセタキセル群が3.3カ月となった。日本での臨床試験では、投薬終了後ゲフィチニブ群は36%がドセタキセルの投与を受け、ドセタキセル群は53%がゲフィチニブの投与を受けていたのに対して、INTEREST試験では、投薬終了後ゲフィチニブ群は31%がドセタキセルの投与を受け、ドセタキセル群は37%がEGFR阻害剤の投与を受けていた。

 試験の結果、全生存期間の中央値は、ゲフィチニブ群が7.6カ月だったのに対してドセタキセル群が8.0カ月、1年生存率はゲフィチニブ群が32%でドセタキセル群が34%だった。全生存期間の評価対象はゲフィチニブ群が723人、ドセタキセル群が710人で、イベント数はゲフィチニブ群が593、ドセタキセル群が576だった。ハザード比は1.020(96%信頼区間 0.905-1.150)で、ゲフィチニブがドセタキセルに比べて非劣性であることが明らかとなった。

 一方、EGFRがFISH法で陽性になった患者では、ゲフィチニブがドセタキセルよりも全生存で優れることを示すことはできなかった。また、無増悪生存期間、客観的奏効率、疾患関連症状の改善については、ゲフィチニブとドセタキセルは同様の結果が得られた。毒性については、ゲフィチニブ群の方が少ない傾向が認められた。
(横山 勇生)

 ■ 2007年9月6日アストラゼネカ社ホームページより参照
◇ 治療歴を有する進行非小細胞肺がん(NSCLC)においてイレッサ(ゲフィチニブ)はドセタキセルと同程度の有効性を示す

−治療歴を有する進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者において2剤を比較した大規模第III相試験結果より−

この資料は、英国アストラゼネカ社が9月5日、韓国で開催中のWorld Conference on Lung Cancerでのメディア・ブリーフィング時に配布したものを日本語に翻訳・再編集し、皆様のご参考に供するものです。
(この資料の正式言語は英語であり、その内容およびその解釈については英語が優先します。)
 2007年9月5日−韓国(ソウル)−
韓国で開催中のWorld Conference on Lung Cancer(世界肺がん会議)において、経口抗がん剤イレッサ(一般名:ゲフィチニブ)の投与を受けた非小細胞肺がん(NSCLC)患者の全生存期間は、静注剤であるドセタキセルの投与を受けた患者と同程度(劣らない=非劣性)であることを示す第III相試験INTEREST(IRESSA Non-small-cell lung cancer Trial Evaluating REspose and Survival against Taxotere)の結果が発表されました1。また、イレッサ投与群で重篤な有害事象報告は少なく、従来の有害事象報告と一致していました。またイレッサ投与群は、ドセタキセル投与群に比べより優れた患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を示しました。

INTERESTは、治療歴を有する進行非小細胞肺がん患者を対象とした化学療法剤との直接比較の第III相試験で、イレッサなどのEGFRチロシンキナーゼ阻害剤が全生存期間1において非劣性を示した初めての試験です。

当試験は治療歴を有する進行非小細胞肺がん患者1,466例を対象にイレッサとドセタキセルの全生存期間を比較したもので、治療歴を有する進行非小細胞肺がん患者を対象に2剤を比較した大規模第III相試験です。

テキサス州ヒューストンのMD Anderson Cancer CenterのAssistant Professor of Medicineであり、INTEREST試験の共同治験責任医師でもあるEdward Kim医師は次のように述べました。「この大規模試験により、治療歴を有する進行非小細胞肺がん患者において、化学療法と比較した場合の分子標的療法の役割が検証されました。この試験では、イレッサはドセタキセルと同程度の有効性を示し1、ドセタキセルより優れた忍容性プロファイルを示しました2。その結果、ドセタキセル投与患者に比べて、有意に多数のイレッサ投与患者において、臨床的に重要なクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の改善3が示されました。明らかに、進行がん治療は、毒性を最小限に抑えながら有効性を改善する方向に進んでいます。」

アストラゼネカはこれらのデータを規制当局に報告しています。
現在、イレッサは36ヵ国で進行非小細胞肺がん(NSCLC)の治療薬として承認されています。

1. 2007年9月に韓国ソウルで開催のWCLCで発表されたデータ(Douillard J-Yらによる)
本試験は、全生存期間におけるドセタキセルに対するイレッサの非劣性を示すという主目的を達成しました。ハザード比[HR]は1.020、96%信頼区間[CI]は0.905〜1.150です。このHRのCIは、予め定めた非劣性限界値である1.154を下回っていました(この基準はTAX 317試験から得られた全生存期間についてのベストサポーティブケア(BSC)に対するドセタキセルの優越性の50%に相当します−Shepherd FAら、Prospective randomised trial of docetaxel versus best supportive care in patients with non-small-cell-lung cancer previously treated with platinum-based chemotherapy(プラチナ製剤を含む化学療法の治療歴を有する非小細胞肺がん患者におけるドセタキセルとBSCのプロスペクティブ無作為化比較試験). J Clin Oncol 2000; 18: 2095-2103)。

有効性の副次的評価項目:イレッサとドセタキセルによる無増悪生存期間、奏効率及び疾患関連症状の改善には大きな差は認められませんでした。無増悪生存期間のHRは1.04、95% CIは0.93〜1.18、p=0.466でした。奏効率はイレッサでは9.1%、ドセタキセルでは7.6%であり、オッズ比は1.22、95% CIは0.82〜1.84、p=0.326でした。

EGFR FISH解析対象集団:374例(25.5%)がFISH解析の評価可能症例でした。このうち、174例(47%)がEGFR FISH陽性でした。本試験では、イレッサを投与したFISH陽性例の生存期間がドセタキセルより優れるという仮説を裏付けるエビデンスはコプライマリー解析から得られませんでした。FISH陽性例の生存期間は全症例とほぼ同じであり、治療群間に大きな差はみられませんでした(HR 1.09、95% CI 0.78〜1.51、p=0.620)。

2.イレッサではドセタキセルに比べ重篤な有害事象報告は少なく(22.1% vs. 29.4%)、CTCグレード3又は4の有害事象(AE)は37.3% vs. 55.9%、投与中止に至るAEは8.1% vs. 14.3%でした。イレッサに関するAE報告は、従来の報告と一致していました(最も多く認められた事象は発疹/ざ瘡及び下痢)。ドセタキセルでは、血液毒性、無力症、脱毛症、神経毒性及び体液貯留が多く認められました。

3.FACT-L(イレッサ25% vs.ドセタキセル15%、p<0.0001)及びトライアル・アウトカム・インデックス(17% vs. 10%、p=0.003)を用いた評価では、臨床的に意義のあるクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の改善がみられたイレッサ投与患者はドセタキセル投与患者より有意に多くなりました。
肺癌サブスケール(LCS)を用いた評価では、肺がんの症状の改善がみとめられた患者の割合には、治療群間に大きな差は認められませんでした(20% vs. 17%、p=0.133)。

4.   製品承認の詳細は国によって異なり、一部の国ではセカンドラインの適応を有し、化学療法既治療例に対しイレッサの使用が認められていますが、その他の国の適応では、プラチナ製剤を含む化学療法、ドセタキセルの両方とも無効となった患者に限ってイレッサの使用が認められています。

肺がんについて
毎年新たに肺がんの診断を受ける患者は135万人以上にのぼり、この深刻な疾患による死亡者は120万人近くに達します−これは乳がんと大腸がんと前立腺がんを合わせた死亡者数を上回っています。
肺がんは、他の臓器やリンパ節に転移する前の早期に発見されれば、約半数の患者は5年以上生存できます。しかし、このような早期に発見される肺がんはわずかしかなく、通常は進行してから診断され、その場合の5年生存率は約15%に低下します。 

 ■ 2007年10月5日 毎日新聞東京夕刊
◇ がん生存率:分析結果を公表 国公立の専門病院25施設
国公立のがん専門病院などでつくる「全国がんセンター協議会」(全がん協、30病院)は4日、加盟施設の胃がん、肺がん、乳がん、大腸がんの5年生存率の分析結果を公表した。このうち同意を得られた15施設については施設名を公表した。治療成績開示を求める患者の要望が強いことや、全国で同じ水準の治療が受けられるようにするための実態把握が目的という。

厚生労働省の研究班が、99年中に初めて入院した患者について、基準を満たした25施設の5年生存率を算定した。病院によって入院する患者のがんの進行度が違うため、がんが早期の「1期」と、最も進行している「4期」の比率も調べた。生存率で病院による差が最も大きかったのは胃がん。最も高かった国立がんセンター中央病院の84・1%に対し、最低は匿名施設の45・5%で、38・6ポイントの差があった。次に差が大きかった肺がんは、大阪府立成人病センターが55・5%と最も高く、最低は匿名施設の24・7%、30・8ポイント差だった。大腸がんでも23・8ポイント、乳がんで20・6ポイントの開きがあった。

しかし、胃がんの生存率が高かった国立がんセンター中央病院は1期の患者が7割を占め、最低だった匿名の病院では重症患者の比率が高かった。研究班の猿木信裕・群馬県立がんセンター手術部長は「患者のがん進行度は、病院によってばらつきがある。生存率は一つの目安であり、数字だけで比較せず、治療について医師と話すときの資料にしてほしい」と話す。 ・・・分析結果はホームページ(http://www.gunma-cc.jp/sarukihan/seizonritu/)でみられる。 




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