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浜医師主尋問(弁護団報告)
弁護士 中島 康之 
1 平成19年3月6日午後1時15分から,原告側証人として浜六郎医薬ビジランス研究所所長の主尋問が行なわれました。浜医師は大阪薬科大学招聘教授,日本臨床薬理学会の研修指導医などとして活躍してこられ,薬害を防止し科学的な医薬品のあり方を啓発することに携わってこられた方です。
2 浜医師は,まず「医薬品の有効性は確実に,危険性は鋭敏に」という基本的な考え方について証言されました。
3 非臨床試験について
  イレッサのドラッグデザインとしては上皮成長因子受容体(EGFR)の阻害剤とされていたが,EGFRは臓器の機能維持にとって必要不可欠であり,生体の成長等に重要な役割を果たしていること,これを阻害することは生体に悪影響を及ぼす可能性があることを指摘されました。そして,EGFRを阻害する以上,生体に対する毒性は避けられないのであるから安全性については十分に注意を払わなければならなかったと証言されました。
  次に,動物実験については,臨床試験で特に注意すべき毒性を把握することなどが目的であるから,動物実験において1種類でも毒性が生じた場合にはヒトにおいても同様の毒性が生じるかもしれないとの前提で評価しなければならないと証言されました。そして,イレッサにおいてはヒト容量に換算した場合にさして差がない用量でも毒性が表れていることから,臨床試験を行なう際にも毒性について慎重な注意を払う必要があったと指摘されました。
  イレッサの毒性を示唆する所見を切り捨てるようなアストラゼネカ社の態度こそが薬害を生み出すものに他ならないと厳しく指摘されました。
4 臨床試験について
  臨床試験で安全性を検討する際には,中止例については被験薬と有害事象との関連が否定できないと考えるべきであるし,またあらゆる有害事象については被験薬との関連を十分に注意すべきである。特にイレッサのような新しい作用機序を持つ物質の場合何が起こるか全く予想できないことからあらゆる有害事象との関連を考えておく必要がある旨証言されました。
  そして,個々の症例を詳しく検討することによってイレッサと肺障害との関連が一層明らかになった旨を証言し,動物実験の結果や前段階の臨床試験から得られた知見をもとに,たとえ個々の治験担当医がイレッサと関連なしと報告した有害事象死亡例についても,アストラゼネカ社としては当然にイレッサとの関連を考えなければならなかった,と指摘されました。
  さらに,明らかにイレッサの副作用による間質性肺炎の発症例が多く報告されていながら「症例の集積を待って検討」として安全性について検討しなかった厚労省の対応も批判されました。
5 第V相試験について
  ISEL試験について東洋人のサブグループ解析で延命効果が示唆されたとのアストラゼネカ社の主張に対しては,そもそもサブグループ解析自体が仮説に過ぎず,また東洋人のサブグループ解析については患者の背景が偏っており比較試験にならない旨指摘されました。また,EGFRに遺伝子変異がある患者には有効であるなどという議論に対しても,これまでのデータからはEGFR遺伝子に変異がある患者に対しても生存期間の延長は認められない旨証言されました。
  さらに,承認条件とされたドセタキセルとの比較試験においても非劣性が証明できなかったこと−非劣性試験とは比較相手よりかなり大きなハンディをもらって比較相手よりも劣っていないことを証明する試験であるが,その試験ですら有用性が証明できなかったことを指摘されました。
6 因果関係について
  イレッサと肺傷害との間には,動物の毒性試験や薬理学的治験・多くの臨床データなどから,時間的関連,一致性,強固性,整合性が認められ,因果関係が認められる旨証言されました。
以上