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・・肺ガン治療薬イレッサ副作用被害の実態・・
2002年8月,副作用が少なく延命効果が大きい夢のような新薬との前評判で登場した肺がん治療薬「イレッサ」で,副作用の間質性肺炎による死亡被害者が多数報告されました。その数は平成19年(2007年) 6月1日現在,副作用被害者1797人,内,死亡被害者は706人にも上っています。

●イレッサとは
「夢の新薬」,「希望の薬」と謳われて2002年8月に,がん患者の期待を集め華々しく登場した肺がんの治療薬です。治験開発名:ZD1839,一般名をゲフィチニブと言い,分子標的薬 (※解説1・最下段参照)といわれる錠剤タイプの内服薬です

イギリスに本社をおく世界的な大企業,※アストラゼネカ株式会社(日本本社:大阪市北区) から2002年1月25日,販売のための輸入承認申請が厚生労働省に提出され,同年7月5日に医薬品としては異例の,僅か半年と言う短い審査で国の承認を受けました。8月21日に中央社会保険医療協がイレッサの保険収載を承認、同年8月30日に保険適応となりました。保険適応までの、特定療養制度の中での販売価格は一錠9000円,保険適応された2002年8月30日以降一錠が7216円で、現在も各医療現場で使用されている薬です。

発売から僅か2ヶ月後の2002年10月15日,服作用による多くの死亡被害が拡大していることが報告され,厚生労働省はイレッサに関する副作用の危険情報を伝える 「緊急安全性情報」(※解説2・最下段参照) を各医療機関に出すよう製薬会社のアストラゼネカ社に指示し使用への注意を喚起しました。「副作用の少ない夢の新薬・希望の薬」であったはずのイレッサは,既存の抗がん剤とは比較にならないほど,死亡に至る重篤な副作用が発症する確立が高い薬であることが明らかとなり,「延命の効果が大きく副作用の少ない夢の新薬」と信じたガン患者に激震が走りました。

2002年8月の販売から僅か5年で706人もの死亡が報告されるという被害拡大の始まりとなったのです。

●イレッサの登場と広がり
2002年1月29日の承認申請から半年足らずという短い審査で,医薬品としては異常とも思える早期承認を受けて保険適応薬となったのは2002年8月30日ですが,承認の一年ほど前には既に様々な雑誌や新聞で数多く取り上げられ,2001年11月頃には多くのWEBサイトの掲示板でも夢のような新薬が近く登場するとイレッサは紹介されています。多少のパソコンの経験があれば容易に手の届く範囲にこのイレッサの情報は置かれていました。当時のインターネットの書き込み情報を見ると,「イレッサはこれまでの抗がん剤と比較して奏効率は数倍も高く,服用した者の中には肺ガンの影がほとんど消えた患者もいる」,「分子標的薬といってガン細胞にのみ付着するEGFRと言うタンパクのみを攻撃する薬で,健康細胞は攻撃しないから身体への負担が少ない画期的な,正に夢の新薬・希望の薬」,「皆さん・もう少しで販売されますよ,頑張りましょう」などと言った過剰期待や効果を謳う情報が溢れて何一つとして不安情報はありませんでした。時期を同じくして,新聞や雑誌でも頻繁に紹介され始め,やはり「夢のような新薬の登場」,「画期的な薬」と大々的に効果を掲載,日本を代表する著名な腫瘍内科の医師たちも学術的な対談記事と称して大きく効果を紹介するなど,がん患者やその家族,医療機関に「夢の新薬イレッサ」は浸透して行きました。

このような承認前からのイレッサの警戒感のない広がりと,異常とも言える期待感に警鐘を鳴らす医師もいて,「新薬の使用には慎重に!どのような副作用が発現するかも分からないのが新薬というもの。発売からせめて一年は慎重な使用で経過を見守る必要がある・・」との声もありましたが,このような注意喚起は,さまざまな方法を駆使した広告宣伝の前評判にかき消されて,イレッサを使用したいと願う患者やイレッサを推奨する医師たちの耳には届きませんでした。「どうせ、どこかの製薬会社の嫌がらせだ」などと掲示板には書込みすら出るほどで,このような数少ない警鐘は,使いたいと願う医師や患者達の期待感に押し潰されて,ほとんど無視され流れにかき消されてしまいました。こうして登場したイレッサは瞬く間に各医療機関で用いられ,推定投与患者数は,02年8月〜04年12月末時点で,アストラゼネカ社の報告では42.000人国内販売錠数(02年7月〜04年12月)・・554万錠が服用と言われています。

イレッサが爆発的に使用されるようになったもう一つの要因としては,2002年4月の診療報酬制度の改定により,特定療養費制度(※解説3・最下段参照)が適用(2002年7月9日)されたことも大きく原因しています。この特定療養費制度の適用とは,薬事法の承認を受け,薬価基準への収載を希望している医薬品について,一定の条件を満たせば特定療養費制度の対象と認めましょうという制度で,例えば,「保険適用外の薬や治療を一つでも受けるとそれに伴う検査や診断もすべてが自由診療となり全額患者負担となるのですが,その負担を軽減するために考えられた混合診療の制度」で,「保険がきかない治療のみが自費となり,通常の検査や治療は保険診療となる」というもので,高度先進医療,差額ベッド代,医薬品の治験に関わる診療なども含まれます。この特定療養費制度を適用した当時の坂口厚生労働大臣は,「患者と医師の双方から,イレッサを一日も早く使えるようにといった強い要望があり,薬価収載(保険適用)まで待ってもらうのは酷と判断したので適応した」とコメントしました。「副作用が少ない画期的な新薬で奏効率はこれまでの抗がん剤の数倍」といわれた臨床試験のデータや,製薬会社の巧みな誇大とも思える広告宣伝で広がった大きな期待感が,特定療養費制度を適用させる一つの規準となったのは言うまでもありません。

●承認前の医薬品の広告宣伝のあり方
医薬品は,一般医薬品,医療用医薬品の区別なく承認前の広告宣伝は禁止されています。しかし、イレッサの場合はどうであったか,さまざまな多くの問題を感じます。イレッサは,承認される前から連日のように新聞や雑誌,インターネット等で絶大な効果のみを謳い,これらは全て,見る者は信じ込み,是非とも治療に使いたいと願うように作られた承認前の広告宣伝であるのですが製薬会社では,「販売前の広告宣伝ではない,学術的な論文の発表である」と主張しています。しかし,イレッサというこの薬は、対象が肺癌の患者です。余命を宣告され,正に切羽詰った状態で前後の判断も区別も冷静には付けられない患者や家族がほとんどという中で,このように「夢の新薬」とか「希望の薬」「副作用がなく自宅で手軽に服用・延命の効果は数倍」などの情報に触れると,果たして患者や家族はどのような行動を取るかは,火を見るよりは明らかで,「全ての患者はこぞって飲みたい」と願います。

情報に飢えた患者や家族が多く集まるインターネットのガン掲示板に,誰が書き込みをしたのかは不明ですがイレッサが承認される8ヶ月も前の2001年11月には既に「イレッサ」の治験名「ZD1839」の名で頻繁に情報提供が行われ,何れもイレッサを賞賛し・最高の薬の登場と連日のように書き込まれています。この時期はまだ第二相治験半ばであるにもかかわらずイレッサに付いての詳細な書き込みをしていると言うことは,意図的に製薬会社が発売前からガンの仲間が多く集まるインターネットの掲示板をターゲットにして,禁止されている承認前の広告・宣伝を行う,インターネットを駆使した新たな宣伝方法ではないかとも言われています。

このインターネット掲示板は,パソコンの普及と共に情報の共有の場として驚くほどの広がりをみせ,この一つである「がん掲示板」も,ガンを患っている本人やその家族が集い,盛んに情報の交換をしながら治療法や病院探し,医師情報、抗がん剤情報,日本では承認されていない未承認薬の個人輸入の方法から治験参加の方法,外国で治療を受けたい患者へのノウハウなど,多岐多様に渡って情報交換に利用されある程度信頼できるサイトとして定着し多くの医師も利用・アドバイスを行っている場所です。このようなところへの書き込み,インターネットを利用した情報の広がりを,製薬会社のアストラゼネカ社では,早期承認に向けた足掛かりに利用したのではないのでしょうか。患者や家族にとっては喉から手が出るような情報を,作為的に掲示板が使われ利用されたとしたならば何とも巧妙かつ危険極まりない宣伝方法と言わざるを得ません。この販促の手法はこれから頻繁に用いられる可能性もありますが,誰が書き込み,流言蜚語を繰り返しているのか特定できない事から,規制や罰則は難しいのが現状のようです。

●情報の開示と患者の自己責任論
使用する前から,死亡する確立が高い薬と分かっていれば,ロシアンルーレットのような誰に効くのか誰が被害に遭うのかまったく不明であれば例え末期の肺がん患者と言え安易な使用は躊躇するでしょう。効くかもしれないと信じるに足りる情報があるからこそ,その情報を信じて服用するのであって,信じ込む情報を流して信じさせなければ患者は服用に至るまでの行動は取りません。どのような情報で患者たちは信じてしまったのか,承認前から現在までに出されたイレッサの効果を謳った情報を以下に記してみました。

■2001年8月,読売新聞=「肺がんの新薬・イレッサ(病巣を狙い撃ちして治療,自宅で服用出来て抗がん剤特有の副作用がなく奏効率が大きい)といった紹介記事が掲載。近畿大の福岡教授によると,98年からこの薬を使用した患者23人の内、5人にガンが半分以下に縮小と報告。

■ 2001年11月2日 朝日新聞社=新抗がん剤,肺がん治療に高い効果 近大など臨床試験・・この抗がん剤は,英国のアストラゼネカ社が開発した飲み薬「ZD1839」(商品名・イレッサ)で,がん細胞の増殖に関係する酵素の働きを妨げる分子標的薬の一つ。正常な細胞も攻撃するこれまでの抗がん剤と異なり,がん細胞のみを狙い撃つ。

■2002年5月,イレッサの治験を行っている近畿大の福岡正博教授(腫瘍内科)のグループが,イレッサを投与した肺癌患者の生存期間が延長した内容の報告。通常4〜5ヵ月の生存期間が8ヵ月に延長,40%近い人に症状の改善,副作用が比較的少ないなどが報告。

■2002年6月3日 読売新聞=Astounded(仰天した),Amazing(驚くべきこと)。先月,米臨床がん学会で発表されたがん新薬に対する専門家たちのコメントだ。イレッサは他の治療法で効果がなかった肺がんで,がんの縮小や臨床症状の改善が確認されたという。効き目も早い。乳がん,前立腺がん,大腸がんでも臨床試験が進行中だ。

■2002年12月=NHKのテレビで「抗がん剤・早期承認の波紋」が放送。この中でも,多少の副作用はあるが絶大な延命効果大と述べている。

■2005年3月=日本肺癌学会より,イレッサ使用に関するガイドラインが出され,副作用よりは延命効果を謳った報告がなされ暗に使用を推奨する発表。

■2005年3月=厚生労働省が開いたイレッサ検討会において,ここでもやはり副作用被害より延命効果を推奨する報告と使用への継続を推進。がん細胞に特定の遺伝子変異のある人や女性,非喫煙者に効果があると言い,東洋人・特に日本人には特に効果がある。

等,イレッサの効果について新聞・雑誌は連日掲載し,いずれも素晴らしい薬と謳っていました。

危険な副作用情報は小さく報告して,効果については「誰もがこぞって飲みたいと願う夢の新薬」等と誇大な表現を用いる。この情報のままに本当に「希望の薬」として患者たちが恩恵を得られる薬であったならば,多くのがん患者の命は救われ,真の「夢の新薬」となり世界中のがん医療の大きな財産となって抗がん剤治療も大きな飛躍を遂げていたことでしょう。しかし,このような期待に反する副作用がいっきに発症してしまう事態が起きた時,製薬会社と厚生労働省は,一刻も早い対応と対処は当然の責務です。しかし,今回のイレッサ副作用での厚労省や製薬会社のアストラゼネカ社は,素早い対応とは程遠く,「イレッサを使用している患者の数があまりにも多いことから,動揺を与えることにもなるので患者への配慮が必要として,大きく取り上げるのは如何なものか。ガン死であるのか薬の副作用死であるのか判断はつかない。など議論に時を費やし情報の伝達が遅れ,決して最善とは言えない状態が続いて通達も遅れてしまいました。」と後に釈明する結果になった訳です。

多くのがん患者の事を考慮したと言いながら他方では,抗がん剤医療はすべて患者の自己責任であるという。これまで繰り返し起こされてきた薬害被害と同じように,このイレッサでも「自己責任論」をよく耳にします。誰に強制されて使用したわけでなく患者やその家族が自ら決めて服用したのではないのかと。また、抗がん剤とは他の薬剤とは違って重篤な副作用が現れることは承知のはずで,服用しなくてもいずれは亡くなる確立が高い状態にあった肺がんの患者であればある程度は覚悟していた筈,とよく言われます。確かに,日本における抗がん剤治療の貧困さが言われる中で,いまだに完治できる薬剤はなく延命を主として治療を受けなければならない現状が背景にあるとしても,異常とも思えるほどの広告・宣伝で効果を強調し販売した結果,服用数日から数週間と言う短期間で多数の副作用死を出したことについて,これを自己責任と片付ける事ができるのでしょうか。

このイレッサに関して,発売前後に出されたあらゆる
記事のどこを見ても,重篤な死亡に至る副作用が起こるなどどこにも警告がなされていませんでした。
どの記事を見ても,どの雑誌をみても,テレビで扱われた対談でも「副作用の少ない画期的な夢のような新薬」と謳い,リスクについては「湿疹やただれ,下痢やかゆみ」程度と説明してこの症状は服用を中止すると改善すると書かれた情報を信じ,多くの専門医の話し・説明を信じて服用した結果の副作用被害が「自己責任」として片付けて良いものでしょうか。

医薬品副作用被害救済制度(※解説4・最下段参照)という制度がありますが,この制度の中に抗がん剤の副作用死は適用されていません。しかし,虚偽の誇大な広告で信じ込ませ,治験の際に判明していた危険情報を隠蔽して,効果のみを強調して副作用がないと販売した結果の被害は救済されるべきです。また,当然責任を問われるのが当たり前ではないでしょうか。死亡患者が706人あったと発表している事実は,製薬会社の社会的役割からしてこれを真摯に受け入れ,患者の命を守るために全ての情報の開示と再検証を行うべきです。そして,服用患者への速やかな対応を図り,被害患者に対しては謝罪,救済を行い副作用に対する対策を早急に取ることが製薬会社へ課せられた責務ではないでしょうか。

●イレッサの副作用被害が起こしたもう一つの悲劇
ガンの末期ともなるとさまざまな激痛が患者を襲うことが多くあります。その対処方として,薬による疼痛の緩和は欠かせません。塩酸モルヒネなどを体の痛みに応じて用量を調整しながら激しい痛みに苦しみ続ける多くの患者が,痛みをコントロールして生活を維持していることは良く理解しています。しかし,イレッサによる間質性肺炎に冒されて呼吸が出来ない状態の患者に対し,疼痛緩和の医療行為と称してこの種の薬を投与するとどのような結果になるか,医療関係者であれば周知の通りです。間質性肺炎の症状は切迫した呼吸苦であってガンによる疼痛とは異なります。間質性肺炎の患者には禁忌とされている,イレッサによる間質性肺炎の患者に対して行われたこの疼痛緩和という処方が,果たして医療行為の一環と言い切れるでしょうか。呼吸苦の改善に繋がると言えるでしょうか。本当に手の施しようのない助からない命だったのでしょうか。極僅かでも延命されている方が現存していることを思えば疑問は拭えません。

製薬会社を信じて,厚生労働省を信じて,医師を信じて服用させたその結果が最後の最期で,疼痛の緩和・呼吸苦の改善と言い方を変えて,自分の命の始末をつける自己決定を行うという,このような死の選択をさせなければならないとは何とむごい最期でしょうか。例え苦しさからは救える究極の選択だとしても,死を直前にしているのは事実だとしても,この方法が家族に与える苦汁,患者に与える恐怖はどんなに大きなものか想像に計り知れません。意識が比較的はっきりしている患者は自らが死への決断を行い,決断も出来ない酷い呼吸苦に喘いでいる状態の患者へはそれぞれの家族が決断する。「安楽死」ともいえる選択を行い自己決定で旅立たせたと言う現実。これが,私たちが受けたイレッサの副作用被害の残酷なもう一つの事実なのです。この薬剤使用を拒否すれば想像を絶する呼吸苦から開放してあげる事が出来ない。使用に同意すれば愛する家族を自分の決定によって殺してしまったのだと生涯にわたって消える事のない罪悪感に悩み苦しむ事になる。現にこのような遺族が多数いる事を思えば,このイレッサを販売したアストラゼネカという製薬会社は二重の薬害被害を犯している事を知るべきです。

リスクもベネフィットも開示して患者も納得した上での使用であれば,例え副作用被害に遭ったとしても作為的な情報に騙されたままに死を迎えるよりは人間らしい死を迎えられると思います。誇大広告で煽り危険情報の隠蔽で何も知らされずに信じて服用した結果,副作用の間質性肺炎にかかった患者が,禁忌の薬の処方を進められ死を迎えたという現実。この事実は,パンドラの箱を開ける結果に繋がることでイレッサの副作用被害とは別の問題である。触れてはいけないと多くの医療関係者は言います。私たちが受けた悔しさ,もっと生きたいと灯火が消えるその時まで頑張りつづけたがん患者たちが死を直前にしてなお追い討ちをかけるような,死への決断を迫られた事実・・・医療者はこれをガン医療行為の一環と言いますが,しかし・・薬害被害の副作用で呼吸苦に喘ぐ患者に対して,救命の方法がないからとして行われるこの処方が,果たして医療行為と言えるのか敢えて疑問を呈します。

●提訴の意味
あるテレビ局の取材を受けた厚生労働省の医薬食品局の当時の課長は,取材の中で今回の死亡被害について,何か教訓があるとすればどのようなことですか?との質問に,「今回の死亡被害についての教訓ですか・・,う〜ん。別に何の教訓もありません。」と,こんなに多くの死者が出ているのに教訓はないと答えました。ガン患者の命とはこんなにも軽いものなのかと悲しくなります。ガン患者の抗がん剤による副作用被害はどんなに死亡被害が多くても,現在の医療では仕方のない事として処理され,規制も処罰の対象もなく「あくまでも医療現場において適切に最善の処置を行っている」それで良いと言うのです。

こんなにも多くの被害者が出た原因は,

◇国の承認制度に問題があったのではないのか
◇製薬会社が情報の開示を怠ったことに原因があるのではないのか
◇販売前から副作用情報を隠蔽し添付文書への記載を怠ったために被害が起きたのではないのか

◇承認前から使用を煽るのみの広告宣伝は,医薬品の承認前の宣伝行為と誇大広告になるので
  ないか

と私たちは提訴を決意し大阪地裁と東京地裁で戦い続けています。世界でも初めてと言われるガン患者の集団訴訟で,特に肺がん患者は損害賠償請求訴訟としての評価は虚しいほどに低いことは予想の上で,余りにも軽く粗末に扱われた多くのガン患者の命に対して,「がん患者の命の重さ」とは何かを問い「ガン患者の最後の権利」とは何かをはっきりとさせ認めて貰う事が,今後の抗がん剤医療の改革に繋がると考えています。

●同じ被害が起きないように
イレッサの死亡被害の多発に関して,使用継続はどのように行えば良いのかを厚生労働省は「イレッサ検討会」なるものを2005年1月から3月,都合4回に渡って専門家を集め検討しました。このイレッサ検討会の中で,多くの死亡患者が出ている問題については「現在たくさんの患者が使用していることを考えるべきで動揺を与えるべきではない」,「副作用で死亡したとされる患者たちが,イレッサの副作用で死亡したとは言い切れないはずで,患者たちの容態の悪化進行による死亡と考える方が妥当で自然である」とイレッサ検討会に出席した各委員も,製薬会社のアストラゼネカも主張しました。一方では,副作用死亡の事実を公表しながら,一方では,一人一人の死亡した患者に対して,「イレッサの副作用で死亡したとは認める事は出来ない。患者たちの急激ながん進行による容態悪化が死亡の原因と考える方が自然」と言う。またしても人命無視の利益追求に走る企業のエゴと,国民不在・責任転嫁を図る厚生労働省の体質姿勢が明らかとなりました。

延命の効果が少しでも証明されていたら,このイレッサに賭けてみる価値は充分にあるのかも知れません。「あるのに使わないのはもったいない」と言った考え方も十分に理解できます。「日本人には効いている患者もいる・・」と発表しても何人に、何十人にそのような効果が出ているのかは,「解らない、データはない」と言うのです。余命半年と判断していた患者が8ヵ月生存出来たとか,ガンの縮小でQOLを保つことが出来ている患者がいる。これで充分であると厚労省も製薬会社のアストラゼネカ社も言い,未だに正確な情報を示すことが出来ないままです。一体何を以って,必要かつ有効な薬剤であると国民に示すのでしょうか。

企業の利益優先の姿勢が引き起こした今回の被害であるのに,何一つとして法的な罰則もない中で個々の副作用被害は,服用した患者の自己責任論で片付けることが出来ると言う抗がん剤の医療制度が続く限り,次もまた次も抗がん剤による死亡被害は倍増し続けるでしょう。副作用で死亡する患者も,2000人となっても3000人となってもそれほどの驚きもなく「こんなものか」程度の仕方がない死として事務的に処理され,国民の命が危険に晒され続ける事になるのではないでしょうか。平成19年6月時点で,副作用被害患者数1797人。副作用被害による死亡患者数706人と厚生労働省は発表していますが,短期間でこんなにも多くの副作用による死亡被害は,例え対象が肺がん患者とは言え過去に例がありません。

このような中,「使いたいと願う患者がいるのに訴訟を起せば,発売中止になり回収されてしまうではないか,訴訟などガン患者たちの不利益につながることで好ましい行為とは言えない」,「せっかく盛り上がった抗がん剤の早期承認の道を阻む事になる」,「訴訟など自己中心的な我ままな行動である」,とたくさんの非難を受けて来ました。「抗がん剤に多少の死亡は仕方のない事,生きている患者のことを考えるべきで,患者たちも家族も初めから承知して自己責任の中で服用した筈」と言われます。「ある程度の死亡犠牲は仕方がないだろう,余命少ない肺がんの患者であるから,一時でも生活の質(QOL「Quality of Life」)を高める要素が大きいのであれはそれで良いのではないか。」「例え死亡しても,後々に多くのガン患者のために研究として生かされるのだから」,と言われるような理屈が通れば,がん患者の命は見捨てられ,医薬品の承認制度そのものが崩れてしまう危険を多く含んでしまいます。

アメリカでは,2004年から4回に渡る大規模な臨床試験を行い,プラセボ(偽薬) (※解説6・最下段参照)群との比較試験でイレッサには延命効果は認められなかったと,2005年6月17日,FDA(アメリカ食品医薬品局)が発表して新規の患者への投与は原則禁止とし,これまでに使用して効果のあると言われている患者に対しても総て登録して慎重に結果を見守って行く指導が取られ,今現在もこの措置に変更はありません。イレッサを開発したアストラゼネカ社は,このFDA(アメリカ食品医薬品局)の発表で,自らイレッサには延命効果がなかったことを認めヨーロッパ各国に出していた承認申請を取り下げ,自国イギリスでも危険であるとまったく販売はされませんでした。こうしたアメリカやヨーロッパへの対応で,イレッサをいち早く承認し,何処よりも一番多く使用している我が国はどのように対応したのかと言うと,「確かに効いていると言う患者さんがいるから」,ということのみで死亡原因の検証に必要な全例調査も行わず,防止対策も曖昧にし継続使用を許したことで尚多くの被害が拡大してしまったのです。

また,このような被害の拡大に繋がった原因の一つに,専門医不足の問題も見逃すことはできません。2002年8月にイレッサが販売された当時のガン治療を専門とする腫瘍専門医の数は,全国でも20数名と言われていました。日本における抗がん剤治療は,欧米に比べ10年は遅れていると言われ,抗がん剤治療に何の規制も制限もなかったことから,医師免許があれば誰でも抗がん剤の治療を行う事が出来るという制度が,最も必要とされる副作用対策などについて余り知識のない医師ですらも使用したと,厚労省のイレッサ検討会の中でも報告され日本のガン医療の貧困さも露呈されました。これを機に,2005年にようやく日本臨床腫瘍学会で腫瘍専門医制度が作られ,2006年末には腫瘍専門医が120数名に増えたことが新聞に掲載されました。

多くの被害を生み,患者の命を犠牲にしたイレッサは,現在では発売当初の使用方法とは少し異なり,添付文書でも赤枠の警告欄の中で,重篤な副作用が発症すると記載・改定されています。医療現場においても,「死亡に至る副作用が多く発現する事を患者に説明して,同意を求め医師の管理の下投与を行うように」と通達が出され使用されるようになり,多少は改善されて来ました。がん治療の腫瘍専門医の数もこの数年で6000人〜7000人規模にする目標であると聞きました。初めからこのような対策と使用方法が取られていれば,706人の副作用死亡患者の数は半数にも三分の一にも減らす事が出来たのではないかと思うと残念でなりません。

●被害を訴える
抗がん剤による「薬害被害」とは,果たしてどこまでが被害といえるのかについては,それぞれの立場によって議論の分かれるところです。薬害とは「薬剤により植物体や人畜に有害な作用が及ぶこと」で,薬は人体にとって異物ですから身体に入る以上副作用も当然にあるわけです。特に抗がん剤は死亡する危険を多く含む薬である事を承知した上で使用したとしても,副作用被害で死亡した場合,家族に納得の出来る情報の提示と説明は当然のことです。しかし,イレッサを開発・販売する,アストラゼネカ社はこの事前の危険情報の開示を一切行いませんでした。

この点について,アストラゼネカ社の主張は,『情報の開示を行うと開発者の名前が分かってしまい,自国・イギリスの動物愛護団体から迫害を受ける危険な可能性が予測されるので開発者を守る必要から情報開示は出来ない』,と法廷の場でも述べ,ほとんど真っ黒に塗り潰した資料を提出,いまだに示すことも出来ないままでは信じて服用した者たちは納得することはできません。これが正当として認められれば,これを放置したままでは,安心して納得の上でのがん医療は到底望むことは出来ません。

●まとめ
2007年2月1日,厚生労働省は,多くの専門家を集め,アストラゼネカ社も参加の中,「平成18年度第2回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会 安全対策調査会における検討の結果について」なる審議会を緊急に開きました。この席で,冒頭,日本国内で行われていた大規模な臨床試験の結果が報告され,他剤
(ドセタキセル)との比較試験において,イレッサは延命効果を示せなかったと報告されました。これで,世界を含めた5回もの大規模な臨床試験の結果は全てにおいてイレッサに延命効果はないことが判明しました。特に,日本で今回行われた比較臨床試験は,「今まで出されている試験の全ては海外の試験結果であり,日本の医療現場において使用方法に違いもあり参考にならない。従って日本国内で行われた臨床試験の結果を見て,販売・使用の承認条件とする」と位置づけされた重要なものでした。しかし,この安全対策調査会の審議会のまとめでは,この試験結果についての承認条件には触れることなく,寧ろ曖昧な表現のまま又しても使用継続と決まり,使用する各医療機関に対しては「この比較臨床試験結果についての情報伝達を徹底させて,イレッサには延命の効果がなかった事を使用患者に対してはっきり伝え,同意を求めるように」としてイレッサ使用継続を決定しました。

この決定が,今後のがん医療に,がん患者に,どのような影響を及ぼすのか,また・長い年月を費やさなければならないのでしょうか。
2007年10月
イレッサ薬害被害者の会
近澤 昭雄

【用語解説】

(※)・アストラゼネカ株式会社
イギリスのロンドンに本社を置く,売上高世界第7位(2005年)の大手製薬企業で,1999年にイギリスの大手化学会社インペリアル・ケミカル・インダストリーズ社(イギリス、ロンドンのマンチェスター・スクエアに本部を置く世界有数の化学企業グループ会社で塗料から,食品やポリマー・電子部品・香料や食品添加物など機能性製品までの幅広い商品群を製造販売している。従業員は約32,000人。2008年1月2日にオランダの化学メーカー,アクゾ・ノーベルの傘下へ入った) から医薬品部門が分離したゼネカと,スウェーデンに本拠を置き北欧最大の医薬品メーカーであったアストラが合併して誕生。日本本社を大阪市北区大淀中の梅田スカイビル内に置いている。


(※解説1)分子標的薬
正常な細胞にまでダメージを与えてしまう従来の抗がん薬と異なり,病変の原因となる特定の遺伝子やたんぱく質だけをピンポイントで狙い撃ちする新しいタイプの治療薬が分子標的薬です。正常な細胞や組織への攻撃が少ないだけに副作用が少ないといわれて効果が期待されています。ただし,患者さんの細胞組織にある分子の形の違いなどでよく効く患者さんがいる反面,重篤な副作用が出てしまうなど個人によっても効き方が異なります。現在日本で承認されている分子標的薬は,非小細胞肺がんのゲフィニチブ(商品名:イレッサ),乳がんの一部に適応するトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン),慢性骨髄性白血病・一部の消化管間質腫瘍に有効なメシル酸イマチニブ(商品名:グリベック),リンパ腫の一部に適応するリツキシマブ(商品名:リツキサン)などがあります。

(※解説2)緊急安全性情報
重篤な副作用が発生した時に,医療の現場に必要な副作用情報を迅速かつ的確に伝達する為に、,厚生労働省または製薬会社の判断で緊急的に医師に配布される文書。医薬品の副作用等に関する重要情報が記載されています。通称、「ドクターレター」「イエローペーパー」とも言います。

(※解説3)特定療養費制度
保険診療と保険外診療の混在した診療に保険給付を認める制度。以前は,診療の中に保健が適用されないものが含まれると原則としてその診療全体が保険給付外とされていました。特定療養費の基本的考え方は、高度医療を含んだ療養や,特に定められた特別サービスを含んだ全療養にかかる費用のうち基礎的部分については保険給付を行い,特別サービス部分を患者自己負担とすることによって患者の医療選択の幅を広げようとするものです。既に高度先進医療などで適用され,基礎的な診療部分に対する保険給付が行われています。

(※解説4)医薬品副作用被害救済制度
医薬品の使用に伴い生じる副作用被害について民事責任とは切り離し,迅速な救済を行うため,医薬品製造業者等の社会的責任に基づく共同事業として創設された救済制度で,この制度では,今後発生するかもしれない副作用被害に備えて,すべての医薬品製造業者等が拠出を行い発生した副作用被害の救済を行うという制度ですが,この制度の中には抗がん剤は含まれていません。

(※解説5)間質性肺炎
間質性肺炎とは、肺胞を取り囲んでいる「間質」という組織に炎症が起きたときに使われる診断名です。間質の炎症がすすむと肺は堅くなり縮んで小さくなるため肺活量が減少します。さらに進行すると肺胞での酸素と二酸化炭素の入れ替えができなくなって、呼吸不全に陥ることもあります。 間質性肺炎の原因はいろいろあり,アレルギー性のもの,突発的な原因不明のもの,薬剤性のもの,放射線によるもの,などがあり間質性肺炎をもともと持っている人は抗がん薬の使用が限られることがあります。どの抗がん薬でも副作用として間質性肺炎が起きる可能性はあり,抗がん薬の種類によって頻度は異なります。間質性肺炎の兆候を早期に発見するためには,自覚症状としては咳嗽や発熱や呼吸困難感があり,血中酸素濃度の測定や胸部レントゲン撮影や胸部CT等を行うことが大切です。

(※解説6)偽薬(placebo)
プラセボは薬と同じにみえるよう作られた物質ですが薬の成分は入っていません。 プラセボは本物の薬とそっくりにみえますが,デンプンや砂糖のような不活性物質でできています。主に調査研究で用いられています。



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