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2012年5月25日・大阪高等裁判所202号法廷において
薬害イレッサ西日本訴訟控訴審の判決が言渡されました
 薬害イレッサ西日本訴訟は,2004年7月15日に大阪地方裁判所に提訴,第一回裁判が2004年11月1日に開かれて以降,地裁から高裁へと審理は続き8年の歳月を費やして36回もの裁判が開かれ,この日2012年5月25日午後2時より判決が下されました。
判決主文の骨子,理由の要旨は以下の通りです。
平成23年(,ネ)第1674号 損害賠償請求控訴事件
【主文の骨子】
1 1審原告らの各控訴を棄却する。
2 1審被告会社の控訴に基づき,原判決中1審被告会社敗訴部分を取り消す。
3 上記取消しに係る1審原告らの請求を棄却する。
【判決理由要旨】
第11審被告会社の製造物責任について
1 設計上の欠陥の有無
以下のとおり,イレッサには有効性,有用性が認められるから,設計上の欠陥が存在することを理由とする製造物責任法に基づく損害賠償請求は理由がない。
(1)イレッサの有効性
ア 承認当時の知見によれば,臨床試験の真の評価項目は延命効果を中心とすべきものであっても,腫瘍縮小効果から延命効果を合理的に予測することができるものとされ,また,承認前に第Ⅲ相試験の結果を提出することは困難であることから,代替評価項目である腫瘍縮小効果から真の評価項目である延命効果を一応認めることができるが,それは市販後の第Ⅲ相試験によって確認されなければならないとされていた。
イ イレッサは,第Ⅱ相試験で単剤として高い奏功率を示し,延命効果を合理的に予測することができる状況にあったもので,承認後の第Ⅲ相試験でも第Ⅱ相試験から合理的に推測された延命効果を否定していると評価すべき試験結果はない。そして,EGFR遺伝子変異を有する患者について,とりわけ高い有効性を示し,延命効果以外の項目でも良好な結果を記録し,症例報告でも延命効果ないしQOLの改善効果を予測させるものであった。
ウ よって,イレッサの有効性を肯定できる。
(2)イレッサの有用性
イレッサは,問質性肺炎の副作用に限定すれば,投与方法,発症危険因子等による患者の選択を実施しなければ,発症頻度はおよそ5%と他の抗がん剤に比べて相当に高く,発症患者の30ないし40%が死亡するという重篤または致死性があり,さらに,投与初期に発症して致死的な転帰をたどるという副作用(本件副作用)特性があるが,副作用全体でみると死亡率は他の抗がん剤と同程度,問質性肺炎以外の副作用は軽微,血液毒性がほとんどみられないなど副作用のプロファイルが異なっており,従来の抗がん剤による副作用に耐えられない患者に対しても治療の選択肢を与えるもので,効能,効果ないし有効性に比して著しい有害な副作用があるとまでいえないから,有用性がある。
(3)ファーストライン治療への適応拡大
これは有効性,有用性の問題ではなく,ファーストラインにおける有効性,有用性が治験において確認されていないという治験情報に関する指示・警告上の欠陥の問題として検討すべきである。
2 指示・警告上の欠陥の有無
(1)致死的であることの注意喚起
ア イレッサには,本件副作用を発症する危険性があるという薬剤特性があるのに,承認時の1審被告会社は,イレッサによる薬剤性問質性肺炎の発症頻度は必ずしも高くはなく,発症しても原因薬剤の投与中止,ステロイド療法により全体としてはその9割が全快,軽快するが,症例によっては呼吸機能障害を起こして致死的となる可能性が否定できないという程度の副件用(薬剤性問質性肺炎の一般的な副作用)しか予測しなかった。
イ 承認当時の国内治験,海外臨床,EAPを含めて,副作用として扱うべき問質性肺炎の発症例は19症例で,このうち副作用死亡例として扱うべきは11例である。しかし,イレッサと死亡との因果関係が比較的明確といえるのは1例で,その他の症例は,むしろ病勢進行,感染症など他の原因により死亡したと考える方が合理的ではあるものの,イレッサとの因果関係を否定することまではできないという症例,詳細が不明なために因果関係を否定することができないという症例であった。
薬事法における医薬品の安全性評価においては,因果関係が必ずしも明確でない有害事象も副作用として取り扱った上で有用性,安全性評価が行われ,このことは製造物責任法上の欠陥(指示・警告上の欠陥)についても同様というべきである。しかし,因果関係の否定できない有害事象を副作用として取り扱うといっても,そのような副作用症例であれば,症例における具体的な因果関係の濃淡を区別せず,常に因果関係の明らかな副作用症例と同一の危険性評価をしなければならないとするのは,安全性の科学的な評価を行うゆえんでなく,安全性の評価は,個別の具体的因果関係の強弱をも考慮して総合評価すべきものである。本件では,イレッサの投与母数,死亡との因果関係の強弱を前提に,前記19症例についてこのような検討を加えた場合,ここから薬剤性問質性肺炎の一般的な副作用を超える本件副作用の予測まですることは困難であった。
ウ 本件患者らの担当医は,肺がん治療又は肺がん化学療法を手がける医師であるが,第1版添付文書の重大な副作用欄を読めば,イレッサの投与により,薬剤性問質性肺炎の一般的な副作用発症の危険性を認識できた。このような問質性肺炎が警告欄に記載されず,重大な副作用欄の4番目に記載されていたからといって,そのことによって本件患者らの担当医が,その予後が良好であるとか,致死的でないと理解するとは考えがたい。
(2)初期症状,早期診断に必要な検査・対処方法についての注意喚起一般的な薬剤性問質性肺炎の初期症状,早期診断に必要な検査・対処方法は既知知識であるから,そのような事項の記載がないからといって指示・警告上の欠陥とはいえない。
(3)特発性肺線維症・問質性肺炎等の既往症が死亡の危険性を高めることの注意喚起
薬剤性問質性肺炎の一般的副作用からそのような危険因子を読みとることができず,それは後に判明した知見によるものであるから,第1版添付文書にこれらの記載がなくとも指示・警告上の欠陥があったとはいえない。永井論文の存在から,上記危険因子が判明あるいは予測されたなどともいえない。
(4)ファーストラインへの適応拡大
イレッサの有効性と安全性については,ファーストライン治療において確認されていないことが注記されており,指示・警告上の欠陥があったとはいえない。
3 広告・宣伝上の欠陥について
1審原告らが指摘する雑誌の対談記事等の情報提供は薬事法上の広告に該当しないし,主張の前提はイレッサに設計上の欠陥,指示・警告上の欠陥が存在することを前提とするもので採用できない。
4 販売上の指示に関する欠陥について
医療機関に対し,確実な情報提供,注意喚起等を行い,重篤な副作用等の情報を迅速に収集し,必要な安全対策を実施することを主たる目的とする制度は市販直後調査であって,これに代えて又は加えて全例調査を行う必要があったとは認められない。
第2 1審被告国の責任について
1 承認の違法について
厚生労働大臣の規制権限を行使すべき義務は,製薬会社等の医薬品の安全性確保及び副作用被害防止の第一次的義務を全うさせるための第二次的・補充的義務にすぎないところ,本件ではイレッサに設計上の欠陥はなく,その販売についても不法行為が成立しないから,厚生労働大臣がイレッサの輸入・販売を承認したことは,国家賠償法1条1項の適用上違法とならない。
2 安全確保義務僻怠による承認の違法と規制権限不行使
この点についても,1審被告会社が損害賠償義務を負うことが前提となっているところ,イレッサには指示・警告上の欠陥,販売指示上の欠陥ともに認められず,1審被告会社は,製造物責任法上も民法上も損害賠償義務を負わないから,厚生労働大臣の権限行使・不行使も国賠法1条1項の適用上違法とならない。
以上
◆判決の骨子と要旨のPDF版は以下をご覧下さい。
薬害イレッサ西日本訴訟控訴審判決<2012年5月25日> 判決・主文の骨子と判決理由の要旨
2002年7月に販売が開始されて間もない頃に,私の娘もこのイレッサに大きな期待を抱き服用しました。
次の治療薬として使用しても何も問題はないとの医師の説明,そして,製薬会社から示されていた副作用に関する情報でも軽い風邪のような症状があるが服用を中止すれば改善されるとの情報を信じて,多くの患者たちは微塵の疑いも持たずに服用して,結果次々と倒れて行きました。みるも悲惨な苦しみを味わいながら息を詰まらせ亡くなっていきました。
・・販売当初に,何も知らされず医師の管理もないままに安全で素晴らしい薬と進められ信じて服用し死亡した多くの被害者が納得できる判決をと望んでいたのですが,ここ大阪高裁においてもこのような判決が出されたことに対しては残念と言う他ありません。


 戦い済んで・・・
2002年10月17日のこと,さいたま市の大宮駅に近い公立病院のベッドで,息が出来ない!,もっと酸素を流して!と,顔をゆがめ座ったまま亡くなっていった我が子のあまりにも悲惨な様子に,この原因は何なのか,何故このような苦しみが生じたのかと,親ならば・・,疑問に感じて真相を調べるのは当然。
これが,画期的な夢の新薬として販売が開始された,抗がん剤イレッサによる副作用の間質性肺炎の症状であることは,娘の三津子が死亡する直前に知らされた。
販売前から効果についての宣伝が大々的に繰り広げられ,国も審査の時間を取らないままに承認,医療の現場も前評判の宣伝を信じて,危険性の認識もないまま,医師の管理もなく自宅服用での投与が多く行われていたこと等から,副作用の間質性肺炎の発見が遅れ,まだまだ生きられる多くの命がこの薬によって奪われた。
あれから... 10年の歳月が流れた。毎日,毎日,黙々と巡礼のように同行二人の思いで訴え歩き続けた。
そして漸く終盤が見えるところにまで辿りついた。抗がん剤イレッサ副作用被害の裁判としては最後の,判決を聞くために202号法廷の中に入り席に着いた。
・・・主文,一審原告らの各控訴を棄却する。
この後続いた裁判長の読み上げる判決文の要旨が,まるで,宗派の違う経文を聞いているように耳の中に流れ込んでいた。怒りもなかった。悔しさもなかった。・・・今の時代,これで良いのだと皆が思っているのならこれで良い。そう感じていた。懐の娘の写真をそっと撫でて法廷を後にした。



・・ お問い合わせ ・・
イレッサ薬害被害者の会
代表 近 澤 昭 雄

電話・048-653-3998
FAX・048-651-8043
mail: iressa-higainokai@nifty.com
薬害イレッサ訴訟西日本弁護団
弁護団事務局長 永 井 弘 二
京都市中京区鳥丸通御地東入
アーバネックス御地ビル東館6階
御池総合法律事務所
電話075−222−0011
Fax075−222−0012