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 ◆ ガン患者の命の重さを問う =イレッサの副作用被害を検証する=
被害拡大の経緯
イレッサの副作用による死亡被害が(2009年3月時点)787人に上っていることが,4月24日の厚生労働省の発表で明らかとなった。2002年7月から販売開始された当時のイレッサの使用には異常とも思える処方が行われて被害は拡大したのだが,現在でも重篤な副作用の間質性肺炎が発症する事実を伝えないままに推奨して,死亡している患者は少なくない。当時の勢いはないとしても,未だに安易な服用を希望する患者は後を絶たない。
 厚生労働省は,2002年7月のイレッサ発売開始から2008年3月末時点の,急性肺障害や間質性肺炎など,副作用被害と思われる副作用報告数を発表した。報告された被害者数は2058人で,内・死亡人数が787人であると発表した。2002年7月の発売開始から5年半でこの死亡被害者は,例え,抗がん剤といえ異常な被害数である。製薬会社のアストラゼネカ社では,「決して驚く数値ではない」と言っているが,以下に,既存の抗がん剤の中でも,特に副作用による死亡率が高く,使用するには慎重さが求められているゲムシタビン (ジェムザール)と比較してみた。
薬剤名 副作用症例報告数 内死亡数
 ゲムシタビン (ジェムザール)
販売開始・・1999年8月
1064名 118名
ゲフィチニブ (イレッサ)
販売開始・・2002年7月
1460名 606名
(平成16年11月30日までに厚労省に報告された薬剤別被害についての2剤を比較)
副作用症例報告数にはそれ程差はないが,死亡数では何と5倍以上も数に差がある。これほど多くの死亡被害が多発しても尚,イレッサは癌治療には貴重な薬剤として推奨されている。
厚労省は,安易な使用に対する注意として・・設備の整った医療機関で専門医による処方で入院4週間が望ましいとしている。また、厚生労働省のホームページで公表されている被害数を、その都度私たちのホームページに於いても掲載して注意を促してはいるのだが,それでも尚,死亡被害は拡大している。
厚労省が承認している薬であるのだから使用を推奨する医師が多いのも当然で,抗がん剤治療の現状からすればある程度は止む得ないと思うことではあるが,私たちの会に届く多くのイレッサ服用の相談メールを見てみると,処方している医師の説明不足や知識不足,また酷いケースでは,ガン患者に対する命の軽視とも思える例も少なくない。
いくつか例に上げてみると,
副作用についての説明はあったが服用が始まって10日,診察がなく不安。
副作用について尋ねると嫌な顔をされるので聞きづらい。
公表されている死亡被害について不安に感じ医師に尋ねたが,そのような記事は誤りだから信じてはいけないと言われた。
効くタイプと害作用が出易いタイプがあると聞いたが,何の検査もなく服用が始まった。
自宅で服用しているのだが、医師からは何の注意もない。
一日一錠を好きな時に飲めばよいと言われたが,これが本当に抗がん剤なのか。
自宅で,高齢の母が服用しているのだが時々飲んだのを忘れて一日2錠飲む時もある。
微熱が続き,咳も出て息苦しいが服用続けている。
体力が落ちて横になることが多くなってきたので,粉にして飲ましている。
処方する医師の側からすると,何か異常が感じられたら患者から言ってくるだろうと思っているのかも知れないが,副作用の中でも重篤で最も注意を要するといわれる間質性肺炎と言うことを思えば,患者が異常を感じて言って来た時は既に手遅れになっている事が多いのは死亡数からも証明されていることである。処方する以上は,くれぐれも医師が副作用に対する細かな注意をしなければ取り返しがつかない事態にもなる。患者の中には医師に進められたから危険はないのだろうと,服用に同意している患者も少なくない。もう他に治療方がないからと,強く勧められて服用している患者も多くいる。仮に、副作用が発症してもきっと先生が何とかしてくれるだろうと信じている患者が多くいるのも現実である。このような服用の経緯を一括りにして,患者が自ら望んで使用していると全てを患者の責任とすることに対しては,これは誤りである。
急性肺障害・間質性肺炎として以下のような症状が現れる 
 ◇息苦しく少しでも多く酸素を吸い込みたい感じで呼吸が荒く速くなります
 ◇全身に赤い発疹が出て,酷い皮膚のただれや水泡があります
 ◇痛みを伴うとか吐き気がするとかの症状は患者さんにより出る人もいます
 ◇風邪の時のような咳や発熱が出る場合があります
 ◇一日に何度となく酷い下痢に悩まされます
 ◇口の中のただれ<酷い人は食事も水すらも取れないほどです>
 ◇血尿が出る患者もいます
2002年7月の発売開始からの急性肺障害や間質性肺炎などの副作用報告年次別死亡者数数
250
180
202

175

80

51

38
45
200
150
100
50
2002年
7月〜12月
2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年
厚労省に報告のあったイレッサの副作用による死亡を表したものであるが,販売開始から三年間に副作用による死亡が集中している
間質性肺炎は、レントゲン撮影と酸素数値を計れば発症しているかどうか大体分ると言う。被害にあっても,早い対処によって多くの患者が救命されている事実を思うと,医師はイレッサの処方にはやはり,厚労省の通達を出来得る限り守るべきである。
効いたけれど被害にあって死亡したのではそれは治療とは言えない。薬とは言えない筈である。効果のみを強調するのではなく,他のどの抗がん剤よりは間質性肺炎による死亡被害が多く出ている事実をまず医療側は認識して,患者には危険情報の全てを伝えるべきである。これらの情報に納得して患者が使用の意思を示して初めて,自己責任での服用と言えるのである。
私たちが主張している被害について,家族が被害にあったという感情論からホームページなどに被害を大きく拡大して不安を煽っていると言っている医師も少なくない。また、訴訟を起こし係争中であることから自らの裁判を有利にするために被害を大袈裟に取り上げているとも言われているのも悲しい事である。しかし、思えばこのような誹謗や中傷はこれまで起こされてきた幾多の薬害被害には常に見られて来た悲劇である。
これらの誹謗や中傷は,攻撃者は常に正義と信じてやっているのだからどうにも始末が悪い。被害者達やその家族は,反論することも出来ずにただじっと身を潜め我慢を強いられてきた。薬害被害の歴史の中で繰り返されてきたことである。
●安易な抗がん剤の使用で副作用死しても訴えることは難しい
●ガンという病気の治療で起きた副作用は、予め危険は承知していたから
●抗がん剤の副作用被害で亡くなったのか、ガンの進行によるものか判定が出来ないから
●本人が納得した上で使用したのだから
●主治医には大変にお世話になったから
●亡くなってしまった以上ゴタゴタしたくないから
などの理由がアンケート調査に寄せられています。
中には、・・間質性の肺炎には罹ったが苦しむことなく安らかに亡くなって行った。当人も満足していると思うから、と回答を寄せている。・・・この回答に、活動と調査を始めた当初は、ハテ? と違和感を持った。何故ならば、間質性肺炎とは副作用の中で一番恐ろしいもので、医師が最も怖がる副作用と言われているもの、患者の半数以上が窒息死で七転八倒の苦しみの中で死亡すると言われる副作用。それなのに、苦しむことなく亡くなって行ったと言う患者が何故か意外と多い事に疑問を感じた。

敢えてここに、亡くなる一ヶ月前に撮影した、娘・三津子の写真を掲載いたしました。イレッサ服用から25日目の写真です。この後、間質性肺炎が発症し亡くなりました。ここまでに何か症状みたいな物はなかったのかとよく聞かれますが、当人もそれ程の副作用と思われる違和感は訴えていませんでした。この後・・少し風邪でもひいたのかなと感じる程度と、いつもより息苦しさを感じていたようでしたが間質性肺炎などは
思いもよらず見過ごして、いっきにまさに坂道を転がって行くように苦しみの中に転がって行きました。それはそれは毎日呼吸が出来ないと苦しみ、もっと酸素が欲しいと訴えながら二週間をもがき続け亡くなって行ったのです。

でも、前述の方のように「・・間質性の肺炎には罹ったが苦しむことなく安らかに亡くなって行ったから当人も満足している・・」と言う方が殆どなのである。このイレッサによる副作用の間質性肺炎の被害は個人差があると言うのだろうかと疑問に感じた。

多少の個人差はあるが服用開始して数日後に上記・服用同意書に記されている副作用の症状が現れる。患者によってはたいしたこともない人もいれば、食事を摂ることも困難、いや水さえも飲めないといった口の中のただれで苦しんでいる患者や、皮膚のただれや発疹で塗り薬を貰って塗り続けても全く効果がなく、眠ることも出来ないと訴える患者も多くいる。この症状は。服用を中止すると徐々に改善されて行くが、患者には・服用していないからガンが進行するのではないかといった不安は大きい。


抗がん剤をめぐる3つの薬害事件
抗がん剤を開発、利用していく中で過去に起こった事件を紹介してみます。

★ソリブジン事件
1993年 フッ化ピリミジン系抗がん剤 5−フルオロウラシル(5−FU)と抗ウイルス剤 ソリブジン を併用した患者さんの間で薬物間相互作用が原因と見られる副作用で死亡例を出した事件、 いわゆるソリブジン事件(1993年9月)で合わせて15名ほどの患者さんが犠牲に なりました。ソリブジンは、代謝酵素 ジヒドロチミンデヒドロゲナーゼ という酵素を 阻害するため、5−FUと併用すると5−FUの血中濃度が上昇し骨髄抑制などの副作用が 強くあらわれるというものです。

この事件の原因は、ソリブジンを処方した医師の知識と経験が不足していたこと、薬剤を監査する薬剤師の情報収集不足もありますが、この不幸を招いた最大の原因は、副作用の臨床試験データの隠ぺいでした。
そのうえ自社株が下がる前に売り抜けをした「インサイダー取引」までしていた会社側の姿勢と厚生労働省の怠慢です。
この事件の後、ソリブジンは医療界から追放されました。

★塩酸イリノテカン事件
1994年 抗悪性腫瘍剤“塩酸イリノテカン注射液”の臨床試験中に投与後、激しい腹痛と血便を伴う副作用のため55人が死亡する事故が発生しました。(塩酸イリノテカン事件 1994年)
そして、またもや厚生省の指導のものに作成された文書には「ときに致命的な経過をたどることがある。」程度の記述だけで、死亡率データも記載も無し、厚生省に対する情報の開示も拒否すると言う隠ぺいが起こりました。

この薬は激しい副作用が有るとして一時は医療界から追放されたのです。・・・しかし最近になって再び医療界に戻ってきてしまいました。
(現在、イリノテカンをめぐって医師の間では、有用であると見る賛成派と、危険な薬と見る反対派で意見が分かれています。)
塩酸イリノテカンの副作用

★イレッサ事件
肺がん治療剤イレッサを服用中の患者さんに重篤な間質性肺炎、肺障害などが発生し 死亡した事件で、この副作用のため2003年までに約180名ほどが犠牲になりました。
これほどの死亡事故を出しながら、本剤がいまだに肺がん治療の首位の座を占めています。
イレッサの副作用

この3つの事件は、いずれも抗がん剤の副作用から患者さんの死を招いたものです。
病気を治すはずの薬で死を招いたことは、残念であり決して有ってはならないことです。
これは、抗がん剤そのものが悪者というよりも、医療を提供する病院、薬局の管理体制の問題に加え、医療機関において患者さんの命があまりにも軽く扱われているということが根底にあると思います。

抗がん剤は元々「毒をもって毒を制す」薬品で、諸刃の刃です。使い方を誤るとこのような事件を引き起こす危険性のある薬だという認識の甘さが招いた事件です。
医療提供者側が薬剤情報、併用禁忌情報などをよく認識し、患者さんの状態をしっかりと診てあげれていれば、防げたケースが多いはずです。

一部の医療関係者はこう言います。この件は触れてはいけないパンドラーの箱だと