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2010年2月26日(金)
  2010年2月26日(金)、薬害イレッサ西日本訴訟の第30回裁判が、大阪地方裁判所202号法廷で開かれました。2月のこの時期にしては珍しく気温15〜6度とコートも不要な暖かさでしたが生憎と少し強めの風雨という悪天候にも関らず満席の傍聴の中、1時30分より行われました。
■この日の裁判は
 主張・争点整理もほぼ固まったと言う事で、解り易いプレゼンティーションを用いて、原告側からはイレッサの販売開始における国とアストラゼネカの責任を明らかにすることを目的として、46画面のパワーポイントを使用してスクリーンに映し出しながら30分間のプレゼンティーションが行われ、被告・国側からは反論するフレゼンが行われました。原告側プレゼンの内容は以下の通りです。
【薬害イレッサ訴訟・被告らの承認後の責任について】
●イレッサ承認後の間質性肺炎による副作用死亡報告数
●副作用発現状況
●副作用死亡率
●イレッサ副作用死亡者数の推移から分ること
@ 承認後、短期間のうちに極めて多くの副作用被害を出した
A 特に、副作用被害者数は、承認直後に集中している
B 平成14年10月15日の緊急安全性情報発出の前後で副作用被害者数及び死亡率が減少している
・・イレッサ承認後、より迅速かつ安全対策がとられていれば、これほどの被害を出さずに済んだはず(イレッサ承認後の責任)
●イレッサ承認後の責任
1, イレッサ承認後の責任の前提 〜承認時における知見
イレッサ承認時の治験の重要性
・・イレッサ承認時において、イレッサによる副作用の危険性がどの程度判明していたかによって、イレッサ承認後に安全対策を講じるべき必要性が変わってくる
イレッサ承認後に安全対策を講じるべき必要性
イレッサ承認時における知見
@ イレッサ承認時における有効性の評価
U相承認であり、抗がん剤の真のエンドポイントである延命効果は証明されていない
・有効性(延命効果)である可能性を念頭において有効性評価を行う必要がある(相対的に安全性評価をより厳格に行う必要がある)
A イレッサ承認時における安全性評価
・重篤かつ致死的な急性肺障害・間質性肺炎の副作用を発生させることが判明しており、イレッサの危険性(安全性の欠如)は明らかとなっていた
承認時に判明していたイレッサによる急性肺障害・間質性肺炎の副作用(これまでのまとめ)
@ 臨床試験における有害事象死亡例(34/677:全体の5%)の殆どが副作用死亡
A 国内臨床試験における間質性肺炎発症例(3/133:発生率約2.3%)はいずれも重篤かつ致死的な症例
B A以外に被告・国が把握した間質性肺炎発症例7例のうち中4例が死亡例(そのうち日本人症例2例中1例が死亡例)
C 上記7例以外に被告国が見落としていた急性肺障害・間質性肺炎発症例が30例以上存在し(原告第5準備書面添付の一覧表、濱意見書(甲E25参照)、その死亡率は50%を超える
文書提出命令によって提出された資料(治験総括報告書)に基ずく濱証人尋問及び濱意見書2(甲E76)によってさらに明らかとなった事実
@ 臨床試験における有害事象死亡とイレッサとの関連がより濃厚となった
A 病勢進行死亡とされた症例の中にもイレッサによる副作用死亡とすべき症例が存在した
B 第V相0016臨床試験における「肺炎」による副作用死亡とされた症例(丙B3の10,62歳、ベルギー人女性)が、イレッサによる急性肺障害・間質性肺炎による副作用死亡例であったことが裏付けられた
(※イレッサの承認申請資料となった臨床試験においても急性肺障害・間質性肺炎による副作用死亡例が存在していた)
イレッサ承認時の治験のまとめ
@ 有効性(延命効果)は証明されておらず、安全性についてより厳格な評価が必要であった
A 安全性において、既にイレッサによる重篤かつ致死的な急性肺障害・間質性肺炎の副作用報告が明らかとなっており、副作用症例も相当程度集積され、イレッサの危険性(安全性の欠如)は明らかとなっていた
・承認後にイレッサによる致死的な急性肺障害・間質性肺炎の副作用報告がされた場合には、それが報告数としては僅かであっても、極めて迅速かつ機敏に安全対策を講じる必要があった(そうしていれば爆発的な副作用被害の拡大は防ぐことができた)
2, 被告会社の承認後の責任
承認後の被告会社の責任
1)
1,被告会社の医薬品安全性確保義務違反
製薬会社は、市販後も、当該医薬品の有効性及び危険性を不断に収集、調査し、当該医薬品の品質、有効性及び安全性に疑問等が生じた場合には、必要に応じて、迅速に、販売停止・回収、警告等の適切な措置を講じるべき義務を負う
承認前においても承認後においても(その内容は変わるとしても)安全性確保義務違反の発生根拠・存否は変わらない
市販後の副作用の評価
致死的な副作用は、たとえ1例であっても、充分に注意すべき、なぜなら・・・
我が国において繰り返された薬害から得られた教訓
・・1例の毒性情報の背後に何倍もの副作用被害者がいる
・・これは薬剤易学の常識でもある
臨床試験との違い
臨床試験は、適格基準を絞って行われる。
市販後に薬剤を使用する患者は、年齢や病状、既往症、併用薬の有無などその状況は千差万別。(予想し得ない副作用が発生する可能性は十分にある)
U相承認であることによる安全性情報の少なさ
小規模患者群によるU相試験が終了した段階で承認がされた場合
承認前に大規模な第V相試験まで行った場合と比較して、承認前に得られる安全性に関する情報は圧倒的に少ない
承認時に予想し得なかった副作用にも十分に注意する必要がある
イレッサの場合
承認時において既にイレッサの危険性(安全性の欠如)示されていた
・・・致死的な間質性肺炎の副作用症例が集積
市販後に広く臨床に使用された場合の危険性は示されていた
次々と続く間質性肺炎の毒性報告
薬価収載によるイレッサの出荷量の増大
2)
被告会社の安全性確保義務違反
2002年7月5日→・イレッサの輸入承認・・間質性肺炎による副作用報告を入手
2002年7月30日→イレッサによる副作用死亡例報告
2002年8月29日→計7例のイレッサの間質性肺炎による死亡例を把握
にもかかわらず、被告会社は、何ら安全性確保のための措置をとらず、8月30日に薬価収載し、間質性肺炎・急性肺障害による死亡被害を拡大させた。
3, 被告国の承認後の責任
医薬品安全性確保義務・・・薬事法1条、薬事法14条1項、2項等
 ・・承認時においては、「安全性が確保できないまま、医薬品の承認をしてはならない」という義務
被告国はこれを怠って承認した
医薬品安全性確保義務
・・承認時は「承認しない義務」
・・承認後においては、「安全性が確保できていないことが判明すれば、直ちにこれを確保するためのあらゆる措置をとらなければならない」という具体的義務に転化する
クロロキン最高裁判決
@ 薬事法改正
クロロキン
・・安全性確保義務は明文化されていない(昭和54年改正前薬事法)
・・承認審査について未整備、GCP(臨床試験の実施の基準)等もない
・・厚生大臣(当時)の義務、責任も明文化されていない
イレッサ
・・ 安全性確保義務が明文化
・・ 承認審査についての具体的な基準が確立、市販後にどのような点に注意すべきかあらかじめわかっている
・・ 市販後の安全性確保に対する社会的要請が飛躍的に高まっている
A 副作用の判明時期
クロロキン
・・承認後副作用症例が報告され、次第に判明していった
イレッサ
・・承認時から、急性肺障害・間質性肺炎が判明しており、しかも、審査サイドでも最も重要視(平山証人)された副作用であった。
・・承認時の医薬品安全性確保義務との連続性がある。
B 承認時と承認後の医学的・薬学的知見の相違
クロロキン
・・「医学的・薬学的知見」に相違がある
イレッサ
・・承認時から致死的な急性肺障害・間質性肺炎の発症が既に判明していた
・・基本的な「医学的・薬学的知見」に相違ない承認
承認時の責任とクロロキン最高裁判決
承認時の被告国の責任について
・・承認時の医薬品安全性確保義務違反については、そもそも規制権限不行使を論ずる余地はない
クロロキン最高裁判決・・承認時については「その時点における医学的、薬学的知見の下で、当該医薬品がその副作用を考慮してもなお有用性を肯定し得る」か否かであり、裁量論ではない。
承認後の責任とクロロキン最高裁判決
承認後の被告国の責任について
・・薬事法改正等による市販後の安全性確保の要請の飛躍的な高まり
・・承認後の医薬品安全性確保義務は、承認時の安全性確保義務と連続している
・・基本的な「医学的・薬学的知見」の相違はない
クロロキ最高裁判決・・「著しく合理性を欠く」場合は違法・・の基準はただちに適用できず、裁量権は限りなく収縮されるべきであり、少なくともその「合理性」の幅は極めて狭く解さなければならない
3. 近時の最高裁判例
近時の最高裁判例は、とりわけ、人の生命、健康の保護を目的とする規制権限については、適時・適切に当該規制権限が行使されなければならず、行政裁量の範囲を限定的に捉えて権限不行使の合理性について厳格に判断するとの立場
筑豊じん肺訴訟上告審判決(最判平成16年4月27日民集58巻4号1032頁)
「(鉱山保安)法の目的、上記各規定の趣旨にかんがみると、同法の主務大臣であった通称産業大臣の同法に基ずく保安規制権限、特に同法30条の規定に基ずく症例権限は、鉱山労働者の労働環境を整備しねその生命、身体にたいする危害を防止し、その健康を確保することをその主要な目的として、できる限り速やかに、技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものに改正すべく、適時にかつ適切に行使されるべきものである。」
水俣病関西訴訟上告審判決(最判平成16年10月15日民集58巻7号1802頁)
「主務大臣が、工場排水規制法7条、12条に基づき、特定施設から排出される工場排水等の水質が当該指定水域に係る水質基準に適合しないときに、その水質を保全するため、工場排水についての処理方法の改善、当該特定施設の使用の一時停止その他必要な措置を命ずる等の規制権限を行使するものである。そして、この権限は、当該水域の水質の悪化にかかわりのある周辺住民の生命、健康の保護をその主要な目的の一つとして、適時にかつ適切に行使されるべきものである。」
4. 被告国の医薬品安全性確保義務違反
2002/8/6
・・3例の発症(うち死亡1例)を把握
・・市販後わずか半月しか経過していない時点における死亡報告
→この時点で被告会社に問い合わせていれば、合計で8例の発症(うち死亡2例)を把握可能であった
2002/8/16
・・6例の発症(うち死亡2例)を把握
連日の副作用死亡報告
2002/8/27
・・7例の発症(うち死亡3例)を把握
2002/8/28
・・8例の発症(うち死亡4例)を把握
2002/8/29
・・9例の発症(うち死亡5例)を把握
「症例の集積」
国は、承認までに判明していた急性肺障害・間質性肺炎の多くについて「症例の集積をまって検討」としていた
・・「個々の症例で判断を下すというのはなかなかに難しい場合がございまして、症例数の集積をまって検討していくということになっているのが多いということでございます。」(平成14年12月5日ゲフィチニブ安全性問題検討会議事録、厚労省医薬食品局安全対策課長の発言
医薬品の安全性の検討と臨床試験・EAPの意味
市販直後の症例・・EAP及び臨床試験において「集積」されてきた危険性の現実化
極めて多くの危険性情報の集積があった本件イレッサにおいては、市販後においては、もはや「集積」を待つべき必要性も妥当性も存しない
被告国の責任
臨床試験、EAPによって既に得られていた症例の「集積」と市販直後の続出とを結びつけて考えることを怠った
その責任は極めて重大である
●以上が、原告側がパワーポイントを使用して行った、イレッサ販売における国とアストラゼネカの責任は重大である、主張です。原告側の主張時間は30分で終了しました。この後・被告・国の主張が同じくパワーポイントを使用して行われました。
・・国の主張で感じた違和感がいくつかありましたので述べてみます。
◆2002年10月15日・緊急安全性情報発出以前にも、注意を行うまでには至らなかったと主張。
◆承認以前に海外より寄せられた196例の副作用症例について、(症例の集積を待って検討)とした点について、間質性肺炎かどうか疑わしい症例ばかりで判断するには情報が不足していたと主張。
・・原告の主張については個々に反論し、すべて責任はないと言うのは被告側の立場からは裁判であるから当然に予想の範囲なのですが、国が大きく勘違いをしている点は、・・この薬害裁判を過去に起きた被害について審理していると勘違いをしているのではないかと思う点です。この薬害は今も尚一部の医療現場において続いて起きています。使用の承諾も危険情報も曖昧なままに良い薬として患者に使用を進め副作用による死亡が起されています。このことは、国が何ら規制・対策も取らずに販売の継続を認めているからに他ありません。この点についても国は責任を負わなければなりません。
報告集会が開かれました
裁判終了後、大阪弁護士会9階会議室に於きまして報告集会が開かれました。多くの皆さまに参加して頂き会場は溢れました。医師や薬剤師の方たち、大阪市立大学の学生のみなさん、司法修習生の皆さん、公害被害者の方たちなどほんとうにたくさんの皆さまに参加していただきました。
風雨の中、宣伝行動を行いました。
午後5時より淀屋橋南詰めに於きまして支援の皆様や、弁護団、原告ら20数名でチラシなどを配りご通行の皆様に訴えを行いました。風雨の強い悪天候の中ではございましたが、多くのみなさまがチラシを快く受け取って頂き、心より有難く感じました。
・・ お問い合わせ ・・
イレッサ薬害被害者の会

電話・048-653-3998
FAX・048-651-8043
mail: iressa-higainokai@nifty.com
薬害イレッサ訴訟西日本弁護団
弁護団事務局長 永 井 弘 二
京都市中京区鳥丸通御地東入
アーバネックス御地ビル東館6階
御池総合法律事務所
電話075−222−0011
Fax075−222−0012

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西日本訴訟(大阪地裁)・第31回・最終弁論(2010年7月30日)裁判報告