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  2005年9月20日(火), すっきりとした秋晴れの中で薬害イレッサ西日本訴訟の第6回裁判が,大阪地方裁判所202号法廷で1時15分,定刻に開廷しました。
●この日の裁判は
 今回,大阪地方裁判所における西日本訴訟第6回の裁判では,イレッサ訴訟では全国で5人目となる三重県四日市市の清水英喜さんが意見陳述を行いました。患者不在の,何も知らされない虚偽情報の中で,イレッサの抗がん剤治療で言い様のない恐怖と苦しみを経験したことの憤りを,抗議の意味と今後の抗がん剤治療の改革の為に伝え続けなければならないとの思いを込めた意見陳述です。
また,今回は,今年3月にアストラゼネカが開示した動物実験の結果から,既にイレッサの肺毒性は明らかになっていたこと,そして,今年5月にアストラゼネカが証拠提出した副作用報告においても,多数の急性肺障害の報告がなされていたことが明らかになりました。アストラゼネカも国も,こうした極めて重要な報告を,無視・軽視して,イレッサを承認・販売したのです。販売後の多数の急性肺障害による死亡は,当然に予期されたものであり,アストラゼネカと国の責任は極めて重大であることを今回の裁判で追及しました。

意見陳述書
平成17年9月20日
清水 英喜
1  わたくし、清水英喜は平成14年10月に、肺ガン治療薬『イレッサ』を服用して、間質性肺炎と言う副作用を起しました。判断と措置が早く、奇跡的に回復しましたが、現在までに、あまりに死亡者が多いにもかかわらず、薬の改良・使用制限等なんの措置も取られていないことに憤怒し、今回、副作用を味わった『生き証人』として製薬会社と厚生労働省及び遺族の方に対して、事実をお話しする為に提訴いたしました。
2  簡単な経緯をお話しします。
  私は、平成13年9月に肺ガンと診断されて、同年11月に、右肺上葉切除手術を受けました。そのときの先生の話しでは、完全に取ったし、隣のリンパにも転移がなかったので、99%再発はありません!とのことで、退院して、仕事にも復帰しました。
  翌年、平成14年3月の検査では異常はありませんでしたが、同年6月の検査で、こう言われました。『胸のリンパが7センチまで腫れていますね。余命半年です。呼吸器内科へ行ってください』と。肺ガンからリンバへ転移イコール死!どのように内科へ歩いて言ったか覚えていない位、ショックでした。追及しました
  内科の先生も同じ診断で、納得行かない私はセカンドオピニオンを求めに他県のガンセンターを訪れました。呼吸器専門の先生でしたが、やはり同じ見解で、放射線治療と抗がん剤しかないと言われて、地元の病院で治療することに決め、帰ろうとしたところ、その先生が言いました。『清水さんが治療を始める頃には、夢のような新薬が承認されますよ。今迄の抗がん剤とは違ってガン細胞だけをやっつけてくれる、画期的な薬ですよ。これで肺ガン患者は助かります。』と渡されたパンフレットがイレッサのものでした。その時は、まだ承認されていない薬だからダメだと思い、地元の病院へ戻って放射線治療を開始しました。
  放射線治療が終了する少し前になって、先生から『今後、抗がん剤治療を行いたいのですが、いかがですか?』と話しがありました。母親を同じ肺ガンで亡くし、抗がん剤の副作用も嫌と言う程見てきた私は困惑しました。そこで先生は『承認されたばかりの新薬でイレッサと言う薬があります。この薬は分子標的薬と言って、ガン細胞だけをやっつけてくれる薬で、副作用は、下痢・発疹・ごくまれに軽い肺炎があるだけです。家で1日1錠飲むだけでですよ。』画期的な薬だと思いました。理屈に合っているとも思いました。飛び付きました。そしてセカンドオピニオン時に渡された、イレッサのパンフレットも同時に思い出しました。放射線で叩いて、とどめをイレッサで!それが私の構想でした。
3  イレッサを自宅で飲み始めて2週間で軽い下痢があり、それ以外は何も症状がなかったので服用を継続しました。3週間目に熱が出始め、初めは解熱剤で下がるくらいの熱でしたが、次第に下がらなくなり、又熱も40度くらいになってきました。主治医の先生も『放射線治療をした後の回復熱でしょう。』と言うので我慢していましたが、ゆっくりと確実に症状はひどくなって来ました。水曜日に検査し、異常がまったくなかった肺が金曜日には急変!激しい下痢と席が出始めました。下痢は1日20回位トイレに行き、咳は奥底からむせ返る様な苦しいもので、熱は40度から下がらず。地獄でした。
  その金曜日の夜、生まれて初めて女房に『俺を殺してくれ!お願いだから殺して楽にしてくれ!!』と懇願していました。女房は泣きながら『そんなこと出来ない!』と言っていました。女房にとっても地獄だったと思います。
  まさに生き地獄と言う言葉が頭の中で繰り返されていました。それでも回復熱だと信じて頑張っていました。まさかイレッサの副作用とは思わずに。
  平成14年10月27日日曜日、熱が出始めて1週間、もうダメだと思い、日直で病院に居た主治医の先生に電話を入れて、女房の運転で病院へ向いました。病院に着いた頃には、とても1人で歩ける状態ではありませんでした。車イスからストレッチャーへの移動も、激しい咳で体が動かない!CT・レントゲン撮影も、ほんの少し体を動かせば、激しく咳き込み呼吸が出来にくい状態でした。
  撮影結果を救命センターのベットでモニターを見ながら待っている時、急にモニターが消えて、私は俗に言う三途の川に立っていました。川を渡りたくても飛べませんでした。暫くすると、又、モニターが目に映りました。こんな事が2回あり、夢か臨死体験かわかりませんが、本当に生死の境だったのでしょう。
  暫くして先先生が、撮影結果を持ってきて、『間質性肺炎です。病棟へ移します。』と言ってきました。『間質性肺炎?普通のはき以遠と何が違うの?』と意識朦朧としながら考えていました。病棟へ移されました私は、ステロイドの大量投与を点滴で受けました。その時、先生が女房に言っていました。『ステロイドが効くのが早いか、肺炎が進むのが早いか、場合によっては覚悟して下さい。』朦朧とした意識の中で私は、これで死んでしまうのか?今迄、必死でガンと闘いつづけて来た私に訪れた予期せぬ死。自分が戦い、負けて覚悟をして死ぬのなら納得も出来ますが、放射線治療で腫瘍が縮小し、イレッサに賭けて闘っていた矢先の予期せぬ死との直面!無念でした。なぜこんな状態で、こんな気持で死ななければならないのか?そう思いながら意識を失いました。今思えば、亡くなった方の殆どはこんな気持で逝ったのではないでしょうか。
4  何が生死を分けたのかわかりませんが、奇跡的に意識を回復した私は、呼吸困難と、ステロイドの副作用と闘うことになるのですが、これはまた別の話しですので省略します。
  今回の提訴にあたって、私も女房も凄く迷いました。その後も転移を繰り返す体、イレッサの副作用で経験した事がトラウマとなり、イレッサと言う言葉を聞くだけで、精神も肉体も不調になるこの体。正直、家族は全員提訴には反対でした。私も、なるべくならこのまま、そっと暮らして行く方がいいと思っていました。
  その私が提訴に踏み切ったのは、一本の報道番組でした。その中でアストラゼネカは『ガンで死んだのか、副作用で死んだのか分からないじゃないですか。』と言いました。必死で闘っているガン患者を、これだけバカにした言葉は無いと思います。
  ガンの患者は死んで当たり前なんですか?私のようなケースも有るじゃないですか?製薬会社ですから、営利目的なのは当然でしょう。しかし、色々な事を隠したり、安全対策を怠った事は許せる事ではありません。私は『安全は社会的責務』だと思っています。アストラゼネカはその責務を怠ったと思います。 これが提訴の1つめの理由です。
  もう一つは厚生労働省の言葉です。なぜ国の機関が国民の味方にならず、製薬会社と同じく『ガンで死んだのか、副作用で死んだのかわからないじゃないですか。』と言うのですか?おまけに600人も亡くなっているにもかかわらず、『今回の件に関して厚生労働省としては、なんの教訓も得ていません。』と顔色も変えずに、平然と言いました。こんなガン患者と言うより、命を馬鹿にした発言は無いと思います。
  厚生労働省もアストラゼネカと同じ『安全は社会的責務』を怠ったと思います。インターネットで情報を流したと言うかも知れません。しかしパソコンを持っていない人はどの様に知るのですか?ガン患者はすごく凄くお金がかかります。パソコンを買う余裕などとてもありません。ましてイレッサの様に自宅で服用する薬の危険情報などまったく知りませんでした。今はガイドラインがあると言うかもわかりません。でも確実に死者は増えています。いつまでこのままにしておくのですか?何故新規のガン患者には使用禁止、現在効果が出ている人には継続使用しても良いと言う様な対応が出来ないのですか?本当に日本人だけに効果のある薬だと思っているのですか?早く対応しないと、これからもリスクの大きいイレッサを服用するガン患者が居ると思います。それだけガンの患者も、家族も命を大切に思い、生きたいと願い、闘っています。少しでも、そんな人達の痛みがわかるのならば、1日でも早い対応を取って頂く事を、切に願っています。
  最後に厚生労働省は正しい事を行っていると思っているかも知れませんが、正しい事をしていたなら、こんなにも人から怒りを買わないと私は思います。
  長くなってしまいましたが、今日の私の陳述で、1人でも心が震え、提訴理由に賛同して頂けたら、私は幸せです。
これでイレッサの副作用から生き残った、清水英喜の意見陳述を終わります。
ありがとうございました。


●裁判終了後、近くのいきいきエイジングセンターで報告集会が開かれました
弁護団より,これまでの裁判の経緯と概要など説明して頂き,本日行われました意見陳述の中身の説明がありました。
●次回・西日本訴訟裁判期日
第7回裁判の期日は大阪地裁で12月7日(水) 午後1時15分 
202号法廷で開かれます。


イレッサ副作用死亡被害
(1)イレッサとは
イレッサ(一般名ゲフェチニブ)は、アストラゼネカ社が開発した肺ガン治療薬で、それまでの殺細胞的な抗ガン剤と異なり、癌増殖にかかわる特定の分子を標的とする分子標的薬として、承認前後から、入院の必要のない飲み薬という手軽さも手伝い、「副作用の少ない画期的な夢の新薬」として大々的に宣伝されました。イレッサの標的は、細胞増殖に関わる上皮成長因子受容体(EGFR)とされています。
(2)販売直後から副作用被害が多発
しかし、販売開始直後から、宣伝とは異なり、急性の間質性肺炎(ステロイドパルス療法が効を奏さない場合には、治療法のない致死的な疾患)等の急性肺障害の副作用症例が多数報告され、2002年10月15日には、厚労省の指示に基づき、アストラゼネカが緊急安全情報を発出し、添付文書の警告表示を改訂してきました。その後も、2003年4月までの間、アストラゼネカは、合計4回にわたり添付文書の記載を改訂し、その都度、急性肺障害に対する警告をふやしていき、原則入院処方とし、さらに急性肺障害の危険因子を記載するなどしていったのです。
(3)急性肺障害の予見可能性
イレッサにより急性肺障害が発症する可能性については、すでに臨床試験や承認前の個人輸入による使用により副作用症例が報告されており、、予見可能性があったことは明らかです。しかし、アストラゼネカは、臨床試験により急性肺障害を発症したという副作用報告やイレッサ投与により肺障害が悪化したという動物実験の結果などを厚労省に正確に伝えていませんでした。また厚労省も、海外等の臨床試験症例で重篤な肺障害を発症した事例が報告されていたにもかかわらず、そうした症例について検討をほとんど行わないままイレッサの承認をしました。
(4)アストラゼネカと国の責任
以上のように、イレッサにより致死的な急性肺障害等の副作用が発生することは、承認以前からアストラゼネカ、国ともに十分予見可能な事柄でした。したがって、アストラゼネカと国はともに、イレッサの承認、販売開始にあたっては、最低限、間質性肺炎等の急性肺障害の危険性につき、厳重な警告を行い、入院処方に限定するなど、急性肺障害の発症を抑止するためのあらゆる方途を取るべき注意義務がありました。にもかかわらず、これを怠ったために、イレッサの副作用により多くの被害者の生命が奪われたことは、きわめて深刻であり、この点でアストラゼネカと国の責任はまことに重大です。

・・ お問い合わせ ・・
イレッサ薬害被害者の会

電話・048-653-3998
FAX・048-651-8043
mail: iressa-higainokai@nifty.com
薬害イレッサ訴訟西日本弁護団
弁護団事務局長 永 井 弘 二
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西日本訴訟(大阪地裁)・第7回(2005年12月7日)裁判報告